吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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二章

紅葉狩り

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 森の木々も少しずつ色づく頃になった。紅葉狩りが楽しめる季節となった。

 現在、一号店の庭にダンジョンの面々で集まり、薄く色づいた紅葉を見ながらバーベキューしている。楽しく飲み食いして話しながら、ダンジョンの眷属同士の親睦会みたいなもんを行っている。

 仕事があるので一部参加していない面々もいるが、後で交代で参加できるように配慮している。みんなで楽しいひと時を過ごしているぜ。

 一号店の仕事はいいのかって? それはいいのだ。客が来ないからな。いつものことである。

 全ては一号店の近場一帯に住んでいたゴブリンたちを皆殺しにしやがったあのクソ冒険者たちが悪いのだ。あの野郎め、俺の宿のお得意さんたちを皆殺しにしやがって。今思い出してもちょっとイラつくぞ。

「ご主人様、エデン村の村人たちの血も粗方回収したところですし、そろそろ新たな拠点を築いたらどうでしょうか?」

 色づく木々と同じくらい朱に染まったワインを飲みながら、ゆったりとした気分で紅葉に見入っていると、エリザがそんな話を切り出してきた。

「エデン村でのレベリングはそろそろ限界かな?」
「ええそう思いますわ」

 エデン村に拠点を築いてからというもの、日夜問わず、俺とエリザは村人の血を吸い続けてきた。
 二号店の宿泊客の血を吸ったり、こっそり人家に忍び込んで血を頂戴したり、人気のないところにいる村人にスキル【魅了】を使って誘惑して血を貰ったりもした。

 おかげでかなりの成長を果たすことができた。【伐採】、【裁縫】、【農耕】といった新しいスキルをラーニングできたし、その他、ステータス値も大幅に増えた。

 だがこれ以上の成長はエデン村では見込みづらいだろう。ほとんどの村人の血を吸ってしまったからね。

 まあ、宿屋に泊まった外から来た客の血を吸えば成長できるのだが、いつ来るかわからない客を待つのは、今までより効率が悪いのは確かだ。そこらへんにいる村人を片っ端から吸っていけば新規吸血ボーナスがバンバン入って成長できた頃に比べると、格段にレベリングの効率が落ちるのは間違いない。

 つまり、エリザの言う通り、エデン村でのレベリングは限界を迎えつつあるといっていい。

 新たなる成長とダンジョンの勢力を広げるために、新たな拠点を構えるべき時なのかもしれない。そろそろ三号店のオープンを目指して動き出していい頃だろう。

「そうだな。二号店のおかげでマナも貯まったし、そろそろ違う場所へ足を伸ばしてみるとするか」

 三号店は前々から考えていた通り、ミッドロウという町に開くつもりである。
 ミッドロウには今までに行ったことないが、どんな町なんだろうか。

「エレーナ、ミッドロウってどんなところか知ってる?」
「ええ。ここらへんでは一番大きな町です。冒険者ギルドもあって、エデン村に出張してくる冒険者は、だいたいミッドロウからやって来ると聞きますね」

 俺の疑問に、エレーナが答えてくれた。客との雑談などから仕入れた情報らしい。

「ふむふむ。前に捕虜から聞き出した情報とだいたい同じだな」

 前に捕虜にした冒険者は、確かミッドロウから来たとか言っていた。エレーナの情報は、その捕虜から聞いた情報と概ね同じものだった。

 やはりミッドロウはそれなりに大きな町で間違いないらしい。

「エデン村は強いて言うなら林業が主産業みたいな感じだけどさ、ミッドロウには主要な産業とかあるの?」
「特にこれと言ってはありませんが、全体的にエデン村など比べ物にならないくらいに全ての産業が発展しています」
「なるほど。農業、工業、商業、全般に発展してるって感じか。でかい町だもんな。そりゃそうか」

 ミッドロウはとにかく大きい町らしい。話だけじゃいまいちイメージが掴めないな。直接現地に行ってみるしかないな。

 よし、近々エリザとミッドロウの町にお出かけしてみることにしよう。

 眷属の数も増えたことだし、少しくらいダンジョンを留守にしても心配ないしな。三号店オープンに向けて、ミッドロウの町の現地視察に赴こうじゃないか。

 そう考えたところで、俺は一旦考えるのを止めた。これ以上考えても仕方ないので、食事を楽しむのに戻ることにした。

「うーん、相変わらずエレーナたちの料理は美味しいねえ」

 庭に並べられた即席のテーブルの上には、数々の美味しそうな料理が並んでいる。バーベキューの串焼き以外にも、スープ、野菜サラダなど色彩豊かな料理が用意されている。色々と口に運んで楽しむが、どれも美味しいものばかりである。

 それら美味しい料理の数々は、二号店(エレーナの宿)の従業員たちが用意してくれた。食材はダンジョン産のものを使っているから、ほとんど経費はかかっていない。安くて美味い。チートだね。

「エレーナたち、料理上手だね」
「ふふありがとうございます」
「エレーナさんはともかく、私たちの場合、ヨミト様が与えて下さったスキル【料理】のおかげですよ」
「そう? ヒイたちも元々それなりに料理できてたと思うよ」

 俺が料理を褒めると、エレーナが照れくさそうに礼を言い、その他の面々は謙遜気味に言葉を返した。

 エレーナは自前で【料理】というスキルを持っていたが、他の従業員はそんなスキルは持っていなかった。だが俺がダンジョンマスターの力を使って全員にスキル【料理】を与えたので、今では全員が同じスキルを持っている。エレーナの娘のアリアも持っている。

 二号店従業員は元々、スキルなしでも料理上手だった。元々料理上手だった上に、スキルのおかげでさらに料理上手になったと言える。

 そのおかげか、エレーナの宿は料理上手の綺麗どころが集まる宿として、さらに人気が高まることとなった。一号店が相変わらず客がまったく来ないのに対し、二号店は連日大盛況である。

 現在のマナ収入のほとんどは二号店が齎してくれているものだ。一方、一号店の収入はゼロである。

 失われた一号店の収入よりも新たに獲得した二号店の収入の方が遥かに大きいので、トータル的には今までにないくらい稼げているんだけどね。

 嬉しいやら悲しいやら、複雑な気分だな。マナが安定して稼げているのは嬉しいが、一号店店主である俺のプライド的には悲しいぜ。

「ヨミト様、最近はレッドさんのお店からも料理の宅配を頼まれるようになりましたよ」
「レッドって誰だっけ?」
「向かいの宿の主人です」
「あー、あの店か」

 二号店は儲かりすぎていて、周りの店とトラブってないか心配だったが、エレーナは上手くやっているようだ。向かいの宿の主人との関係も良好らしい。

「レッドさんの宿は、料理は私たちの所に発注して、あっち方面の商売を強化するらしいです」
「へえなるほどね。あっち方面ねえ」

 あっちとは、えっちのことだ。向かいの宿は本格的に大人向けサービスに特化していくつもりのようだな。

 向かいの宿は飯マズだったし、今更料理の技術を向上させるよりも、料理は外注して別のサービスを強化していこうという戦略なのだろう。
 俺たちはエデン村では夜のお店の商売には手を出すつもりがないから、その戦略はこっちとしても都合がいい。住み分けができて有難いばかりだな。
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