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9th play
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涼からのメッセージで約束の時間が迫っていることに気が付いた。
『今バイトおわった! そんまま行くわ。なんかいるもんある?』
『とりあえず廃棄の弁当一つ』と返す。振り返るとミザリはくわーっと欠伸をしていた。警戒心などまるで無いその姿に、少しだけ口元がゆるむ。
「今から来るって」
「例のお友達?」
「うん。多分十分もかからないと思う」
「な、なんか緊張してきた……」
そう言うとミザリは胸に手を当てた。
そして髪を手櫛で整え始める姿を見つめながら、友達に彼女を紹介する時ってこんな感じなのかな……などと考える。
想像するのは実現するはずのない未来。
『この子俺の彼女』
『はっ、初めまして……!』
自分の腕にぴったりと体を寄せながら、遠慮がちに会釈する彼女。
『お、お前! こんな美人な彼女捕まえやがって! うらやましすぎる! くっそー!』
親友の祝福に恋人同士の二人は顔を見合わせて笑う。
『でも……』
しかし目の前にいる親友の顔は次第に曇っていく。
『やっぱりこの子、行方不明中のアイドルだよな』
そして親友は冷たい目で航大を見下ろした。
『っていうことはお前、犯罪に関与してるってことになるんじゃないの』
「っ……!」
「航大くん? どしたの?」
頭の中でこだまする涼の言葉。甘い妄想は瞬く間に打ち消され、心臓は握り潰されたように痛む。航大は自身を落ち着かせるように、はーっと息を吐き出した。
馬鹿だ。ひと時の甘い時間に現を抜かして、自分自身に迫る危機を忘れかけていた。
「大丈夫? 航大くん」
「あ、ああ。平気平気」
その時、玄関のチャイムが鳴った。
玄関を開けるとそこには涼が居た。
両手にぶら下げたビニール袋からは、弁当の他に経口補水液やゼリー飲料なども入っている。
「おつかれ。体調どう?」
「おかげさまで。ほら、上がれよ」
「お前ん家めっちゃ久しぶり。はー涼しー」
涼は家に上がるとそのまま真っ直ぐPCの方に向かった。まさかゲームが既に起動していると思わなかったのか、画面に映るミザリを見て涼は驚いたように声を上げた。
「おわ!」
「こっ、こんばんは……」
涼の声に驚いたであろうミザリは身を縮こまらせながら小さく頭を下げる。
「こ、こんばんは」
涼は航大とミザリを交互に見つめ、感心したように呟いた。
「こりゃ、すげぇ……確かに行方不明中のアイドルに酷似してるな」
涼は手元のスマートフォンに映し出された山本未莉沙の写真と画面のミザリを何度も見比べていた。初対面の男にじろじろと見つめられるミザリは、居心地の悪そうな顔を浮かべている。
「首元のホクロまで一緒だ」
するとミザリは隠すように首元をサッと手で覆う。
「そ、そんなに見ないで下さい」
恥ずかしそうに下唇を噛む仕草に、涼はあわてて画面から目を逸らした。
「ご、ごごごめんごめん! そんなつもりじゃなくて!……って、ゲームのキャラに何動揺してんだ俺は!」
模範のように狼狽える姿に、航大は「分かるぞその気持ち」と心の中で呟いた。
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