吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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五章

宿泊者名簿No.15 盗賊カミラ1/2

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 手下の野郎共を引き連れ、トロの森を北東へと進んでいく。ハザマ村近くにある、アタイらゾォーク盗賊団のアジトに向けて急ぐ。

 王都での仕事は終いだ。しばらくはアジトを拠点に暮らすことになるだろう。

(ちっ、本来なら王都で優雅に年越しだってのに、とんだヘマしちまったよ!)

 年何回かアジトに帰る時、いつもはこんな森の中を通らずに堂々と街道筋の道を経由している。

 だが今回は王都でやらかしちまって、手配書が回っちまった。だからいつもとは違ってこんな森の中を通って遠回りしながら帰らなければいけない。

「日が暮れてきやがったね。慣れない道なんて通るもんじゃないね」

 色んな鬱憤が募り、思わず愚痴を零してしまう。そんなアタイの気分を慰めようと思ったのか、野郎共が声をかけてくる。

「今年はツイてませんでしたね姉御。稼ぎ頭だった薬屋は潰れるし、良い商売相手だったオージンの野郎は足を洗っちまうし、新しく始めた冒険者狩りの仕事も失敗して王都にいられなくなっちまうなんてね」
「ああそうだね。踏んだり蹴ったりだよ」

 本当、今年はいいことがなかった。

 全てはあのカニバルって野郎のせいだ。あの馬鹿が調子に乗って暴れてくれたせいで、アタイらが裏で手を回していた薬屋が潰れた。

 いつの世も調子に乗る馬鹿のせいで規制が入って割りを食うようになる。馬鹿はいい迷惑だ。

 不幸とは重なるものである。薬屋が潰れるとちょうど同時期に、商売仲間だったオージンの野郎が「子どもとの時間を大切にしたい」だなんて寝言をほざきやがって、裏稼業から一線を引くことになった。

 何が子どもとの時間を大切に、だ。あんないかれたオークみたいなガキとの時間よりも商売の方を大事にしろよ、って思うが、考えは人それぞれだ。

 オージンは毒蜘蛛傘下であるもののアタイらの団の者ってわけじゃないから、強く引き留めることもできなかった。「お子さんとのお時間をどうか大切にしてくださいね。今までありがとうございました。また機会があればよしなに」って、心にもないことを言って別れるしかなかった。

 薬屋とオージン関係の仕事が滞り、早急に新しいしのぎが必要だった。それで慣れない冒険者狩りになんて手を出しちまって、それでヘマを踏んじまった。

 まさか王都を追われるハメになるとは思わなかった。カニバルの事件があったからか、王国の兵隊たちは目に見える成果を民に見せようとして張り切ってやがるらしいね。それで足がついちまうことになった。

 アタイらからしてみればツイてない話だ。今年は本当に踏んだり蹴ったりな年だった。王都の優雅な暮らしもようやく板についてきた頃だってのに、最悪だよ。

「ゾォークの旦那に侘び入れないとですねぇ」
「姉御的には、これからゾォークの旦那とずっと一緒にいれて悪くないかもですねぇ」
「へへ、姉御、イロですもんね。旦那のね」

 手下共がわちゃわちゃと五月蝿い。

 ゾォークの女と言われると昔は嬉しかったが今は違う。焦りからかイライラするだけだ。

「舐めた口きいてんじゃないよ。くっちゃべってる暇があったら足を動かしな! こんな森の中で年越しなんて真っ平御免だよ!」
「へい。すいやせん」

 五月蝿い野郎共を一喝して黙らせる。静かになった所で、これからのことを真剣に考える。

 王都での情報活動に関しては、足のついてないズークたちが残っているから問題はない。ヘマをやらかしたのは事実だが手下の男共はともかく、ゾォークの愛妾でもあるアタシが消されることはないだろう――本来ならそうだ。

 でも今はそう素直に思えない状況だ。

(ちっ、アタイといえども、ゾォークの勘気に触れたら不味いかもね……)

 ゾォークは最近団に入った若い女にいれあげているらしい。

 その女には会ったことないが、見目麗しく裏稼業の才能があるのだとか。下手したらヘマしたアタイは用済みとして切られるかもしれない。

 アタイの最近のイライラの原因はその女だ。

 アジトで鉢合わせたら一発ぶっ飛ばしてやりたいくらいだ。だが殴ったりしたらゾォークの勘気を被ることになるかもしれないからそんなのは無理である。我慢するしかない。

 ああイライラが止まらない。何でこうも人生上手くいかないのか。

 少し前まではゾォークの女として、王都のしのぎ頭として、磐石の地位にいると思っていたのに。一寸先は闇だね。

「おいゴーグル。お前、夜目が利くだろ。魔物の警戒もそうだけど、周囲の地形とかよく見て、拠点として使えそうな場所があったら報告するんだよ。アタイらはただアジトに帰っているってわけじゃないんだ。仕事しつつ帰ってるんだからね」
「わかってますぜ。さっきから色々と見て調べてますぜ」
「そうかい。ならいいよ」

 トロの森は広大である。そんな広大な森に一盗賊団が広範囲に拠点なんて築いても、以前はまるで無意味だった。森の中を移動するのも大変だし、拠点の維持管理をするだけでも大変だからだ。

 ただ、そんな旧来の考えは一変することになった。拠点間を繋ぐ魔道具“ポーター”。それがあれば、森の中にある拠点を簡単に移動することができる。

 毒蜘蛛の力を借りることができ、我々はそのポーターを手に入れることができた。ポーターがあれば、これからはシマ(活動拠点)を大きく広げることができる。

 今まではハザマ村を拠点に周辺の村々をちまちまと食い物にしていたが、もっと広範囲で暴れることができるようになる。王都の騎士団も冒険者も、大陸に跨るような森を全て探ることなどできないだろう。

 安全の面から言っても、ポーターがあるのとないのとじゃ全然違う。ポーターの力を手に入れたゾォーク盗賊団は、今まで以上に躍進していくはずだ。

 これからもっと美味しい思いができる。これからって時に処分されて人生が終わるようなことがあってはたまったもんじゃない。

 拠点にできそうな場所の情報を持っていけば、少しは失敗の穴埋めになるだろう。ゾォークのご機嫌をとる材料は一つでもあった方がいいからね。

「姉御! カミラの姉御!」

 色々と思考を巡らせていると、最前列で斥候を命じていたゴーグルが声を出した。

「どうしたんだい? またゴブリンでも出たのかい? 歯向かってくるようなら切り殺しな」
「違いやす! 家です! 家があるんでさぁ!」
「何? 家だって? そんな馬鹿な――本当のようだね」

 こんな森の中に家がある。そんな馬鹿な話があるかと思ったが、本当にあった。

 森の中に突如切り開かれたようにして、その不思議な家はあった。森の中にあるにしてはやけに立派な家だった。

「ゴブリンが住んでいるとかじゃないですよね?」
「馬鹿かいアンタ、ゴブリンにそんな頭脳はないよ。偏屈な元冒険者の魔法使いとかだろうさ。ちょうどいい、今日はあの家に泊めさせてもらおうじゃないかい」
「へえそうですね姉御」

 どんな人物が出てくるか。きっと引退した老魔法使いか何かだろう。

 そう思ったのだが、出迎えてくれたのは意外にも若い男だった。

「これはこれは。我が家へようこそ。粗末な所ですが、ゆっくりしていってください。ごほごほっ」

 男はバッドスキルの影響で肺を病んでおり、それで若くしてこんな辺鄙な所に住んでいるのだとか。

「一人で住んでいるのかい?」
「ええ、妻も身寄りもなく、一人暮らしでございますよ」

 アタイらの探るような言葉に、男はそう自身の境遇を説明した。バッドスキル持ちゆえ、若くして世捨て人のような生活をしているらしい。

「姉御、あいつ、俺たちに石鹸なんて寄こしやがったですぜ」
「美人なアタイはともかく、こんな野郎共にまで石鹸を渡すなんてどういう了見だいあの男……。いかれているのかね?」
「こんな野郎とは酷い言い草ですぜ姉御。でもその通りでさ。あの野郎、どれだけ金持ってんでしょうかね」
「身寄りはないって話だけど、親の遺産とかはあったってことかもね……」

 男のもてなしから、この森の中の一軒家には似つかわしくないほどの財が貯めこまれているらしいことが窺い知れた。

(この家、拠点にすれば便利かもね)

 この家はハザマ方面にあるアジトよりも断然王都に近い。王都方面の村々で仕事するにも都合がいい立地だった。

(定期的に訪ねてくる人間もいないようだし、口封じしてしまえば、簡単にこの家を乗っ取ることができるかも……)

 当然そんな考えが浮かんでくる。家財も貯めこんでいるようだし、ここを奪えば王都でヘマした穴埋めにちょうどいいと思われた。

「バッドスキル持ちとはいえ、こんな森の中に住んでいるくらいだ。魔法くらい使えるのかもしれない。念のため、アタイが色仕掛けして酒を飲まして眠らせるから、その隙に殺すよ」
「へい了解でさ」
「その後は家捜しして、手軽に持ち運べる金目のもんだけ回収。後日、ポーターを設置するために戻るから、場所を覚えとくんだよ」
「わかってまさぁ」

 計画を実行に移すとなれば話は早い。野郎共に指示を出していく。

 ツイてないと思ったらツイてたね。まさか森の中にこんなお宝が転がっていたとはね。アハハ!
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