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三章
容疑者カニバル
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(ん……どうやら来たようだな)
昼近くになり、ようやく件の人物が現れた。
「相変わらず下町は臭くて敵わんなぁ。ゴミ庶民の臭いがプンプン漂っておるわ。あぁ、臭い臭い! 反吐が出る!」
ぐちぐちと愚痴を言いながら、男は校長室の中に入っていった。
あの男が校長のカニバルで間違いないだろう。リオたちの言った通り、ハゲでデブのキモ親父だった。
(あの顔……どこかで……どこだったっけ?)
ハゲでデブのキモ親父などそこら中にいるが、あの顔にはどこか見覚えがある気がした。王都以外で、ではない。確かに王都で会った顔だった。
(うーん、誰だっけ。絶対会ってるはずだぞ。見覚えあるもん)
俺は毎日のように夜の街で血を吸って遊んだりしているので、それなりに交友関係が広い。いろんな顔を見知っているので、特定するまでしばし時間がかかってしまう。あいつでもないこいつでもない、と唸りながら思い出していると、ピンときた。
(そうだ! アイツだ! アイツに間違いない!)
前にガンドリィの店に遊びにいった時、帰り際に隣の店から出てきた親父だ。カニバルはそいつに間違いなかった。
(まあだからといってどうということはないがな。ブレンダとの失踪と関連があるわけでもないしなぁ)
ガンドリィの店の隣は、確か薬屋という話だった。カニバルが下町にある薬屋に出入りしているからといって、ブレンダと関係があるということには全くならない。誰だって薬屋くらいは出入りするだろう。ブレンダはその薬屋とはまったく関係がないのだから、カニバルとブレンダを結びつける証拠にはならない。
あの校長とブレンダに関係があるか否かは、直接確かめてみるしかないな。
(よし。ちょっとかまかけてみるか)
昼過ぎまで粘っていると、カニバルは校長室での仕事を終えて帰宅するみたいであった。
俺は彼の後をつけ、通りで声をかけることにした。ヨミトの姿ではなく、どこの誰ともわからないような男の姿で声をかける。
「カニバルさん」
「ん? 何だ貴様は? どこぞで会ったか?」
カニバルは戸惑ったような声を上げる。それも当然だろう。彼からしたらまったく見覚えのない男から親しげに声をかけられているんだからな。
俺はカニバルの一挙手一投足を見極めながら、もう一度言葉を投げかけた。
「ブレンダ」
「っ!?」
「っていう子、知ってます? 知り合いなんですけど、実は行方不明なんですよ。先生の学校に通ってたので、カニバルさんなら何か知ってるかと思いまして。急にお尋ねして申し訳ありません」
「知らん、そんな娘は知らん! 人探しなら他をあたれ! ワシは忙しいんだ!」
カニバルはプンスカと怒りながら去っていた。
(間違いないな)
俺は確信した。この男、ブレンダについて何か知っているなと。
いきなり浴びせられた「ブレンダ」というワードに対し、カニバルの目は確かに反応した。一瞬だが動揺の色が浮かんだのだ。本当に聞き覚えも何もなければポカンとした呆けた表情をするに決まっているのだが、そうではなかった。
目は口ほどにものを言う。カニバルの目はブレンダについて知っていると言っていた。
(奴の後をつけて屋敷に向かうか)
これは絶対に何かあると確信した俺は、急いでカニバルの後を追うことにした。
奴は貴族街に入るための関所にいた。門兵から軽くチェックを受けながら貴族街に入っていく。
俺は茂みに潜んで猫の姿に変化して、関所脇の壁を飛び越えて貴族街に侵入した。そこで予想外のことが発生する。
――カンカンカン!
けたたましく鳴り響く鐘の音。俺が貴族街に侵入した瞬間、警報のような音が鳴り始めたのだった。
「第一区画西で強力な魔力反応! 何かが侵入した模様! 繰り返す!」
貴族街を守るために配置されていた衛兵たちが騒ぎ出す。
(げっ! センサーみたいな魔道具が仕込まれてたのか!)
どうやら、正規の通行所以外を通ると警報が鳴る仕組みになっているらしい。流石貴族の住むエリアだけあって、侵入は一筋縄ではいかないようだ。
「黒猫だ!」
「逃げ出した人工魔物かもしれん! 捕まえろ!」
俺は衛兵たちに追われ、全速力で逃げまくる。
――カンカンカン!
「第一ブロック東で強力な魔力反応! 先ほど侵入した黒猫だと思われる! 逃げ出した人工魔物の可能性がある! ただちに捕まえろ!」
どうやら警報は、下町側から貴族街方面に侵入した場合のみに鳴るようになっているらしい。貴族街と下町の境界線付近を逃げ回ったおかげで、その仕組みがよくわかった。
(急いては事をし損じるだな)
このまま貴族街に姿をくらましてもよかったが、深追いは不味いと判断した。策もなしに見知らぬ場所にいきなり飛び込むのはリスクが高すぎるだろう。カニバルの姿も見失ってしまったし、ここは一時退却が賢明だ。
ということで、俺は下町側に撤退することにした。
「何っ!?」
「屋根の上に飛び乗っただと!?」
「なんという身体能力!?」
「やはり逃げ出した人工魔物か!?」
あっという間に衛兵を置き去りにし、遠くまで逃げて、それから猫の変化を解く。
(ふぅ。久しぶりにドキドキと緊張したな)
カニバルをあと一歩追いきれなかったものの、それなりの収穫があった。ブレンダの行方に繋がる手がかりは、きっとあのカニバルという男が握っているに違いない。
(さて。まだ下町でも探れる場所は残っているな)
カニバルが怪しいとわかったからには、奴に関連がある場所を徹底的に洗う必要があるだろう。あのブレンダと何の関係もなさそうな薬屋だが、もしかしたらブレンダと関係があるかもしれない。
「君、黒猫を見なかったか!?」
「あっちに行ったっぽいですよ」
「そうか! ありがとう!」
俺は人間の姿になりながら、猫探しに懸命になっている衛兵たちの横を悠々と通り過ぎていく。それから、目的の薬屋へと向けて足を伸ばしたのであった。
昼近くになり、ようやく件の人物が現れた。
「相変わらず下町は臭くて敵わんなぁ。ゴミ庶民の臭いがプンプン漂っておるわ。あぁ、臭い臭い! 反吐が出る!」
ぐちぐちと愚痴を言いながら、男は校長室の中に入っていった。
あの男が校長のカニバルで間違いないだろう。リオたちの言った通り、ハゲでデブのキモ親父だった。
(あの顔……どこかで……どこだったっけ?)
ハゲでデブのキモ親父などそこら中にいるが、あの顔にはどこか見覚えがある気がした。王都以外で、ではない。確かに王都で会った顔だった。
(うーん、誰だっけ。絶対会ってるはずだぞ。見覚えあるもん)
俺は毎日のように夜の街で血を吸って遊んだりしているので、それなりに交友関係が広い。いろんな顔を見知っているので、特定するまでしばし時間がかかってしまう。あいつでもないこいつでもない、と唸りながら思い出していると、ピンときた。
(そうだ! アイツだ! アイツに間違いない!)
前にガンドリィの店に遊びにいった時、帰り際に隣の店から出てきた親父だ。カニバルはそいつに間違いなかった。
(まあだからといってどうということはないがな。ブレンダとの失踪と関連があるわけでもないしなぁ)
ガンドリィの店の隣は、確か薬屋という話だった。カニバルが下町にある薬屋に出入りしているからといって、ブレンダと関係があるということには全くならない。誰だって薬屋くらいは出入りするだろう。ブレンダはその薬屋とはまったく関係がないのだから、カニバルとブレンダを結びつける証拠にはならない。
あの校長とブレンダに関係があるか否かは、直接確かめてみるしかないな。
(よし。ちょっとかまかけてみるか)
昼過ぎまで粘っていると、カニバルは校長室での仕事を終えて帰宅するみたいであった。
俺は彼の後をつけ、通りで声をかけることにした。ヨミトの姿ではなく、どこの誰ともわからないような男の姿で声をかける。
「カニバルさん」
「ん? 何だ貴様は? どこぞで会ったか?」
カニバルは戸惑ったような声を上げる。それも当然だろう。彼からしたらまったく見覚えのない男から親しげに声をかけられているんだからな。
俺はカニバルの一挙手一投足を見極めながら、もう一度言葉を投げかけた。
「ブレンダ」
「っ!?」
「っていう子、知ってます? 知り合いなんですけど、実は行方不明なんですよ。先生の学校に通ってたので、カニバルさんなら何か知ってるかと思いまして。急にお尋ねして申し訳ありません」
「知らん、そんな娘は知らん! 人探しなら他をあたれ! ワシは忙しいんだ!」
カニバルはプンスカと怒りながら去っていた。
(間違いないな)
俺は確信した。この男、ブレンダについて何か知っているなと。
いきなり浴びせられた「ブレンダ」というワードに対し、カニバルの目は確かに反応した。一瞬だが動揺の色が浮かんだのだ。本当に聞き覚えも何もなければポカンとした呆けた表情をするに決まっているのだが、そうではなかった。
目は口ほどにものを言う。カニバルの目はブレンダについて知っていると言っていた。
(奴の後をつけて屋敷に向かうか)
これは絶対に何かあると確信した俺は、急いでカニバルの後を追うことにした。
奴は貴族街に入るための関所にいた。門兵から軽くチェックを受けながら貴族街に入っていく。
俺は茂みに潜んで猫の姿に変化して、関所脇の壁を飛び越えて貴族街に侵入した。そこで予想外のことが発生する。
――カンカンカン!
けたたましく鳴り響く鐘の音。俺が貴族街に侵入した瞬間、警報のような音が鳴り始めたのだった。
「第一区画西で強力な魔力反応! 何かが侵入した模様! 繰り返す!」
貴族街を守るために配置されていた衛兵たちが騒ぎ出す。
(げっ! センサーみたいな魔道具が仕込まれてたのか!)
どうやら、正規の通行所以外を通ると警報が鳴る仕組みになっているらしい。流石貴族の住むエリアだけあって、侵入は一筋縄ではいかないようだ。
「黒猫だ!」
「逃げ出した人工魔物かもしれん! 捕まえろ!」
俺は衛兵たちに追われ、全速力で逃げまくる。
――カンカンカン!
「第一ブロック東で強力な魔力反応! 先ほど侵入した黒猫だと思われる! 逃げ出した人工魔物の可能性がある! ただちに捕まえろ!」
どうやら警報は、下町側から貴族街方面に侵入した場合のみに鳴るようになっているらしい。貴族街と下町の境界線付近を逃げ回ったおかげで、その仕組みがよくわかった。
(急いては事をし損じるだな)
このまま貴族街に姿をくらましてもよかったが、深追いは不味いと判断した。策もなしに見知らぬ場所にいきなり飛び込むのはリスクが高すぎるだろう。カニバルの姿も見失ってしまったし、ここは一時退却が賢明だ。
ということで、俺は下町側に撤退することにした。
「何っ!?」
「屋根の上に飛び乗っただと!?」
「なんという身体能力!?」
「やはり逃げ出した人工魔物か!?」
あっという間に衛兵を置き去りにし、遠くまで逃げて、それから猫の変化を解く。
(ふぅ。久しぶりにドキドキと緊張したな)
カニバルをあと一歩追いきれなかったものの、それなりの収穫があった。ブレンダの行方に繋がる手がかりは、きっとあのカニバルという男が握っているに違いない。
(さて。まだ下町でも探れる場所は残っているな)
カニバルが怪しいとわかったからには、奴に関連がある場所を徹底的に洗う必要があるだろう。あのブレンダと何の関係もなさそうな薬屋だが、もしかしたらブレンダと関係があるかもしれない。
「君、黒猫を見なかったか!?」
「あっちに行ったっぽいですよ」
「そうか! ありがとう!」
俺は人間の姿になりながら、猫探しに懸命になっている衛兵たちの横を悠々と通り過ぎていく。それから、目的の薬屋へと向けて足を伸ばしたのであった。
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