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3章 地獄の日々

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 佑三は、仙千代を部屋に入れてから、気が気ではなかった。
 いつもこうして伽の部屋の前で待っているのは辛い。自分の身を責められるほうがはるかにいい。
 今日は、義政が何を用意しているのか、佑三は知っていた。義政から自慢気に見せられたのだ。その仙千代を責めるために作られた男型のおぞましさに反吐が出そうになった。
 なんというものを作らせるのだ! どうして、そこまで思いつくのだ! 義政に対して激しい怒りが沸き上がる。人のすることか!
 こんなもので、仙殿が……。己に使われた物よりも更に大きい。しかも逆の鱗……。仙千代は、耐えられるだろうか……。余りに哀れで、代わってやりたいと、今日ほど思った事はない。
 それでも、仙千代一人を部屋に入れ、ここで待機するしかない。それは血の出る思いだった。
 佑三は己の無力さを呪った。呪いながら、部屋の中の気配を探った。
 それは、いつにもまして地獄の苦しみだった。しかし、ここで待つことこそ、佑三にとっては、仙千代の苦しみを共有することだった。
 仙千代を部屋に入れてからは、自分が呼ばれるまで離れた所にいてもよかった。しかし、佑三は少しでも仙千代の近くにいたかった。それが、佑三にとって仙千代の苦しみを分かち合うことだった。
 そんなことをしても、仙千代の苦しみが減るわけではない。完全な自己満足、それでもよかった。例え離れた所にいても、仙千代のことが気になって、何も手につかないのも分かっていた。

 どれだけたったのだろう……恐ろしく長い時が過ぎたように思える。物音や、話し声が僅かに聞こえるが、はっきりとは聞き取れない。
 佑三は焦れた。胸をかきむしる思いだ。
 すると、義政の𠮟責する声が聞こえた。仙殿……おそらく入れることができないのだろう……当たり前だ! あんなもの!
 佑三は、手を握りしめ、怒りと悲しみに耐えた。わしが泣いてはいかん……仙殿……仙、仙殿。

 やがて仙千代の喘ぎ声、そして泣き声が聞こえ、佑三は、更に地獄の深みに突き落とされた。

 義政と側仕えの者達が部屋から出てきて、無言のまま去っていく。佑三は頭を下げて見送り、姿が見えなくなると、すぐに部屋へ入った。
 仙千代は意識を失くしていた。その身には、張型が入ったままだ。
 佑三は慌ててけより、張型をできるだけ刺激にならないように、ゆっくりと抜いてやる。しかし抜き去った時の刺激で、仙千代の意識が戻った。

「許して、いやっ……ゆ、許して……」
 半ば錯乱状態で、縋り付いてくる。
「仙殿、大丈夫じゃ、わしじゃ、佑三じゃ」
「あっ……ゆう、ゆうさん……」
 佑三は、仙千代の背を宥めるように優しく、擦ってやる。仙千代の荒かった息が、少しずつ落ち着いてくるのを感じる。
 このままでいたい。こんまま抱きしめていたいと思ったが、このようなところを見られたら、またどんな仕置きを受けるか分からない。
 わしはいいが、仙千代に害を及ぼしてはいかん、そう思った。
「仙殿、湯殿へいこうか? 体を清めて湯で温まった方がいいじゃろ」
 
 二人にとって、湯殿で仙千代の身を清めることは、取り敢えず今日の地獄の終わりの証ではあった。
 明日も地獄の苦しみはやってくるが、今日の苦しみは終わった……ほんの束の間の安らぎであった。

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