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8章 城落ちる

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 そんな成利に、羽島は、畳みかけるように言う。
「津田様は、現在西への攻勢で手一杯でございます。援軍もままならないでしょう。ここは、竹原様、松川様に付くのが得策かと考えます」
「そなた、津田様が西を平らげたら、こちらに向かうとは考えぬのか」
「それには、どれ程の時間がかかりましょうか。簡単ではありませぬ。それに、それを見越して竹原様も、より強固に守りを固められております。守りだけでなく、攻勢も強め力を増しておられます」
 こいつはだめだと、成利は思った。全く、情勢の見極めができていない。己の見識との相違が甚だしいばかりじゃと思う。
 成利は、津田はいずれ天下を取ると思っていた。今はまだ途上なれど、西が片付けば、後は一気に進むだろうと思っている。故に、津田との同盟は、絶対に守り通す。それが、家を残す道だと思っていた。
 それを今、津田から離れたら、今までの苦労も水の泡。竹原や松川が滅びるのは、むしろ望むところだが、我が高階家が道ずれになるわけにはいかない。
 そもそも、竹原が執拗に高階に手を伸ばすのは、津田からの攻撃に備えてのことだ。大高城など、最前線の砦くらいにしか考えていない。それが、何故分からぬ……。
 竹原や、松川から、甘言を弄されたか……。
 大方、城代でも餌にされたか……あり得るな。もし、そうなら、哀れな奴じゃ。城代になっても、ほんの束の間。あっという間に、津田に滅ぼされる。
 おそらく津田は、来年早々にも東への攻勢にでる。今から一年もない。その時、どちらに付いているか、その立場で、その後の命運が決まる。
 逆に考えれば、それまで、持ちこたえるなら、良いのじゃ。必ず、勝機はある。成利は、己で、己の気持ちを奮い立たせた。
「わしは、津田様との同盟は解消しない。故に、竹原、松川の話には乗れない。断りをいれろ」
「攻め入られてもいいと!」
「籠城の準備をしろ。無論、津田様への援軍要請を出す!」
 成利は、誰にも有無を言わせぬ勢いで、断固として言い切った。

 成利の勢いに、平伏で応えたものの、羽島は苦々しいばかりの思いだった。
 なんとしてでも、成利を駿河に行かせる……それが、竹原、松川との密約だ。それが履行されれば、晴れて、この大高城の城代。いずれは城主にという約束だった。
 成利はああ言ったが、羽島には、津田が西を平らげるのは、かなり先のこと。いや、出来ぬかもしれないとも思っていた。
 そして、竹原も松川も、れっきとした守護大名。新興の、津田とは違うとも思っている。松川義定を討ち取った戦での大勝利もあったが、それほど津田朝頼を評価していなかった。敵が多すぎるとの、思いもある。
 しかし、この羽島の心情は、竹原や松川らの、甘言に弄された故でもあった。決して、出来ぬ男ではないが、いや、なまじ出来るだけに野心が邪魔をした。野心をくすぐる甘言に、情勢の見極めを邪魔されていた。
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