Fatal scent

みるく汰 にい

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15話

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「わ、思ったよりグロテスク……」
「あははっ、確かに、オオグソクムシ見たかったの?」
「うん、水族館に最後に来たのが弟とだったんだけど、迷子になっちゃって見れずじまいだったんだ」
「やっぱり弟いるんだ、清水」
「いる、1人。この間の愛想ないのが弟なんだ」
「あぁ、心くんだっけ?兄弟かなーって思ってた」
「よくわかったな、あんまり似てないのに」

「似てるよ」と東雲の指先が目元を撫でる。愛おしそうに見つめてくる東雲に思わずに顔を逸らしてしまう。いつだって東雲は甘いんだな

「……ペンギン見に行こう」

 そう言ってペンギンエリアへと移動していく。

「ペンギン……すごい迫力」
「うん、綺麗だね」

 大きな水槽の中、一斉にたくさんのペンギンたちが泳ぎだす。空を飛べない鳥と言われるにはあまりにも自由で美しく飛ぶペンギンに釘付けになる。

「ペンギンって番になるとそのまま一生を添い遂げるらしいよ」
「へぇ……すごいね、自由に泳いで好きな人と暮らし続けるのか、素敵だ」

 羨ましい、ぽつりと小さく呟く。好きな人と一生を添い遂げるなんて、憧れてしまう。ぼくには出来ないことだ。じっと水槽を見つめる清水の手に力が入る。東雲は微笑んだまま握り返してくれた。


「清水、そろそろ閉園だって。帰ろっか」
「うん、お土産も買えたしもう大丈夫」

 楽しい時間はあっという間に過ぎてもう帰る時間。チケットをくれた西村へのお土産を抱えて東雲の家に行く。久しぶりの水族館も楽しめた、と満足しながら歩いていると「璃暖?」と声をかけられた


 あぁ、楽しい時間だったのに…今日は厄日だ。


「久しぶりだね…弥生」

 綺麗な男を侍らした元彼、藤堂 弥生が目の前にいた。朝の男のように見定める視線を送る藤堂に思わず東雲の後ろへ隠れてしまう。

「次のアルファをもう見つけたのか」

 ニヤニヤと笑いながら東雲を見る藤堂に、思わず「そんなんじゃない」と声をかけてしまう。

「は?お前俺に反論するの?」

 何度も聞いた冷たい声に体が強ばる。今まではこれが当たり前だと受け入れ、我慢していたけれど今では違うとわかる。東雲のおかげでどれだけ蔑ろにされていたか理解したのだ。

「その服も、俺好みじゃねえなぁ」
「もう君にぼくのことなんか関係ないだろ」
「さっきからなにお前、なんで俺に歯向かうの?……お兄さんもさぁ、つまんねーっしょ、こいつ」
「っ、やめて」
「マグロで声のひとつも出さないし」

 やめてくれ

「可愛げねーよな」

 嫌だ

「こいつみたいにもうちょい可愛げのあるオメガなら良かったのに」

 悔しくて、苦しくて、やめてほしくて、息の仕方を忘れたようにひゅうっと息が出来なくなる。東雲に聞かれたくない。俯いて藤堂の顔も東雲の顔も見れない。

「本当に見る目がなかったんですね」

 頭上から聞こえてくる冷たい声に思わず東雲の顔を見る。目の前の藤堂を睨むように一蹴している東雲は、隠れている清水の顔が藤堂に見えないように抱きしめた。

「それかアルファとして不甲斐ないだけ、とか」

 さらさらと清水の髪を撫でながら、でも声には圧をかけて東雲が続ける。

「可愛いですよ、清水は。小さなわがままも、我慢する嬌声だって全部愛おしい、どろどろに甘やかして俺なしでは生きていけなくなればいいと思うほどね」

 それが、ぼくを守るためだとわかっていても、藤堂のことなどどうでもよくなるほど嬉しくて恥ずかしい。違う意味で東雲の顔が見れなくなった清水が顔を東雲の胸板に押し付ける。

「まぁでもそれももう貴方が見ることはないですけどね。ほら、行こう清水、用事なんてないよね?」

 うんうんと頷いた。出てきそうになっていた涙も東雲のおかげで引っ込む。藤堂に対しては怒りを含む静かな怒声で話していたのに、清水に話しかけるとなると途端に柔らかい声へと変わり、藤堂のことなど見せない、と言わんばかりに腰を抱いて遠ざかっていく。

 いつからか藤堂のことなど考えなくなっていた。考えるのは東雲の事ばかりで、都合がいい関係なんてただ自分が傷つかないための言い訳でしかなかった。また傷つきたくない、東雲に提案された都合のいい関係の中で自分だけが本気になるのが怖かったのだ。だから蓋をして溢れないように零れないように閉まっていたのに、自覚しても抑え込んでいたのに、こんなに綺麗な人への好きを隠すなんて出来るはずがなかった。

 たとえ守るために吐かれた愛おしいや可愛いという言葉でも嬉しいと思ってしまう。本気であれと願ってしまう。嘘だとわかっていてもそういう所を好きになってしまったのだ。
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