どうしようもない僕は報われない恋をする

月夜

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三章 雫ポイズン

快感と海

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毎回喉を焼かれるからだ。
喉を通る度にとんでもない痛みが私を襲う。
筆舌に尽くしがたいほどの激痛が。
体を蝕み、苦しみばかり与えてくる。
でも苦しみさえ乗り越えてしまえば。
私は美しい鱗を得ることが出来るから。
しかし、次第にその苦しみが快感へと変わっていった。
毒が喉を通る瞬間に私の喉を焼く痛みが気持ちよくて、飲めば飲むほど背筋にゾクゾクとした快感が走る。
どうやら精神がついにおかしくなってしまったようで。
生物は環境に適応するように出来ているらしい。
どうやっても切り離せなどしないこの行為に意味を見出そうと体が適応した結果だ。
痛みに快楽を見出すことで依存し、離れなくする。
この行為に意味を持たせる。
そんな風にこの体が変化した。
それと同時に鱗が美しく輝く。
あぁ、綺麗だなぁと思うのと同時に、どうしてこうなったのかを思い出せなくなっていった。
自分がかつて何であったのかも、何もかも。
思い出した所でもう終わっている己に絶望するだけなのだから。
忘れているほうがまだましだった。
まだ救いといえたのだろう。
そうはいってももう、後の祭りであったし。
どうでも良いと思っていた自分もいた。
人魚の国に配属されたのもその時期だ。
何かの声がしたかと思ったらゆらゆら揺れ始めた。
妙に揺れる足場に何事かと首を擡げようとしたが、何故か箱は開かない。
そのままゆらり、ゆらりと揺れた後、ゆっくりと沈んでいった。
どうやら海に投げ捨てたようで。
まったく、酷い扱いだなと思う反面、私は捨てられたのかと思った。
まぁ、それでもかまわないが。
もうどうなろうが私には全く関係ない。
このまま死んでしまっても構わないと思っていたから。
ただもう、毒を飲めないというのは悲しかったけれど。
せいぜいその程度だった。
薬漬けの爬虫類の考える事なんて所詮そんなものなのだ。
下らないものなのだ。
沈むうちに歪んで隙間が生まれた箱。
私はその後、箱から少し頭を出した。
這い出すように。
にゅるりと這い出て周囲を見回した。
箱ごと送られた私を見た人魚は、ただ首を傾げるばかりだった。
指を差し、これはなんだと尋ねる個体。
怪しげに眺める個体。
怖がり近づかない個体。
反応はそれぞれ違った。
共通していたのは私に対して『興味』を持っている事だった。
興味を抱くだけで何もしない。
それってまるで死んでいるのと似ているなと思った。
私が言うのもなんか違う気がして。
そのちぐはぐさが面白くて笑った。
途端に興味は恐怖へと色を変えた。
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