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山本未莉沙
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しおりを挟む無数に焚かれるフラッシュ。
こんな時にでもアイドルのスタート地点に立ったあの日の栄光を思い出してしまう。しかし皮肉にも、あの日訪れていた報道陣よりも今日会見に集まった人数の方が遥かに上回っていた。
私は着慣れない真っ黒のリクルートスーツの袖を震える手でぎゅっと握った。鋭く点滅するカメラのフラッシュが糾弾するように目の奥を突き刺し、思わず倒れそうになる。私はなんとか足をふんばりながら乾いた唇をわずかに開いた。
「ほ、本日はおいそがしいところお集まりいただき、まことにありがとうございます。この度は関係者各位に多大なるご迷惑をお掛けいたしましたことを先ずは謝罪させていただきます。大変申し訳ございませんでした」
頭を深く下げると、カシャカシャカシャとテレビの中でしか聞いたことのないようなシャッター音が耳を劈く。
被害者であるはずなのに、まるで加害者だ。
乱れた呼吸を整えていると、背後に立っていたマネージャーが未莉沙の背中を優しくさすった。
「山本未莉沙はまだ万全の体調ではないので、今回の会見は席に着かせていただきます。また事件のダメージも今も尚負っている状況ですので、くれぐれも発言の配慮をお願い致します」
マネージャーは私に目配せをすると、席に座るように促した。
アイドルの現場にいた時には見たことがないテレビ用の大きなカメラ。責任感だけでカメラを構える人達の獲物を狩るような視線に心を抉られる。
やっぱり、会見をするなんて言い出さなければ良かった。
私は手元に用意したタブレットで、今回の事件について日記形式でまとめたファイルを開いた。これらを自分の口で説明しなければならないのか。
口に出すことで絶望的な日々を思い出し、狂ったように泣き叫んでしまうかもしれない。それでも私にはこの会見を開く意義があった。
『ミザリ』
画面越しでしか見たことのなかった人。それでも、自分の命を懸けて私をあのゲームから救い出してくれた人。
もう、助けられるばかりなんて嫌だ。
私は顔を上げ、そして前を見据えた。
「それでは、今回の事件について私の方から説明させていただきます」
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