吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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四章

オーク討伐依頼3/13(ジョーア村)

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「着いたわぁん。ここがジョーアの村よ」

 村に着くなり、ガンドリィが口を開く。

 ジョーア村は、アルゼリア山脈とヒムの森に囲まれた緑溢れる村だった。ド田舎って感じで、雰囲気的にはエデン村に似ているところがあるな。

 ジョーア村はエデン村よりもさらにド田舎といえるかもしれない。エデン村は田舎といっても開拓地だけあって人の流入が常にあり、独特の活気があるからね。

 ここジョーアはそういったこともなく、本当に長閑な村って感じだ。基本自給自足で暮らしているみたいだし。

 田舎すぎて普段は誰も来ないようである。ただ、今はオーク討伐依頼が王都のギルドに掲示されている影響もあり、人が流入しているらしい。それで臨時で村の自警団たちが検問をしていた。普段はそんなことしてないようだがな。

 俺たちは身元を明らかにした上で村内に入れてもらえることになった。

「ヨミトちゃんたち、泊まる当てはあるのかしらぁん?」
「特にないですよ。この村には初めて来たんで」

 村に入ってすぐ、ガンドリィが尋ねてきた。初めて来た村で伝手も何もないので泊まる当てなどないことを正直に話しておく。

「だったら、アタシの知り合いの所に泊まらないかしら?」
「変な宿じゃないでしょうね?」
「大丈夫よ。ちゃんとしたとこだから。まあでも宿ではないけどねぇん」
「宿じゃない?」
「この村に宿なんてないわよぉ。みんな誰かの家に泊めてもらってるのよぉん」
「なるほど」

 ここは普段人の行き来なんてほぼないから宿屋すらない村らしい。旅行者を泊めるとなると、民泊しかないようだ。

「こっちよ」

 ガンドリィに従い、見知らぬ村の中を歩いていく。どんどん進み、村の最奥にあるそこそこ立派な面構えの邸宅に辿り着く。

「ここはジョーア村の村長の家よぉん」
「村長の家か。まあ馬小屋じゃないならどこでもいいですけど」

 ガンドリィの後に付いて家に入っていく。

「ガンドリィ殿、お待ちしておりました。よくぞ来てくださいました」
「久しいわね村長さん。こっちはウチの新入りの子たちよ。そっちはウチの古株のヒゲクマさん」

 ガンドリィは村長と親しげに挨拶を交わしていた。王都を拠点に活動してるから、この村にも何度も来たことがあるらしいな。

「ガンドリィ殿、そちらの方々は?」
「アタシの知り合いでチーム“不死鳥”のみんなよ。リーダーはヨミトちゃんね」
「どうもよろしく。ヨミトです」

 ガンドリィに紹介され、俺は村長に面通しする。

「ヨミトちゃんは王都で“性豪のヨミト”の異名で有名でね。鉄等級の期待の新人さんなのよぉ」
「性豪ですか。それは素晴らしいですな。精力の強さは強さの証ですからな。王都で認められているとなると、並大抵ではないということですな。いやぁ、素晴らしい。男として実に羨ましい!」
「アハハ……」
「この村に一日でも早く平穏が戻るよう、皆さんのお力添えを何卒よろしくお願いいたします。性豪のヨミトさんとその仲間の方々!」

 ガンドリィが紹介する際に余計なことを言ってくれたおかげで、後ろで控えるパープルの目が絶対零度に変わった気がして怖かった。性豪の仲間と言われておかんむりのようだ。

 王都に帰ったら夜遊び完全禁止令が出されそうだ。まあ禁止されてもこっそり行くけどさ。血を吸ってレベリングしないとだし。

 パープルはともかくとして、村長のウケは良かった。男として羨ましい限りだと言われてしまったよ。童貞なのに何が羨ましいのかわからないよ。

「これからしばらくお世話になりますね」
「いやぁ、こんなにも包んで頂き有難うございます」

 宿代ということで、ガンドリィに倣って幾らか包んでおく。とりあえず一週間ほど泊めてもらうことにして、一週間分の金をまとめて払うことにした。その後は任務の状況次第で更新していくという形になる。

 村の依頼で滞在していることもあり、宿泊料金は格安だった。ほとんど飯代のみの料金設定だね。

「どうぞ召し上がってください」

 夕飯には山菜とか川魚とかが出てきた。そこらへんの森の中から採ってきたものだろう。
美味そうな飯だ。

「近頃オーク被害が増えて困っておりまして……。皆さんが来てくれて本当に助かります」

 村長さんたちと雑談をしながら夕飯を頂く。

 ここらへんでオーク被害なんて今までなかったのに、近年急に増えているんだとか。村娘がかどわかされたり、村の畑が襲われたりと、ここ二年ほど前から急増してるらしい。

「三年前はゴブリンの被害が皆無だったんです。それで喜んでいたら、翌年からオークの被害がどっと増えて。おそらく、三年前の平和はオークが周辺の魔物を食い尽くしていたんでしょうね」
「嵐の前の静けさって感じですか」
「仰る通りです。オークの群れが移動してくれることを祈って様子見していたのですが、今年に入り村人の男が何名も犠牲になりましてね。もはや猶予はないということで、王都に再度陳情に行くと同時、ギルドにも対処をお願いしたわけです」

 村が置かれている苦しい現状、そんな辛気臭い話をしながら飯を食う。

 オークの集団が数年前からこの村周辺の森に拠点を張っているのは間違いないようだ。それを駆除するのが俺たち冒険者の役目ってわけだな。

「わぁ、綺麗!」

 話が一段落すると、レイラが窓の方を指差して声を上げたので、窓の外を眺めてみる。

 森の方で小さな炎が無数に揺らめいていた。一瞬、人魂でも浮いてるのかと思ってしまった。

「あれがヒムの虫?」
「そうでございます」

 俺の疑問に対して村長が答えてくれる。

「この中にも入っておりますよ」
「あ、本当だ」

 村長が部屋に吊り下げられたランプの中身を見せてくる。光源となっていたのはヒムの虫だった。

 高価な魔道具や油を使った灯りは勿体ないので、この村ではヒムの虫を捕まえて利用しているらしい。田舎生活の知恵だね。

「風流だねぇ」
「そうですわね」

 俺たちはヒムの虫に彩られた幻想的な森を眺めながら夕飯を頂いたのであった。これぞファンタジー世界って感じで楽しかったよ。

「それじゃお休みなさい」
「ああまた明日」

 水浴びをした後、エリザ、レイラ、メリッサの女三人は母屋の屋敷で、俺、ノビル、パープル、ガンドリィその他の野郎共は離れの屋敷で休むこととなった。
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