吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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三章

三号店でバイト

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 カーネラの花宿の後継の看板娼婦についての件だが、意外にあっさりと片がついた。といっても、別に新たに人を雇ったわけではない。とあるアイディアによって一気に解決したのだ。

 そのアイディアというのは、エリザが持っている【共有】というスキルを活用することである。

 【共有】は持っているスキルを他人に貸し出すことができるスキルだ。【吸血】など一部の特殊スキルは無理だが、貸し出せるスキルはそれなりに多い。

 【共有】によってエリザの持つ【変化】をカーネラ、ヨーン、イッツ、ムウの四人に貸し出す。変身して別人になった四人が働くことで、問題は一気に解決した。

 バッドスキル【老化】が取り除かれたことで若返ったカーネラたちであるが、若い頃のように働くことはどうしても無理だった。若返ったことを大っぴらにできないので、自重して働かざるを得なかった。だが【変化】を使って別人に成りすませば、柵なく働くことができるようになった。

 カーネラたちは三度の飯より性愛が好きだ。自分の容姿を好きなように変えてそれを楽しむというのは、この上なく楽しいことのようである。金を稼ぐ以上に楽しいことのようだ。

 エリザによってスキル【変化】が貸し出されるようになってからというもの、カーネラたちのハイテンションっぷりには拍車がかかっている。常にハイテンションで仕事に邁進している。若さを取り戻した時のハイテンションっぷりに戻ったかのようだな。若い燕の筆下ろしがどうとか、いつもそんな話をしている。楽しそうで何よりだ。

 三号店の収入アップ策が見つかり、ついでにカーネラたちの心も満たされたようなので幸いだ。彼女たちのハイテンションに多少なりとも付き合わされているであろう三号店の一般労働者(眷属でない子たち)は哀れであるがな……。

 エリザの持つスキル【共有】を有効活用する方法を思いついた時は天啓だと思った。何故今までその方法を思いつかなかったのだろうかと思ったくらいだ。

 まあ灯台下暗しというやつだな。意外と気づかないお宝が足元に眠っているものなのかもしれない。会社の中に眠っている埋蔵資源に気づかず放置していることってあるのかもしれない。それを有効活用することで、一気に問題が解決することって、経営者あるあるなのかもしれないな。

「ヨミト様――じゃなかった、ミヨ。これを、ヨーン――じゃなかった、フィーアが相手している人の部屋に持っていって」
「はい。かしこまりました、カーネラお姉様」

 現在、俺はスキル【変化】を使い、可愛らしい少女の姿に変身している。ミヨという黒髪美少女になりきり、カーネラの花宿で雑用の仕事をしている。

 三号店がいつになく盛況となって急に人手が足りなくなったので、そのヘルプに入っているのだ。

「ミヨちゃん頑張ってくださいまし」
「はーいエリザお姉様」

 ちなみにスキル【共有】を使っているエリザも三号店にいるが、彼女は奥の部屋で本を読んで過ごしている。

 スキル【共有】持ちのエリザを人目のある場所に置くわけにはいかない。ヨーンたちにスキルを貸し出している間、エリザのMP消費は大きくなっているから、いつでもMPを回復できる場所にいないといけない。

 万が一MP切れになったら、【共有】の効果が途切れ、客の相手をしているヨーンたちの変化が解けてしまうからね。そうならないように、エリザは人目につかない場所で常に待機しているというわけだ。

「そろそろMPポーションを飲まないといけませんわね」

 エリザは本を読んで暇つぶししつつ、MPが減りすぎたらMPポーションを飲むという簡単なお仕事に従事している。超楽そうでいいよね。

「失礼します。ご所望のお飲み物をお持ちしました」

 客が注文した飲み物を持って部屋に入ると、そこには客のおっさんと、客の対応をしている変化したヨーン(フィーアと名乗っている)がいた。

「おほっ!」

 客のおっさんは俺の姿を見た瞬間、目を輝かせる。

「なんて可憐な女の子じゃ! ミヨちゃんと言うのか! 若いのに働いておって偉いのお!」

 でっぷりと太ったおっさん。普段から良いものを食っているんだろう。そんな豪商といった風貌のおっさんが、俺の頭を撫でてくる。その手つきは妙に気持ち悪い。

(うげっ、最悪! このおっさん、俺を見て盛ってやがる!)

 頭を撫でる以外には手を出してはこないものの、最悪だな。目線が気持ち悪い。まったく勘弁して欲しいぜ。

 カーネラたちは盛った野獣みたいな男たちも可愛いものと言うが、俺にはわからない感覚だな。野獣は野獣でしかない。キモ可愛いなんて感覚は全然わからないぞ。

「フィーアよ。この娘の水揚げはいつじゃ?」
「その子は下働きに来ているだけなので。客をとることはないですよ」

 おっさんはやけに熱心に、俺が水揚げされる時期を尋ねている。俺が水揚げされる日なんて永遠に来ないからな。俺はこの宿のオーナーだぞ。

 くそっ、俺が半日ほど試行錯誤して生み出した可憐なる美少女アバター“ミヨちゃん”に色目を使いやがって。スケベなおっさんめ、お仕置きしてやる。

――スキル【魅了】発動。

「もし水揚げするようなことがあればワシに是非とも――ぁぅ?」

 スキル【魅了】を使っておっさんの意識を奪い、二の腕に噛み付いてやり、多めに血を頂いてやる。盛りまくって血の気が多いみたいだから、多めに頂いても大丈夫だろう。

「お、このおっさん、意外と不味くないな。当たりの部類だ」

 この宿の客は金と女の欲に塗れており、たいていクソ不味い血である。大体そうであるのだが、このおっさんはその中ではマシな部類だった。

 変態紳士だったのだろうか。中にはそういう輩もいるから面白い。血の味は飲んでみないとわからないものだ。

「あらあら、ミヨちゃん。お仕事中につまみ食いしちゃ駄目よ?」

 変態紳士のおっさんの二の腕に噛み付いてチューチュー吸っていると、変化した姿のヨーンが冗談まじりに窘めてくる。

「はーい。ごめんなさい。後よろしく」
「はいはい」

 ヨーンに後のことを任せ、俺は退出する。

 栄養補給終わったし、次の仕事も頑張ろう。次のお仕事はなんじゃろなっと。

「ミヨちゃん――いやヨミト様。今度は裏神父に変身して、出勤してきた子たちに避妊魔法をかけてくださいます?」
「了解だよ」
「その次は仕事終わりの子に洗浄魔法をお願いします。過激な行為をした子には回復魔法もお願いします」
「はいはーい」
「さらにその次は厨房でお料理をお願いします」
「了解~」

 そんな感じで、カーネラに言われた通りの仕事をこなしていく。オーナーなのに使い走りのバイト君のように働いていく。でもしょうがない。この三号店ではカーネラがボスだからな。俺はヘルプで入っているバイト君なのだ。

「ふいー。疲れた」
「ご主人様、お疲れ様ですわ」

 一通りの仕事を終えて店の奥に戻ると、エリザが声をかけてくる。ちょうど読み終わった本を閉じて背伸びしている。

 エリザ担当の仕事、楽そうでいいな。本読みながらたまにMPポーション摂取するだけだもんな。

「ご主人様、そろそろ拠点を移されてはどうでしょうか?」

 紅茶を飲んで一息ついていると、エリザにそう声をかけられた。

「たしかに、もうミッドロウには六ヶ月も滞在しているな」
「でしょう? 新たなる成長の機会を得るためにも、そろそろ拠点を移された方がよろしいかと思いますわ」

 毎日昼も夜も吸血行為に励んだおかげで、ミッドロウに居住している町人はほぼ全員吸血したといっても過言ではない。ミッドロウにこれ以上拘っても、これ以上の成長の機会は少ないと思われる。エリザの言うことは尤もだ。

「そうだな。そろそろ拠点を変えるべきだろうな。第四号店オープンに向けて動き出すとするか」
「ええそれがよろしいかと」
「でもどこにしようか?」
「王都を目指されてはいかがでしょう?」
「王都か……そうだな」

 ミッドロウから南東の方に行くと、王都“ドルドローア”があるらしい。その王都に行けば、人も多いし、さらなる成長の機会があるだろう。

 王都のようなミッドロウよりも人の多い場所はリスクがかなり大きいが、既に一号店、二号店、三号店と三つの拠点を確保しているので逃げ道はある。リスクをとって、王都に進出してみてもいいかもしれない。

「確か、王都は鉄等級以上の冒険者なら居住資格が与えられるんだっけか」
「ええそのようですね」

 今までの情報からそんなことがわかっている。冒険者として鉄等級の身分を手に入れている俺たちは王都に移住することも可能なようだ。

「俺、エリザ、パープル、レイラ、メリッサ、ノビル。六人とも鉄等級だから全員で王都に行けるな……」

 王都に行くとすれば、冒険者チームの拠点を移すという形で、王都に行った方がいいだろう。そうなれば皆に話を通す必要がある。

 レイラたちは俺の眷属だし否とは言わないだろう。

 問題はパープルだな。彼は俺の眷属じゃないし、王都への進出を素直に納得してくれるかどうか。ミッドロウでずっと生活したいと主張する可能性もあるな。

 まあ話すだけ話してみるとしよう。断られたら、俺とエリザだけでこっそり王都に行くという方法もあるしな。

「それじゃとりあえず、近日中に皆に話を通してみようか」
「はい。そうしましょう」

 エリザと話し合い、近日中にチームの面々で話し合いをすることにした。
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