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二章
ギルド脇の酒場
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酒場は活気に溢れていた。
夕暮れのギルドには色んなタイプの人間がいたが、夜の酒場には荒っぽい奴しかいないようだ。真面目な冒険者は酒場になんて来ないで、明日に備えてゆっくりと過ごしているのだろう。
店に入った途端、周囲の客たちからの視線を感じた。
新参者に対する警戒心からだろうか。そんな視線をスルーしながら、俺たちはカウンター席へと向かった。
「宿二人分お願いできますか。あと適当な飯とエールを頼みます」
「はいよ」
元冒険者の経歴に相応しく、宿の親父は厳つい見た目だった。
俺が話しかけると、親父はぶっきらぼうだが返事を返してくれた。
愛想がないわけではないようだ。まあそれもそうか。客商売やっているんだもんな。
「お前たち、冒険者登録したばかりか?」
「ええそうです」
「それじゃパープルと似たようなもんだな」
「パープル?」
「あそこで給仕している奴だ」
親父が顎で示した先には、給仕服を着た一人の少女?がいた。紫色の、セミロングくらいの髪型をしている。
「女の子ですか?」
「男らしいぞ」
パープルなる人物は、女の子みたいな男の子らしい。いわゆる男の娘というやつだろうか。
「あのパープルって子は、冒険者なのにここで働いてるんですか?」
「そりゃそうだろ。木等級で依頼料だけで食っていける奴なんて、まずいねえよ。どこかで副業しないとな」
「ああそうなんですか」
「お前ら世間知らずそうだな。そのわりには身なりや装備品が整ってるし、どっかええとこの出か?」
「ええまあ。商人の出です。冒険者になりたくて、幼馴染の連れと一緒にこの町に来ました」
「へえそうかよ」
適当に嘘の会話をしておく。
本当はダンジョンマスターの吸血鬼で人類の敵だなんてこと、言えるわけないもんな。
「商家のボンボンが冒険者だとぉ?」
「冒険者舐めるんじゃねえぞ」
「デックのくせにイキってると酷い目に遭うぞ」
俺たちの会話を聞いていたのか、悪酔いした近くの一団がそう野次を飛ばした。
「デックって何ですか?」
「デックを知らねえのかよ! こりゃ間違いなくデックだな! ギャハハ!」
知らないワードが飛び出したので尋ねると、男たちはさもおかしげに笑い出した。
「デックというのは、木等級冒険者のことですよ」
見かねたのか、例のパープルという子がやって来て教えてくれた。
「なんで木等級がデックって言われてるんです?」
「木等級は木偶の坊みたいに役立たずだということらしいです。失礼しちゃいますよね」
要するに、デックは最低ランクの冒険者に対する蔑称ということか。新人いびりはどこの世界でもあるようだ。
「あんまり気にしない方がいいですよ。よくあることですので」
「ご忠告どうも。パープルさん」
パープルは人が良いのか、俺たちを気遣う言葉を投げかけてくれる。その後、元の仕事に戻っていった。
「うへへ」
パープルが仕事に戻ると、近くにいた酔っ払いが彼の尻を熱心に見つめ始めた。
「ひょおお! パープルちゃん、相変わらず女の子みたいに可愛いぜ!」
酔っ払いがそう言って、パープルの尻をガシッと掴んだ。
「あひゃぅう!?」
「おほっ、女の子みたいな声出しやがる! 最高だぁ!」
酔っ払いは嫌がるパープルに構わず尻を揉みしだく。
「やめっ、やめてください!」
「いいじゃねえか女のケツじゃあるめえし。男のケツだからいいだろ! スライムみたいなケツしてて面白いぜ!」
「やめてくださいってば!」
女の子みたいな見た目の子のお尻だけど女の尻じゃなくて男だから大丈夫、という謎の理論で正当化して、酔っ払いはセクハラを働き続ける。
酔っ払いはどうしようもないな。
「おいライムやめろ。男だろうが女だろうが、ウチの従業員に手を出したら出禁にすんぞ。ついでにギルドに通報してやる。ケツ揉んで資格の剥奪はねえだろうが、昇級の査定に響くぞ」
「冗談キツいっすよ旦那。ちょっとふざけて男の尻を揉んだだけじゃないっすか。全然罪じゃないっすよ」
「冗談じゃねえ。次はねえぞ」
「へーい。サーセンした」
見かねた店主の親父がドスの効いた一声をかけると、悪酔いしていた冒険者はセクハラをやめて大人しくなった。セクハラ冒険者は名残惜しそうにパープルのお尻を見ている。
なるほどねえ。あのような手合いはああやって大人しくさせるのか。自分の商売の参考になるな。
まあ参考になるけど、参考にするつもりはないけどな。
ウチの宿の客でエリザに手を出すような奴がいたら、たぶん即処刑しちゃうし。俺がやらずともエリザが手を出しちゃいそうだし。
「ご主人様、下郎が多すぎて吐き気を催しますわ。なるべく早く退散しましょう」
「そうだな」
この宿は雑多な雰囲気だが、色々と物珍しい。
俺は面白おかしく感じていたんだが、お嬢様気質のエリザには空気が合わなかったようだ。
我がダンジョンの第一の眷属である愛するエリザのためだ。彼女の要望を聞き、早めに部屋に向かうとするか。
さっきのセクハラ冒険者のように、性欲を持て余した野郎共がいつエリザに手を出そうとするかわからんしな。こんな所で人殺しするわけにはいかないし、早く部屋に行こう。
「ごちそうさん」
「おうよ。これは部屋の鍵だ」
俺たちは手短に食事を終えると、宿の親父から部屋の鍵を受け取る。そして借りた部屋へと向かったのであった。
夕暮れのギルドには色んなタイプの人間がいたが、夜の酒場には荒っぽい奴しかいないようだ。真面目な冒険者は酒場になんて来ないで、明日に備えてゆっくりと過ごしているのだろう。
店に入った途端、周囲の客たちからの視線を感じた。
新参者に対する警戒心からだろうか。そんな視線をスルーしながら、俺たちはカウンター席へと向かった。
「宿二人分お願いできますか。あと適当な飯とエールを頼みます」
「はいよ」
元冒険者の経歴に相応しく、宿の親父は厳つい見た目だった。
俺が話しかけると、親父はぶっきらぼうだが返事を返してくれた。
愛想がないわけではないようだ。まあそれもそうか。客商売やっているんだもんな。
「お前たち、冒険者登録したばかりか?」
「ええそうです」
「それじゃパープルと似たようなもんだな」
「パープル?」
「あそこで給仕している奴だ」
親父が顎で示した先には、給仕服を着た一人の少女?がいた。紫色の、セミロングくらいの髪型をしている。
「女の子ですか?」
「男らしいぞ」
パープルなる人物は、女の子みたいな男の子らしい。いわゆる男の娘というやつだろうか。
「あのパープルって子は、冒険者なのにここで働いてるんですか?」
「そりゃそうだろ。木等級で依頼料だけで食っていける奴なんて、まずいねえよ。どこかで副業しないとな」
「ああそうなんですか」
「お前ら世間知らずそうだな。そのわりには身なりや装備品が整ってるし、どっかええとこの出か?」
「ええまあ。商人の出です。冒険者になりたくて、幼馴染の連れと一緒にこの町に来ました」
「へえそうかよ」
適当に嘘の会話をしておく。
本当はダンジョンマスターの吸血鬼で人類の敵だなんてこと、言えるわけないもんな。
「商家のボンボンが冒険者だとぉ?」
「冒険者舐めるんじゃねえぞ」
「デックのくせにイキってると酷い目に遭うぞ」
俺たちの会話を聞いていたのか、悪酔いした近くの一団がそう野次を飛ばした。
「デックって何ですか?」
「デックを知らねえのかよ! こりゃ間違いなくデックだな! ギャハハ!」
知らないワードが飛び出したので尋ねると、男たちはさもおかしげに笑い出した。
「デックというのは、木等級冒険者のことですよ」
見かねたのか、例のパープルという子がやって来て教えてくれた。
「なんで木等級がデックって言われてるんです?」
「木等級は木偶の坊みたいに役立たずだということらしいです。失礼しちゃいますよね」
要するに、デックは最低ランクの冒険者に対する蔑称ということか。新人いびりはどこの世界でもあるようだ。
「あんまり気にしない方がいいですよ。よくあることですので」
「ご忠告どうも。パープルさん」
パープルは人が良いのか、俺たちを気遣う言葉を投げかけてくれる。その後、元の仕事に戻っていった。
「うへへ」
パープルが仕事に戻ると、近くにいた酔っ払いが彼の尻を熱心に見つめ始めた。
「ひょおお! パープルちゃん、相変わらず女の子みたいに可愛いぜ!」
酔っ払いがそう言って、パープルの尻をガシッと掴んだ。
「あひゃぅう!?」
「おほっ、女の子みたいな声出しやがる! 最高だぁ!」
酔っ払いは嫌がるパープルに構わず尻を揉みしだく。
「やめっ、やめてください!」
「いいじゃねえか女のケツじゃあるめえし。男のケツだからいいだろ! スライムみたいなケツしてて面白いぜ!」
「やめてくださいってば!」
女の子みたいな見た目の子のお尻だけど女の尻じゃなくて男だから大丈夫、という謎の理論で正当化して、酔っ払いはセクハラを働き続ける。
酔っ払いはどうしようもないな。
「おいライムやめろ。男だろうが女だろうが、ウチの従業員に手を出したら出禁にすんぞ。ついでにギルドに通報してやる。ケツ揉んで資格の剥奪はねえだろうが、昇級の査定に響くぞ」
「冗談キツいっすよ旦那。ちょっとふざけて男の尻を揉んだだけじゃないっすか。全然罪じゃないっすよ」
「冗談じゃねえ。次はねえぞ」
「へーい。サーセンした」
見かねた店主の親父がドスの効いた一声をかけると、悪酔いしていた冒険者はセクハラをやめて大人しくなった。セクハラ冒険者は名残惜しそうにパープルのお尻を見ている。
なるほどねえ。あのような手合いはああやって大人しくさせるのか。自分の商売の参考になるな。
まあ参考になるけど、参考にするつもりはないけどな。
ウチの宿の客でエリザに手を出すような奴がいたら、たぶん即処刑しちゃうし。俺がやらずともエリザが手を出しちゃいそうだし。
「ご主人様、下郎が多すぎて吐き気を催しますわ。なるべく早く退散しましょう」
「そうだな」
この宿は雑多な雰囲気だが、色々と物珍しい。
俺は面白おかしく感じていたんだが、お嬢様気質のエリザには空気が合わなかったようだ。
我がダンジョンの第一の眷属である愛するエリザのためだ。彼女の要望を聞き、早めに部屋に向かうとするか。
さっきのセクハラ冒険者のように、性欲を持て余した野郎共がいつエリザに手を出そうとするかわからんしな。こんな所で人殺しするわけにはいかないし、早く部屋に行こう。
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「おうよ。これは部屋の鍵だ」
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