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第2章・出会いと別れ
第11話・英雄
しおりを挟む「ぬあっ……!」
突如として襲い来る頭痛に顔を顰める。ユキを鑑定した時とは違い、祝福の詳細やスキル名だけでなくその効果や条件までもが一瞬にして頭に流れ込んできたのだ。恐らくはそのあまりの情報量に、脳の処理が追い付いていないのだろう。
「ウィル、大丈夫?」
「あ、ああ……」
幸いなことに、頭痛はすぐに消えた。そして頭の中で整理された情報が明らかになる。
名前・ウィリアム・エリード
種族・人間
年齢・18歳
保有魔力・大
加護・従魔術士
特殊
・創造神の祝福
鑑定眼のスキルを行使可能。
・闘争神の祝福
剣術超級、体術上級と同等の能力を発揮可能。
・慈愛神の祝福
回復魔法初級、修復魔法初級を行使可能。
・自然神の祝福
属性魔法中級を行使可能。
保有スキル
・従魔契約
術者が選択する任意の相手を種族、性別、年齢など関係無く自身の従魔とする。
契約の階級は奴隷、部下、盟友の3種類があり、種類によっては対象の性格が契約のタイミングで改変されることもある。契約後の階級変更可能。
従魔の契約可能数はテイマーの魔力量に依存する。
・念話
契約中の従魔に限り、遠距離間での意思疎通が可能となる。意思疎通可能距離は術者の魔力量に依存する。
・感覚共有
契約中の従魔の視覚、聴覚を術者の感覚と共有させる。持続時間、距離は術者の魔力量に依存する。
・従魔術式【一式】
契約中の従魔が戦闘不能状態になった時のみ発動可能。対象となる従魔の能力値を引き継ぎ、従魔の持つスキルを一時的に行使可能となる。
常時発動スキル
・意思疎通特級
極一部を除く動植物との意思疎通が可能となる。
・魅了耐性特級
術者及び契約中の従魔に対する魅了、隷属系魔法を無効化する。
「これはまた、随分と豪華だな……」
得られた情報によれば、鑑定眼のスキルや剣術超級、体術上級など神の祝福による恩恵は言うまでもなく、従魔術士としての能力も凄まじいものだった。
まず驚くべきは従魔契約が契約対象の意思に関わらず成立させることが可能な点だ。ユキは契約状態が「盟友」となっていたから、契約時にも彼女の意思を確認する過程があったのだろう。しかし契約における階級の存在を知った今、こちらがそれを奴隷や部下として契約を行おうとすれば相手が拒否していても関係無いということになる。対象の性格が改変されてしまうという点も含め、使い方を誤れば取り返しのつかない事態を引き起こすだろう。
次に目を引いたのは常時発動スキルだった。常時発動スキルそのものはさして珍しいものでもなく、動植物との意思疎通に関しては元々自分が望んだものだからさして驚きはない。しかし2つ目のスキル、魅了耐性特級というスキルはその異質さに驚かずにはいられなかった。
基本的に魅了や隷属といった魔法は、人間ではなく魔族が扱うものとされている。中には魔族の力が込められた呪物的な魔具により人間にもそれらの魔法が使えることがあると聞いたが、そんなケースは数えられるほどしか存在していないのだ。このスキルが発動する機会など来ないに越したことはないが、あの世話焼きな神様たちは無駄な事はしない。いつかこのスキルが必要になる時が来るということなのだろう。
最後に従魔術式【一式】というスキルだ。はっきり言って、このスキルが最も異質かつ強力だった。従魔術士という形式上、術者は従魔を戦闘における主戦力として扱うはずだ。祝福による剣術や属性魔法は例外として、本来は従魔が倒れれば術者は敗北したに等しいはず。しかしこのスキルが存在することで、現状ならばユキが倒れればその能力を俺が扱うことができるということだ。そもそも霊狼族という特殊な種族である今のユキが持つ強力なスキルの数々を、今の俺が扱えるようになれば強いというレベルではなくなる。これは自惚れではなく危機感だ。
従魔の契約数が魔力依存で絶対数に決まりが無いのならば、魔力を増やせばそれだけ多くの従魔を使役することができる。そしてそれが多ければ多いほど、力尽きた従魔が多いほど術者である俺の能力が強化されるということになる。同一スキルの複合など聞いたこともないが、もしも国がこの事を知れば間違いなく俺は実験材料にされるだろう。
戦争において倒れた者の数が多ければ多いほど戦闘力が上がるスキルなど、それだけで戦局を覆しかねない必殺の力なのだ。いくら王家と良好な関係にあるエリード家と言えど、国の未来が掛かっているとなればこちらの意見など関係無く従うことを強いられるだろう。
ーーーこれだけはバレちゃいけないな……。
『鑑定眼』のスキルを持っていることは隠しておきたかったが、『従魔術式【一式】』のスキルが鑑定紙により周りに知られることを避けるためならば仕方がない。少なくとも『従魔術式【一式】』が知られるよりは、大きなトラブルは起きずに済むだろう。
「能力はどんな感じ?」
1人でブツブツと喋っていると、肩にもたれかかったままのユキが不思議そうな顔で聞いてきた。
「えーと……」
相棒として、また唯一の従魔として自分の能力を教えておきたいとは思う。しかし鑑定紙も無い現状で、口頭でこの内容を全て説明するのは中々に骨が折れるだろう。
そんな時、保有するスキルの中に役に立ちそうなものがあったことに気付いた。
「そうだ、感覚共有……これを使えば……」
説明によれば術者が従魔の感覚に入り込む能力だが、その原理ならば逆の効果、ユキが俺の感覚に入り込むことも出来るはずだ。鑑定眼を発動した状態で視覚を共有させれば手間も省ける。
「ウィル?」
「ユキ、口で説明するのは大変だから従魔術士のスキルを使ってみようと思うんだけど、いい?」
「うん、いいけど……どんなスキルなの?」
「感覚共有って言ってね。術者と従魔の視覚とか聴覚を共有させるスキルなんだ」
「へ~、すごい便利そう」
ユキの言う通り、このスキルもまた大きな可能性を秘めたスキルだ。従魔術式【一式】と同じく魔力量依存のこのスキルは、魔力を増やし従魔の契約数を増やせばそれだけ感覚共有できる範囲が広がるということになる。複数箇所の情報を一度に収集可能となれば、斥候や見張りなどでも大きな効果を発揮するだろう。
やはり従魔術士のスキルに関しては『従魔契約』以外は隠しておく方が良さそうだ。それ以外のスキルは強力が故に利用価値が高く、公にしてしまえば求める人間は際限なく寄ってくるだろう。
「たぶん魔力の流れを逆にすればできると思うんだ。ユキ、俺の方に魔力を少し流してくれる?」
これに関しては感覚的な話だが、契約後、俺とユキの間には魔力の繋がりが出来ているようだった。感覚共有や念話なども恐らくはこの魔力を媒体として発動すると考えられる。つまりスキル発動時にこの魔力線に流す魔力を逆向きにすれば、スキルの効果も反転させることができるはずだ。
単純な考え方ではあるが、魔法というものはトライアンドエラーが基本だ。ダメならば次の手を考えればいい。
「うん、分かった」
さすがはユキと言うべきか、魔力線を通して感じる魔力の流れは淀みなく安定している。そこを逃さず、スキルを発動させる。
「『感覚共有』、視覚拡張」
スキル発動時のみ自分の魔力を込め、継続用の魔力はユキから送られてくるものに任せる。
「わぁ……すごいねこれ」
ユキが目を見開き呟いた。どうやら成功したようだ。
「良かった、上手くいったね」
「四神の祝福なんて私初めて見た。随分と気に入られてるんだね」
ユキのその言葉は本心から出たようだった。その後もスキルの内容などを夢中で眺めていた彼女だが、やがて魔力を止めると再び口を開いた。
「なんかすごいトラブルになりそうなスキルばっかりだね」
「そうなんだよなぁ……」
滅多に見ないユキの苦笑いに、がっくりと肩を落とす。普段からクールなユキがこんな顔をするということは、もはや予想ではなく確信に近いものを感じているのだろう。それは俺も同じで、隠すつもりではあるがいつか必ず面倒事が起きる気がしてならなかった。
与えられた能力に文句を言う気など毛頭無いが、やはりあの老神は力の調整が苦手らしい。
「まあ退屈はしなさそうじゃない?」
「はは、まあそうかもね」
ユキの精一杯のフォローに、今度はこちらが苦笑い。とはいえ、心のどこかで高揚しているのも確かだ。強大な力を与えられ、成すべき目標もある。頼りになる相棒も、大切な家族もいる。
こんな状況でワクワクしない男がいるだろうか。いや、いるわけがない。きっと彼も、最初はこうだったのだ。自分の未来に期待し、歩み、世界を、そして人々を救ったのだ。そして英雄と呼ばれるに至った。
ーーー俺もあの人みたいになれるかな。
その男は勇者の加護を与えられし人間の希望。かつて魔族を相手に戦い、そして両種族の和平を掴んだ英雄。
彼の名は「スレイヴ」。正式には「スレイヴ・リグ・アルフィーリア」。
その血と意思は今も尚、どこかで受け継がれている。
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