吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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五章

昇級試験6/14(キャンプ)

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「第一組は、地図上にある北西の第一区域へと向かえ! 目標物はその区域内に必ずあるので、課題を突破してそれを確保してから森を出ること。期限は三日後の昼までだ。それまでに確保できなければ残念ながら不合格だからな!」
「はい。了解です」

 顔合わせが済んだら試験官から地図を渡される。その際、武器防具などの最低限の荷物以外は没収された。サバイバルなので、森の中にあるものだけでどうにかしろということらしい。

「それじゃいこうか」
「そうっすね」

 組み分けされた五人で森の中に入っていく。

 鋼等級の試験を受けようというだけあって、みんなそこそこ優秀そうだった。足場の悪い森の中でずっこけることもなく、すいすいと進んでいく。

「目標地点まで連携を確認しつついこうか。ザコとはいえ魔物も出るみたいだしね」

 この森では大した魔物は出ないとはいえ、何かがあった時に備えて動きを確認しておく。

 斥候が得意なティンが先頭を行き、ロア、モッコリが続き、その後を魔法使いのゼラとリーダーの俺が歩いていく。

 楽したいから後衛というわけではない。俺が魔物を倒しても経験値の無駄だからね。経験値はみんなに譲ってやろうという配慮だ。

「スモールベア! 右から三!」

 先頭を歩くティンが叫ぶ。

 スモールベアはその名の通り小型の熊みたいな見た目のモンスターだ。脅威度的には、ラビンより強く、オークより下である。

「熊公、これで終いでやすよ!」

――ザクシュッ。

 俺の出る幕もなければ、ゼラの出る幕もない。たいていモッコリがあっという間に全部倒してしまうからだ。モッコリが討ち漏らしたのはロアとティンが切り伏せて倒していた。

 モッコリはガンドリィの弟子だけあって特に優秀なようだな。オークくらいなら余裕で倒しそうだ。

 それなりに優秀なモッコリであるが、ジョーア村での戦いには参加してなかった。ガンドリィ的には信頼しているゆえ、王都に残す人員として選んだのかもしれない。

(何か良いスキルでも持っているのかな?)

 モッコリもそうだが、みんな鋼等級に挑もうという連中だ。何かしらの優秀なスキルを持っているかもしれない。

 この三日間の内に、同じチームの面子の血を全部頂いておこうか。少しでも強くなれるチャンスがあるならば活用しないとだからな。

(倒したスモールベアの血も忘れず回収しておこう。うぅ、獣臭くて不味いが仕方ない)

 そんな感じで、道中歩いていく。

 冒険者の足とは速いもので、しばらくすると、目的の場所に辿り着いた。

「この大木の下で拠点を作れ、って地図には示されてあるな」
「確かに拠点にしやすそうな場所でやすね」
「それじゃ拠点を作る人、食料調達する人、飲み水を確保する人、それぞれ分かれようか」

 野営に必要な作業をテキパキと進めていく。俺はモッコリと一緒に拠点を作ることになった。

「そりゃ」

――ドゴンッ。

 邪魔な草木を刈り取り、手頃な木を切り倒していく。

 吸血鬼の腕力もそうだが、スキル【伐採】のおかげもあってスムーズに木を切り倒せるな。

 切り倒した木を組んで簡易的な小屋を作っていく。

「ヨミトの兄貴、手際がいいでやすね。流石ガンドリィの兄貴が褒めてただけありやすぜ」
「ガンドリィは俺のこと、何て言ってたの?」
「そうでやすねぇ。ジョーア村では野菜を切るみたいに簡単にオークを倒していたって。あと、英雄色を好むは事実で、ジョーア村で娼婦を抱きまくっていたって。ガチなんでやすか?」
「あはは……概ね事実だね」

 本当は娼婦を抱いていたわけではなく、血を吸っていただけなんだがな。

 やはり酷く誤解されているようだ。まあでもそうだと言うしかないな。

「その……女っていいもんなんでやすか? 恥ずかしながら俺、まだ知らなくて」
「ああそうなんだ」
「ええそうなんでやすよ。ガンドリィの兄貴には鋼等級に昇格したら王都で一番良い店に連れていってくれるって約束してもらってるんでやすけど」

 唐突なカミングアウトをされた。鋼鉄の旅団の若い団員の性事情なんて、知らんがなそんなの。

「ヨミトの兄貴、女っていいもんすか?」
「え、うんまあ、良いものだよ女は」
「そうでやすよね。それで身を滅ぼす奴もいるって聞くくらいでやすし。去年の夏頃王都を騒がしたあの王都の吸血鬼もそうでやすしね」

 王都の吸血鬼とはカニバルのことか。いまだに噂されてるとはな。吸血鬼に対する風評被害が甚だしいぞ。

「吸血鬼じゃなくて人間だよ。名前はカニバルね」
「まあそりゃ確かに人間でしょうが、ものの例えでみんな吸血鬼って――」
「人間だよ。名前はカニバル。下町の高等院の学長で下級貴族だった男だよ」
「ああはい、確かに人間でやす。意外と細かくて強情でやすねヨミトの兄貴って」

 吸血鬼の名誉のためにも吸血鬼呼びはやめさせておく。

 まったくあんな変態爺と同族呼ばわりなんてされたくないぞ。エリザが聞いたらぶち切れるぞ。

「ああそれにしても女って、一体どんなもんでやすかねえ……」

 モッコリは気持ち悪い顔をしてぶつぶつと呟きつつ、作業を進める。

 女体の良さなんて知らないよ。女の血の味は知っているが女体は知らん。興味もない。吸血鬼となった今は血にしか関心がないからな。

「ヨミトの兄貴、女ってどんななんでやすか?」
「まあ楽しみに想像してなよ」
「ああ、もっと詳しく教えてくだせえ! ピーとかピーとかピーピーとか!」
「ほら放送禁止用語ばっか言ってないで、作業の手を緩めないで」
「放送禁止用語ってなんでやすか! エッチなもんでやすか!?」

 健康的すぎるゆえか、やけに女体について興味津々なモッコリの質問を適当にかわしつつ、作業を進めていく。しばらくして簡易的な小屋を組み上げることができた。

 嵐でも来ない限りは三日くらい余裕で持ちそうな掘建て小屋だ。五人くらい楽々寝れるし、十分すぎるだろう。

 小屋が完成する頃になると、他の連中が戻ってきた。みんな優秀で仕事を終えてきてくれたようだ。

「ここから北西に湧き水の出る場所がありました。飲み水は川よりもそこで確保した方がいいかもですね」
「とりあえず今日の分くらいは袋に入れて運んできたぜ」
「川に雷魔法をぶち込んで魚を捕獲しておいた。今日の夕食分くらいにはなるだろう。支給された塩で塩焼きにでもすればいい」

 飲み水の確保に行っていたロアとティン。それから食料の確保に行っていたゼラがそう報告してくれる。

 ゼラは雷魔法が使えるらしいな。俺はまだ雷魔法を使えないので、こりゃ絶対に血を確保しておかないとだな。今日の夜にでも吸血させてもらおう。

「料理は俺が作りやす。こう見えても料理は得意なんで。ガンドリィの兄貴の店で、暇な時に下働きとかしてるんでやすよ」
「そうか、じゃあモッコリにお願いするよ」
「任せてくだせえ!」

 夕飯作りはモッコリがやってくれることになった。スキル【料理】持ちの俺がやってもよかったが、あえてスキルや技術をひけらかす必要もないので、やる気のあるモッコリに任せよう。

「できやしたぜ。夕食にしやしょう!」

 夕飯は魚の塩焼き、それとそこらへんで摘んだ野草と熊肉(スモールベア)のスープだ。

 普段なら簡素すぎる飯だが、森の中でサバイバルしているのなら十分すぎる食事だな。

 大自然の中で美味しく食事を頂きながら、会話に花を咲かせる。出会ったばかりの五人で、自己紹介がてら身の上話をしていく。

「鋼等級に上がれば貴族街の方の仕事に就けるんですよね。貴族街の出入りも許されますから。だからなんとしても今回で合格して、団の中で出世したいです」
「俺も先輩諸氏に早く追いついて、大きな仕事がしてみたいものだ。この世にいる悪魔を全て滅したい。それが俺の生きる理由だからな」
「ウチは有名チームじゃないんで、貴族街の仕事なんて夢のまた夢だな。まあ鋼等級に上がれば色々利点あるんで、なんとしても合格したい所っす」

 ロア、ゼラ、ティンが、それぞれ所属するチームでの身の上話をする。

 ゼラが悪魔を滅したいとか言っているが、目の前で呑気に焼き魚を食いながら話を聞いている俺がその悪魔である。悪魔の前で悪魔を滅ぼす決意を語るなんてなんとも珍妙だ。

 スキル【変化】の隠蔽は完璧で正体がバレることはないようだ。ガンドリィにも通じてるし、この調子ならもっと上級の冒険者相手にも通じることだろう。

「俺もまだ大した冒険なんてしてないが、ジョーア村での戦いは一番の冒険だったかもしれないな」

 暇だし親睦を深めるため、俺も適当に冒険話をしておこう。ジョーア村でオークの焼肉パーティーをした時の話をしておく。

 あれはなかなか楽しかった。豚共の阿鼻叫喚する声、生き血を啜る感覚、焼き肉の味といい、全てが最高だった。

 吸血鬼の感性で素直に感じたままを表現するとドン引きされそうなので、適当に誤魔化しておくけど。

「そのジョーア村って所で、ヨミトの兄貴は毎晩やりまくったんでやすよね?」
「ああまあな。流石に毎晩ではないけどな」
「へえ。羨ましい限りだな」

 モッコリがシモの話に興味津々なので、自然と話題はシモの話になっていく。血気盛んな野郎が五人も集まると、シモの話しかしないらしい。

 シモネタが嫌いな奴はあんまりいないらしいな。ゼラ以外はノリノリで初体験の話とかをしていく。

 冒険者たるものいつ死ぬかわからないので、さっさと経験している人間が多いようだ。特に男は娼館とかでさっさと済ませる人間が多いらしい。

 血を汚すような真似をして勿体ないと思うのだが、それは吸血鬼の考えだからか。人間一般の考えでは違うようだ。

「あれは確か、十五の時だったか……」

 俺だけ話さないというのもあれなので、俺も捏造した初体験の記憶でも話しておくか。村のエッチなお姉さんで卒業したということにしておく。

 スキル【商人】や【交渉】のおかげか、捏造話がやたら上手くなっている。四人は食い入るように俺の話に聞き入る。

「ヨミトの兄貴、やっぱすげぇでやす!」
「初めてがそんな最高だったなんて、羨ましいなぁ」
「ちっ……」
「俺は娼館だったからマジ羨まし~。エッチな幼馴染欲しかった~」

 モッコリ、ロア、ゼラ、ティン――それぞれ四者四様の反応を示す。

 嘘八百の話だが好評だったようだな。童貞だとバレることはないだろう。

「じゃあ経験なしは俺だけってことですかい。くぅ、ぜってぇ今回で試験受かって、ガンドリィの兄貴に王都で一番の娼館に連れていってもらうでやすよ!」
「頑張りなよ童貞君!」
「うっせえでやすよ!」
「ギャハハ!」

 しょうもない話ばかりだったが、親睦は深められたらしい。出会った時よりも距離感が縮まったようだ。

「それじゃ今日の所はこれで終了。明日から本格的に目標物を探すってことで」
「お疲れでやす」

 修学旅行のような雰囲気でついつい夜更かししそうになるが、今はサバイバル試験中なのである。夜更かしは厳禁ということで、早めに就寝することにする。夜警する順番を決めた後、当直以外は小屋の中に引っ込む。

「すごいですね。これもヨミトさんが作ったんですか?」

 小屋の中には葉っぱで作ったカーテンがあるので、プライベート空間が保たれている。そのカーテンを見たロアが思わずといった様子で尋ねてくる。

「ああそうだよ」
「やりますね。鉄等級でありながら二つ名がつくだけのことはありますよ」

 スキル【裁縫】のおかげか、小細工が得意になっているからこのくらい朝飯前だぜ。褒められて悪い気はしないな。

「そんじゃお休みです」
「あうんおやすみ」

 ロアたちと別れて自分の寝床へと向かう。

(ダンジョン以外での就寝は久しぶりだな。おやすみみんな)

 草布団の中に入ると、スキル【睡眠】のおかげかすぐに寝入ることができた。
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