吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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三章

再会

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 王都に拠点を構えてから一ヶ月経った。この一ヶ月、地下水道のドブさらいのお仕事ばかりやっていた。

 王都の鉄等級の仕事で安定的にあるのは、ドブ掃除のお仕事なんだよね。おかげですっかりあのドブの臭いが鼻に染み付いちゃったよ。

 吸血鬼パワーのおかげでドブさらいの仕事は毎回昼前には終わるので、パープルたちは昼過ぎからアルバイトをやることにしたらしい。
 この一ヶ月、彼らはドブさらいの仕事を終えると毎日のようにせっせとバイトに繰り出していた。

 真面目だ。どうやら借金(家の代金を俺とエリザが全部立て替えたのでそのお金)を早く返そうという考えらしい。
 そこまでして必死に働いて返さなくてもいいのだが、働くなとも言えないので、そのまま好きにさせている。

 パープルはギルド隣のカフェの店員、レイラは丼物屋の店員、メリッサは鍛冶屋の店員、ノビルは牧場の作業員として働いているようだ。

 みんなアルバイトしてて俺とエリザだけ働いてないのは体裁が悪いので、俺たちも働くことにした。
 俺とエリザはミッドロウにいた時と同じく、娼婦相手に裏神父のアルバイトをすることにした。避妊魔法をかけたり、回復魔法や洗浄魔法をかけたり、そんなのだ。

 その裏神父のバイトが終わればそのまま夜の街に出かけ、人間の血を吸って楽しむことにした。金を稼ぎつつレベリングにもなる効率の良いムーブだ。

 王都はミッドロウ以上に華やかであり、遊び人も多くいた。夕方近くになれば、夜の街は大盛況だ。季節がだんだん暖かくなってきたということもあり、冬篭りしていたパーティーピーポーたちが一斉に出てきたらしい。王都の夜は毎晩盛り上がっている。

 そんな王都の夜の街に、俺とエリザは毎夜のように出かけている。
 俺はチャラ男イケメンのトミー君、エリザはベート君にそれぞれ変化してから遊びにいっている。
 遊び人たちの輪に入って楽しくパーティーピーポーな生活を送り、油断しきっている酔っ払いたちを魅了して血を吸ってレベリングしている。

 この一ヶ月、基本そんな生活だった。
 たまにチュウやエレーナの家族、ヒイたちなどをダンジョンから呼び寄せてみんなでまったり遊んだりもした。王都生活をたっぷりと満喫しているぜ。

 ダンジョンも恙無く平常運転だし、こんな楽しい日常がいつまでも続けばいいな、なんて近頃はよく思っている。



「いただきます」

 今日も今日とてドブさらいの仕事を終える。
 今日はラーメンみたいな麺料理を食べさせてくれるお店で、みんなで昼飯を食べることになった。

「それじゃ僕たちはバイト先に向かうので、ヨミトさんに家の鍵を渡しておきますね。お金はここに置いておくので、まとめてお支払いお願いします」
「了解了解」

 パープルたちはバイトがあるので掻きこむように飯を食い終わるとすぐに移動していった。忙しない。

「ご主人様、はしたないですが、替え玉おかわりしてもよろしいでしょうか?」
「いいよ。どんどん食べなよ」

 俺とエリザはお喋りを楽しみながら追加のサイドメニュー等を注文してゆっくりと飯を食い、それから席を立つ。

「今日は裏神父の仕事はなかったよな?」
「ええ。予約は入ってなかったと思いますわ」
「んじゃ、このままぶらりと通りでも流すか。家はシヴァたちが守ってくれてるし問題ないだろ」
「そうですわね」

 エリザと通りを当てもなく彷徨う。
 一ヶ月暮らしたことで王都の生活にはある程度慣れたが、このだだっ広い王都の区画は複雑で、未だよくわからない道も多い。
 そんな道を散歩しながら、新しい発見がないかと期待しながら歩く。目的がない散歩というのも結構楽しいぜ。

「えー! 財布落としちゃったの!? じゃあどうするのよ今日の宿!」
「馬小屋にでも泊めてもらうっすよ。それしかないっすよ?」

 通りを歩いていると、どこかで聞いたことのある男女の声が聞こえてくる。
 振り向けば、そこにはイースト村で出会ったパン屋の子たちがいた。

「やあ、お二人さん。お久しぶり」
「誰っすか?」
「あ、貴方は……たしかヨミトさんでしたよね?」
「ああ、覚えてくれてたんだ。ありがとう。それよりどうしたの?」
「はい。実はパオンが……」

 少年の方(パオン)はすっかり俺たちのことを忘れていたようだったが、女の子の方(ブレンダ)は覚えていてくれたようだった。
 何か困りごとでもあるような様子だったので、俺たちは事情を伺った。

 曰く、パオンは王都に留学しているブレンダに久しぶりに会うつもりで王都にやって来たらしいのだが、王都に不慣れなパオンは心に余裕がなくて失念していたのか、財布を落としてしまったのだとか。それでデート費用もないばかりか、今夜の宿泊費もない状態だという。なんといううっかりさんだ。

「だったら俺たちの家にでも泊まる?」

 困った時はお互い様ということで、俺は自分の家に泊まることを提案した。
 前に俺たちがイースト村で困っていた時はブレンダが助けてくれたからね。恩を返すチャンスだろう。

「え、いいんですか!?」
「全然構わないよ。部屋は有り余ってるしさ。お金も別にいらないよ」
「ありがとうございます。ほらっ、パオンもお礼言いなさいよ」
「すみません。本当に有難いっす!」

 ブレンダとパオンは腰を九十度に曲げてペコペコとお辞儀をした。

 改めて見て思うが、やっぱパオンって高校球児っぽいよなぁ。坊主頭だし、緊張してんのか語尾が毎回「っす」になるしな。完全に高校球児だわ。この世界に高校なんてないし野球もないけどさ。

「君たちデート代もないんだったよね。暇なら、ウチでお茶でもどう? どうせならパオン君と一緒にブレンダちゃんも夕飯一緒に食べてってよ」
「そんな、そこまでして頂くわけには……」
「いいっていいって。お客様は大歓迎だよ。エリザ、鍵渡すから二人を家に連れてってやってくれる? 俺は夕飯の買出ししてから帰るからさ」
「かしこまりましたわ。夕飯はお肉がいいですわお肉」
「了解了解」

 二人をエリザに頼み、俺は夕飯の買出しに向かう。
 お客さん二人もいるし久しぶりに焼肉パーティーでもするか、ということで、肉をたんまりと買い込む。大量のお肉を抱えながら、俺は家へと帰宅した。
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