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四章
宿泊者名簿No.14 羊飼いの少年アキ3/7
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グランさんによって王都農業地区にある牧場へと連れてこられた。
そこはグランさんの息子夫婦が営む牧場だった。そこで僕は一人の少女と邂逅することになる。
「私、メグミン。よろしくねアキ!」
「うん、よろしく……」
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ!」
初めて会った日のことは今でも覚えている。メグミンは初めて会った時から元気一杯で可愛らしい女の子だった。
僕は照れてしまって視線が上手く合わせられなかった。
(可愛いな。羊さんたちより可愛いや……。やっぱ動物よりも人間の女の子の方が可愛い……)
メグミンに会ってからというもの、僕の胸はドキドキしてしばらく治まらなかった。
また変な病気にでもなってしまったのかと思ったくらいだった。それが恋だと気づいたのは、もっと後になってからのことだったけど。
グランさんとメグミンとその両親は僕のことを本当の家族のように扱ってくれた。バッドスキル持ちの僕を差別することなく、家族の一員として温かく迎え入れてくれた。優しい人たちばかりだった。
新しい家族と華やかな王都での生活。でもそんな華やかで恵まれた生活も長く続くことはなかった。
「ごほっごほっ」
「お父さんっ!?」
「どうした!?」
周辺の村々で流行っていた性質の悪い病が王都にもやって来た。僕たち一家で真っ先に感染したのはメグミンの両親だった。
「メグミンとアキ、特にアキに感染させたらお終いだ。お前らは野戦病院に行け。どっちみち、後で国からお触れが出て強制的に放り込まれることになる。早めに行ってこい」
「わかってる。親父、牧場のことはしばらく頼んだぜ」
「お義父様、申し訳ありませんがメグミンたちのこと、お願いします」
「ああ。全部任せとけ。俺は病なんかにゃ罹らねえ最強爺だからよ」
流行り病が王都にもやって来たことで、王国は急遽臨時の野戦病院を王都区域外に設置していた。病気に罹ったメグミンの両親もそこに入ることとなったんだ。
きっと二人共無事に戻ってくる。僕もメグミンもグランさんもそう願ったんだけど、現実とはなんとも無情だ。
「お父さんお母さんっ、あああああっ!」
「うぅっ、うああっ」
「天も惨いことを。逝くなら順番からして俺だろうに……」
メグミンの両親は物言わぬ骸となって帰ってきた。
流行り病の亡骸なため、すぐに墓地へと埋葬されることになった。碌なお別れもできぬまま、メグミンの両親は天へと旅立っていった。
しばらくして流行り病は収束したが、僕たちは大きな心の傷を負うことになった。
「いつまでも泣いてちゃいらんねえ。これからは俺がお前らの父ちゃんと母ちゃんだ!」
グランさんは流石は数多の戦場を渡り歩いてきただけあって、精神的に強い人だった。かなりの高齢であったにも関わらず、いち早く立ち直って前向きに動き出した。精力的に働いてメグミンと僕のことを養ってくれたんだ。
そうしてグランさんとメグミンと僕の三人での生活が始まった。メグミンの両親がいなくなって寂しかったけれど、それでも悪くはない暮らしだった。
やがて両親の死から立ち直ったメグミンは生来の明るさを取り戻し、活発に牧場の仕事を手伝った。
僕も出来る範囲で一生懸命働いた。笛を使って動物たちを大人しくさせたり、書類仕事をしたりして牧場の経営を手伝った。
(で、でかすぎるよメグミン……)
衰えが目立つようになっていくグランさんに対し、メグミンは年々美しく生命の輝きに満ち溢れていくようになっていった。思春期を迎え、急激に身体つきが女性のものとなっていった。
僕も他の子たちと同様に色というものを知る年頃になり、次第に目のやり場に困るようになっていった。
(いつかメグミンもどこかにお嫁さんに行くんだよな。あるいはお婿さんをとるのかな……)
彼女のような美しく明るくておっぱいの大きい女の子がお嫁さんだったら、旦那さんはどんなに幸せだろうか。
(僕がメグミンのお婿さんに……いやそんなことはありえないな……)
そんな懸想をしてしまうこともあった。バッドスキル持ちの僕が抱くには大きすぎる夢だ。
バッドスキル持ちの甲斐性なし。おまけにバッドスキルのおかげで生来男性器が生殖機能を果たさない僕では、メグミンを幸せになんて出来るはずもなかったからね。
でもそれでもよかった。たとえメグミンが手の届かない存在であれど、僕はメグミンが幸せであればそれでよかった。
僕はいつまで生きられるかわからない命の身だ。生きているうちに、メグミンが幸せに生きるその姿を出来るだけ眼に焼き付けておきたい。
そんなことを思いながら、身近にある些細な幸せを噛み締めて穏やかな日々を過ごしていた。
だがそんな穏やかな生活も段々と暗雲が立ち込めていくことになる。人生とはなんとも無情なのだ。
「くぅっ、がはっ」
「グランさん! 大丈夫!?」
いつからか、グランさんは体調を崩すことが多くなっていった。何度も何度も体調を崩し、日に日に弱っていく。僕たちとメグミンはお別れが近いことを悟ってしまった。
「俺が生きているうちに、お前らだけでもやっていけるようにしとかんとな……」
悪いことは重なるものである。ちょうどその頃、王都の下町にある学校の一部門が不祥事により閉鎖され、取引先を失った僕たちの牧場は経営が急激に悪化していった。
それなりに成長して大人になったとはいえ、僕たちはまだまだひよっこだ。グランさん亡き後、牧場の運営をメグミンと僕だけでやれるかは未知数だった。
僕たちは不安でしょうがない日々を送っていくことになる。そんな時、あの人たちが現れたのだった。
「邪魔するぜ親父ぃ。具合悪くて死にそうなんだってな? 大丈夫か?」
まるで弱った僕たちを見計らったかのように、あいつらが生き血を啜りにやって来たのだった。まるで吸血鬼のような酷い奴だった。
そこはグランさんの息子夫婦が営む牧場だった。そこで僕は一人の少女と邂逅することになる。
「私、メグミン。よろしくねアキ!」
「うん、よろしく……」
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ!」
初めて会った日のことは今でも覚えている。メグミンは初めて会った時から元気一杯で可愛らしい女の子だった。
僕は照れてしまって視線が上手く合わせられなかった。
(可愛いな。羊さんたちより可愛いや……。やっぱ動物よりも人間の女の子の方が可愛い……)
メグミンに会ってからというもの、僕の胸はドキドキしてしばらく治まらなかった。
また変な病気にでもなってしまったのかと思ったくらいだった。それが恋だと気づいたのは、もっと後になってからのことだったけど。
グランさんとメグミンとその両親は僕のことを本当の家族のように扱ってくれた。バッドスキル持ちの僕を差別することなく、家族の一員として温かく迎え入れてくれた。優しい人たちばかりだった。
新しい家族と華やかな王都での生活。でもそんな華やかで恵まれた生活も長く続くことはなかった。
「ごほっごほっ」
「お父さんっ!?」
「どうした!?」
周辺の村々で流行っていた性質の悪い病が王都にもやって来た。僕たち一家で真っ先に感染したのはメグミンの両親だった。
「メグミンとアキ、特にアキに感染させたらお終いだ。お前らは野戦病院に行け。どっちみち、後で国からお触れが出て強制的に放り込まれることになる。早めに行ってこい」
「わかってる。親父、牧場のことはしばらく頼んだぜ」
「お義父様、申し訳ありませんがメグミンたちのこと、お願いします」
「ああ。全部任せとけ。俺は病なんかにゃ罹らねえ最強爺だからよ」
流行り病が王都にもやって来たことで、王国は急遽臨時の野戦病院を王都区域外に設置していた。病気に罹ったメグミンの両親もそこに入ることとなったんだ。
きっと二人共無事に戻ってくる。僕もメグミンもグランさんもそう願ったんだけど、現実とはなんとも無情だ。
「お父さんお母さんっ、あああああっ!」
「うぅっ、うああっ」
「天も惨いことを。逝くなら順番からして俺だろうに……」
メグミンの両親は物言わぬ骸となって帰ってきた。
流行り病の亡骸なため、すぐに墓地へと埋葬されることになった。碌なお別れもできぬまま、メグミンの両親は天へと旅立っていった。
しばらくして流行り病は収束したが、僕たちは大きな心の傷を負うことになった。
「いつまでも泣いてちゃいらんねえ。これからは俺がお前らの父ちゃんと母ちゃんだ!」
グランさんは流石は数多の戦場を渡り歩いてきただけあって、精神的に強い人だった。かなりの高齢であったにも関わらず、いち早く立ち直って前向きに動き出した。精力的に働いてメグミンと僕のことを養ってくれたんだ。
そうしてグランさんとメグミンと僕の三人での生活が始まった。メグミンの両親がいなくなって寂しかったけれど、それでも悪くはない暮らしだった。
やがて両親の死から立ち直ったメグミンは生来の明るさを取り戻し、活発に牧場の仕事を手伝った。
僕も出来る範囲で一生懸命働いた。笛を使って動物たちを大人しくさせたり、書類仕事をしたりして牧場の経営を手伝った。
(で、でかすぎるよメグミン……)
衰えが目立つようになっていくグランさんに対し、メグミンは年々美しく生命の輝きに満ち溢れていくようになっていった。思春期を迎え、急激に身体つきが女性のものとなっていった。
僕も他の子たちと同様に色というものを知る年頃になり、次第に目のやり場に困るようになっていった。
(いつかメグミンもどこかにお嫁さんに行くんだよな。あるいはお婿さんをとるのかな……)
彼女のような美しく明るくておっぱいの大きい女の子がお嫁さんだったら、旦那さんはどんなに幸せだろうか。
(僕がメグミンのお婿さんに……いやそんなことはありえないな……)
そんな懸想をしてしまうこともあった。バッドスキル持ちの僕が抱くには大きすぎる夢だ。
バッドスキル持ちの甲斐性なし。おまけにバッドスキルのおかげで生来男性器が生殖機能を果たさない僕では、メグミンを幸せになんて出来るはずもなかったからね。
でもそれでもよかった。たとえメグミンが手の届かない存在であれど、僕はメグミンが幸せであればそれでよかった。
僕はいつまで生きられるかわからない命の身だ。生きているうちに、メグミンが幸せに生きるその姿を出来るだけ眼に焼き付けておきたい。
そんなことを思いながら、身近にある些細な幸せを噛み締めて穏やかな日々を過ごしていた。
だがそんな穏やかな生活も段々と暗雲が立ち込めていくことになる。人生とはなんとも無情なのだ。
「くぅっ、がはっ」
「グランさん! 大丈夫!?」
いつからか、グランさんは体調を崩すことが多くなっていった。何度も何度も体調を崩し、日に日に弱っていく。僕たちとメグミンはお別れが近いことを悟ってしまった。
「俺が生きているうちに、お前らだけでもやっていけるようにしとかんとな……」
悪いことは重なるものである。ちょうどその頃、王都の下町にある学校の一部門が不祥事により閉鎖され、取引先を失った僕たちの牧場は経営が急激に悪化していった。
それなりに成長して大人になったとはいえ、僕たちはまだまだひよっこだ。グランさん亡き後、牧場の運営をメグミンと僕だけでやれるかは未知数だった。
僕たちは不安でしょうがない日々を送っていくことになる。そんな時、あの人たちが現れたのだった。
「邪魔するぜ親父ぃ。具合悪くて死にそうなんだってな? 大丈夫か?」
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