どうしようもない僕は報われない恋をする

月夜

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四章 雪闇ブラッド

第三十六話

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美空が笑いながら僕に手を伸ばす。
あごの下をくすぐられる。
良い子、なんて言われながら。
好き。
そう口に出してしまいそうになった。
好き、好き、大好き。
この気持ちがどこから出ているのかわからないけど。
「もしかして、俺にもっと酷いことされたいんですか?ふふ、変態じゃん」
美空の瞳が意地悪く歪む。
こんな顔をすうるのは僕の前だけ。
僕のため。
僕が喜ぶから。
そこに深い愛を見いだしてしまう僕は終わっている。
でも、どこか望んでいたのかもしれない。
こうなることを。
こうやって扱われることを。
自分の感覚の答えが出てしまいそう。
この手紙の主のアテネへ抱いた感情とは全然違う。
そんなものよりももっとドス黒くて、おぞましい。
純粋なんてそんな言葉で表せない。
ドクドクと心臓が脈打つ。
苦しい、苦しい、気持ちいい。
美空の手が僕の首へ向かう。
両手が添えられて、少し力が加えられる。
ねぇ、もっと強くして。
美空の手で僕を殺して。
僕を壊して。
僕と言う存在を深く深く植え付けてよ。
一生忘れないくらいに。
段々と締め付けが強くなっていく。
頭のなかはずっとふわふわしてしまう。
このまま本当に死ねてしまえそう。
どうせ呪いで死ねないだろうとか、そういう言葉は消えた。
でも。
そんな僕の願いなんて叶えないとでも言いたげに。
美空のは段々弱まっていった。
どうして?
どうして僕を。
美空は僕を愛していないの?
ねぇ。
僕を殺してくれれば良いのに。
美空は僕をそっと抱き締める。
「俺はちゃんとあなたを愛していますよ。この想いが嘘だと言うのなら、この心臓を潰したって良い」
美空はそう言う。
死ぬなんて、
「死んじゃ駄目だよ美空。美空が死んだら、僕はどうすれば良いの?」
すがるような目でそういう。
鞭と飴。
僕らの関係は歪み切っている。
きっと本来ならこんな歪みきることがなかった。
本来の僕ならきっとうまくやれてた。
けれど僕はこっちの方が良い。
ここまでぐちゃぐちゃで、醜くて、目も当てられない恋の方が良い。
心から美空を信じていない癖に愛しているなんて言う僕と。
僕のためならなんでもしてしまえる美空。
いびつで、未完成で、美しい。
この世界で尤も狂っているであろう感情。
それが愛なの?
狂ってるよ。
けど、僕らのあるべき形としては一番綺麗なんだ。
一番綺麗で、完璧で、美しい。
美空が宝物を扱うような手つきで僕に触れる。
それが妙に心地よくて、離れられない。
僕を絡めとる。
「そろそろいきましょう?みんな心配していますよ」
美空に手を引かれてあるきだす。
かすかに聞こえた物音なんて気にせずに。
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