吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

文字の大きさ
39 / 291
二章

ギルド脇の酒場

しおりを挟む
 酒場は活気に溢れていた。
 夕暮れのギルドには色んなタイプの人間がいたが、夜の酒場には荒っぽい奴しかいないようだ。真面目な冒険者は酒場になんて来ないで、明日に備えてゆっくりと過ごしているのだろう。

 店に入った途端、周囲の客たちからの視線を感じた。
 新参者に対する警戒心からだろうか。そんな視線をスルーしながら、俺たちはカウンター席へと向かった。

「宿二人分お願いできますか。あと適当な飯とエールを頼みます」
「はいよ」

 元冒険者の経歴に相応しく、宿の親父は厳つい見た目だった。
 俺が話しかけると、親父はぶっきらぼうだが返事を返してくれた。

 愛想がないわけではないようだ。まあそれもそうか。客商売やっているんだもんな。

「お前たち、冒険者登録したばかりか?」
「ええそうです」
「それじゃパープルと似たようなもんだな」
「パープル?」
「あそこで給仕している奴だ」

 親父が顎で示した先には、給仕服を着た一人の少女?がいた。紫色の、セミロングくらいの髪型をしている。

「女の子ですか?」
「男らしいぞ」

 パープルなる人物は、女の子みたいな男の子らしい。いわゆる男の娘というやつだろうか。

「あのパープルって子は、冒険者なのにここで働いてるんですか?」
「そりゃそうだろ。木等級で依頼料だけで食っていける奴なんて、まずいねえよ。どこかで副業しないとな」
「ああそうなんですか」
「お前ら世間知らずそうだな。そのわりには身なりや装備品が整ってるし、どっかええとこの出か?」
「ええまあ。商人の出です。冒険者になりたくて、幼馴染の連れと一緒にこの町に来ました」
「へえそうかよ」

 適当に嘘の会話をしておく。
 本当はダンジョンマスターの吸血鬼で人類の敵だなんてこと、言えるわけないもんな。

「商家のボンボンが冒険者だとぉ?」
「冒険者舐めるんじゃねえぞ」
「デックのくせにイキってると酷い目に遭うぞ」

 俺たちの会話を聞いていたのか、悪酔いした近くの一団がそう野次を飛ばした。

「デックって何ですか?」
「デックを知らねえのかよ! こりゃ間違いなくデックだな! ギャハハ!」

 知らないワードが飛び出したので尋ねると、男たちはさもおかしげに笑い出した。

「デックというのは、木等級冒険者のことですよ」

 見かねたのか、例のパープルという子がやって来て教えてくれた。

「なんで木等級がデックって言われてるんです?」
「木等級は木偶の坊みたいに役立たずだということらしいです。失礼しちゃいますよね」

 要するに、デックは最低ランクの冒険者に対する蔑称ということか。新人いびりはどこの世界でもあるようだ。

「あんまり気にしない方がいいですよ。よくあることですので」
「ご忠告どうも。パープルさん」

 パープルは人が良いのか、俺たちを気遣う言葉を投げかけてくれる。その後、元の仕事に戻っていった。

「うへへ」

 パープルが仕事に戻ると、近くにいた酔っ払いが彼の尻を熱心に見つめ始めた。

「ひょおお! パープルちゃん、相変わらず女の子みたいに可愛いぜ!」

 酔っ払いがそう言って、パープルの尻をガシッと掴んだ。

「あひゃぅう!?」
「おほっ、女の子みたいな声出しやがる! 最高だぁ!」

 酔っ払いは嫌がるパープルに構わず尻を揉みしだく。

「やめっ、やめてください!」
「いいじゃねえか女のケツじゃあるめえし。男のケツだからいいだろ! スライムみたいなケツしてて面白いぜ!」
「やめてくださいってば!」

 女の子みたいな見た目の子のお尻だけど女の尻じゃなくて男だから大丈夫、という謎の理論で正当化して、酔っ払いはセクハラを働き続ける。
 酔っ払いはどうしようもないな。

「おいライムやめろ。男だろうが女だろうが、ウチの従業員に手を出したら出禁にすんぞ。ついでにギルドに通報してやる。ケツ揉んで資格の剥奪はねえだろうが、昇級の査定に響くぞ」
「冗談キツいっすよ旦那。ちょっとふざけて男の尻を揉んだだけじゃないっすか。全然罪じゃないっすよ」
「冗談じゃねえ。次はねえぞ」
「へーい。サーセンした」

 見かねた店主の親父がドスの効いた一声をかけると、悪酔いしていた冒険者はセクハラをやめて大人しくなった。セクハラ冒険者は名残惜しそうにパープルのお尻を見ている。

 なるほどねえ。あのような手合いはああやって大人しくさせるのか。自分の商売の参考になるな。

 まあ参考になるけど、参考にするつもりはないけどな。
 ウチの宿の客でエリザに手を出すような奴がいたら、たぶん即処刑しちゃうし。俺がやらずともエリザが手を出しちゃいそうだし。

「ご主人様、下郎が多すぎて吐き気を催しますわ。なるべく早く退散しましょう」
「そうだな」

 この宿は雑多な雰囲気だが、色々と物珍しい。
 俺は面白おかしく感じていたんだが、お嬢様気質のエリザには空気が合わなかったようだ。

 我がダンジョンの第一の眷属である愛するエリザのためだ。彼女の要望を聞き、早めに部屋に向かうとするか。

 さっきのセクハラ冒険者のように、性欲を持て余した野郎共がいつエリザに手を出そうとするかわからんしな。こんな所で人殺しするわけにはいかないし、早く部屋に行こう。

「ごちそうさん」
「おうよ。これは部屋の鍵だ」

 俺たちは手短に食事を終えると、宿の親父から部屋の鍵を受け取る。そして借りた部屋へと向かったのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...