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六章
宿泊者名簿No.18 魚人奴隷解放戦士シャーク1/2
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「シャークの旦那ァ、エデンってとこはまだですかい?」
子分の野郎共に、本日何度目になるかわからねえ問いを投げかけられる。いい加減うんざりするな。
「この道で合ってるはずだ。このまま歩いていけばエデンに着くはずだ」
「へえそうですかい。もう喉がからからでさぁ」
「我慢しろ。どこかに川くらい流れているはずだ」
「真水はあんま好きじゃねえんですよねえ」
「贅沢言うんじゃねえ」
子分の野郎共の口から出るのは不満ばかり。だがそれも無理はないのかもしれない。
「あーあ、イティーバの潮風が懐かしいですぜ」
イティーバで職を失い、明日をも知れぬ身となった俺たちの胸に渦巻くのは不安、絶望――そんなのばかりだ。
「シャークの旦那ァ、エデンって所に行けば本当に仕事、あるんですよね?」
「あるはずだ。少なくともイティーバよりはな」
開拓者の村エデン。帝国との戦争により海路が制限されたために、王国は北大陸との通商路を急遽開発している。その中心地がエデンだ。
エデンは日に日に栄えているという噂だ。北大陸に通じる通商路ができればさらに発展することだろう。
発展している所があれば衰退している所もある。俺たちがいたイティーバの港町がそうだ。
帝国との戦争の影響で貿易はさっぱりだ。俺たち日雇い労働者の稼ぎ頭である、荷下ろしの仕事もなくなった。
おまけに空前絶後の不漁。イティーバに面した海から魚介類が消えたんじゃねえかってくらい、酷い有様だ。水産物関連の仕事もなくなっちまった。
一説じゃ帝国軍が毒でも流してるんじゃねえかって噂だ。あくまで噂で真実は定かでねえ。だがイティーバに住む者にとっちゃ弱り目に祟り目であることは事実。
イティーバで廃業する漁師、造船業者は後を絶たねえ。イティーバの経済は日に日に落ち込んでいる。
借金まみれの奴が増えてるからか、奴隷売買だけは唯一盛んだがな。
だが俺たち日雇い労働者は関係ねえ。奴隷を買えるのは金を持っている奴だけだ。金のない俺たちは奴隷になる心配をするだけだ。
イティーバは終わりだ。というわけで見切りをつけた俺たちはそんな終わった町を捨て、これから新天地エデンに向かおうって所だ。
生まれ育った町を捨てるならいっそ帝国にでも行ければいいんだが、それができれば苦労しねえ。王国からの流れ者なんて信用されねえだろう。高ランク冒険者でもあれば話は別だがな。
今更冒険者になって一から信用作りなんてやってられねえ。だから近場で旨みがある場所に流れて頑張るしかねえんだ。
「シャークの旦那! あんな所に家がありますぜ!」
「あん? 何を馬鹿な――本当だな」
日もすっかり暮れて、俺たち魚人族にとって命の源である水場だけでもせめて見つけてえと思って森の中を彷徨っていた所、ポツンとある一軒家を見つけた。
「どうしやす?」
「泊めてもらうしかねえだろ」
不気味ではあったが、他に当てもねえ。俺たちはその家で一晩休ませてもらうことにした。
「よくぞいらっしゃいました魚人族の皆様」
「お前も魚人か!?」
「ええ左様でございます」
迎え入れてくれたのはまさかの人魚。それも極上の美人であった。名前はエイというらしい。
「そうか奴隷身分にな。イティーバの市場で売られていたのか。お前さんも苦労したんだな……」
「ええでもこの家の主人、ヨミ様が私を買い上げて救ってくれました。お嫁さんにしてくれました」
「そうかそいつはよかったな」
わざわざ魚人を妻にするくらいだ。当然その男も魚人族であると思った――だがそれは違った。
「やあやあようこそいらっしゃいました皆様方。遠路遥々ご苦労様でございます」
「人族だとッ!?」
現れたのは人族の男。それも冴えない、顔色の悪い優男だった。
「ええ人族ですよ――ごほごほっ」
「テメエ、病持ちか」
「左様でございます。生まれつき肺を病んでおりまして」
「そうか難儀なことだな」
男は生まれつき肺を患っているらしい。それで空気の綺麗な森の中に住んでいるのだと言う。家が資産家だったのか、奴隷として購入した人魚を妻にして介助させて共に住んでいるようだった。
(こんなヤワな人族が、こんな美人の人魚を嫁にしてやがるのか! クソがッ!)
男を見て最初に浮かんだ感情は、不快感だった。人族のくせに、金の力を使ってこんな美しい人魚を嫁にしやがって。
「魚人族の皆さんは魚介類に目がないとお聞きしております。沢山用意したのでどうぞ召し上がってくださいませ」
男は素性も知れない俺たちにご馳走を振舞ってきやがった。こんな森の中で大量の海産物を用意しやがった。
金にものを言わせて運んできたんだろう。あるいは事前に山ほど買い込んで魔法の鞄にでも溜め込んであるのだろう。
昨今、港町の住人ですら満足に魚介類を食べられねえってのに。こんな森の中に住んでいながら魚介類を貪り食ってやがるとはな。
俺たち魚人にとって大好物の魚介類を山ほど食いやがって、許せねえ。クソみたいな金持ちがッ!
「美味ぇな……」
「ああ美味いっすね……」
「美味い……」
俺はむかつきを抑えられなかった。子分の野郎共も同じだったらしい。貰うもんは貰っておきつつ、主人の男に対しての不快感を抑えられなかった。
「ご満足いただけたようで幸いですよ。うふふ」
そんな俺たちの心情なんて素知らぬといった感じで、男は飛び切りの笑顔を浮かべてやがった。
むかつく笑顔だぜ。ぶん殴ってやりてえ。
「みなさん。ごゆっくりどうぞー」
夜も遅かったのでで、飯を食った後はすぐに水浴びして就寝となった。
「おい野郎共」
寝床で俺たちは寄り添い合って相談する。金持ちのクソ主人が寄こしてくれやがった美味い酒を片手に話し合う。
「わかってますぜシャークの旦那ァ。あのクソみたいな優男、ぶっ殺すんですよね?」
「ああそうだ。ぶっ殺して魚の餌にする。それであのクソ男に飼われているエイちゃんを解放して、俺たちのもんにする。人族なんかに支配されてるエイちゃんを救ってやろうぜ」
クソみたいな金持ち男に捕らえられている美しい人魚エイ。
あんな人族の病弱野郎にくれてやるには勿体ねえ。俺たちが奪いとってやる。
「エデンに行くのはやめだ。あの胸糞悪い金持ちから奪い取った金を使い、旗揚げするぞ」
「旗揚げですかい?」
「ああ俺たちゃ義賊だ。エイちゃんみたいな金持ち共に捕らわれている哀れな美しい人魚たちを解放する。俺たちは魚人奴隷解放戦士になるんだよ!」
「それいいですね! 格好良いですしやりましょうぜ!」
子分の野郎共もエデン行きなんて望んでなかったのか、俺の提案に二つ返事で答えてくれる。
「シャークの旦那、このクソみたいな世界をぶち壊してやりましょう!」
「ああこれは革命だ!」
俺たちは職を失ったならず者なんかじゃねえ。
魚人奴隷解放戦士だ。今から聖戦を始めるぜ。手始めに、あのくそみたいな金持ち男をぶっ殺す!
子分の野郎共に、本日何度目になるかわからねえ問いを投げかけられる。いい加減うんざりするな。
「この道で合ってるはずだ。このまま歩いていけばエデンに着くはずだ」
「へえそうですかい。もう喉がからからでさぁ」
「我慢しろ。どこかに川くらい流れているはずだ」
「真水はあんま好きじゃねえんですよねえ」
「贅沢言うんじゃねえ」
子分の野郎共の口から出るのは不満ばかり。だがそれも無理はないのかもしれない。
「あーあ、イティーバの潮風が懐かしいですぜ」
イティーバで職を失い、明日をも知れぬ身となった俺たちの胸に渦巻くのは不安、絶望――そんなのばかりだ。
「シャークの旦那ァ、エデンって所に行けば本当に仕事、あるんですよね?」
「あるはずだ。少なくともイティーバよりはな」
開拓者の村エデン。帝国との戦争により海路が制限されたために、王国は北大陸との通商路を急遽開発している。その中心地がエデンだ。
エデンは日に日に栄えているという噂だ。北大陸に通じる通商路ができればさらに発展することだろう。
発展している所があれば衰退している所もある。俺たちがいたイティーバの港町がそうだ。
帝国との戦争の影響で貿易はさっぱりだ。俺たち日雇い労働者の稼ぎ頭である、荷下ろしの仕事もなくなった。
おまけに空前絶後の不漁。イティーバに面した海から魚介類が消えたんじゃねえかってくらい、酷い有様だ。水産物関連の仕事もなくなっちまった。
一説じゃ帝国軍が毒でも流してるんじゃねえかって噂だ。あくまで噂で真実は定かでねえ。だがイティーバに住む者にとっちゃ弱り目に祟り目であることは事実。
イティーバで廃業する漁師、造船業者は後を絶たねえ。イティーバの経済は日に日に落ち込んでいる。
借金まみれの奴が増えてるからか、奴隷売買だけは唯一盛んだがな。
だが俺たち日雇い労働者は関係ねえ。奴隷を買えるのは金を持っている奴だけだ。金のない俺たちは奴隷になる心配をするだけだ。
イティーバは終わりだ。というわけで見切りをつけた俺たちはそんな終わった町を捨て、これから新天地エデンに向かおうって所だ。
生まれ育った町を捨てるならいっそ帝国にでも行ければいいんだが、それができれば苦労しねえ。王国からの流れ者なんて信用されねえだろう。高ランク冒険者でもあれば話は別だがな。
今更冒険者になって一から信用作りなんてやってられねえ。だから近場で旨みがある場所に流れて頑張るしかねえんだ。
「シャークの旦那! あんな所に家がありますぜ!」
「あん? 何を馬鹿な――本当だな」
日もすっかり暮れて、俺たち魚人族にとって命の源である水場だけでもせめて見つけてえと思って森の中を彷徨っていた所、ポツンとある一軒家を見つけた。
「どうしやす?」
「泊めてもらうしかねえだろ」
不気味ではあったが、他に当てもねえ。俺たちはその家で一晩休ませてもらうことにした。
「よくぞいらっしゃいました魚人族の皆様」
「お前も魚人か!?」
「ええ左様でございます」
迎え入れてくれたのはまさかの人魚。それも極上の美人であった。名前はエイというらしい。
「そうか奴隷身分にな。イティーバの市場で売られていたのか。お前さんも苦労したんだな……」
「ええでもこの家の主人、ヨミ様が私を買い上げて救ってくれました。お嫁さんにしてくれました」
「そうかそいつはよかったな」
わざわざ魚人を妻にするくらいだ。当然その男も魚人族であると思った――だがそれは違った。
「やあやあようこそいらっしゃいました皆様方。遠路遥々ご苦労様でございます」
「人族だとッ!?」
現れたのは人族の男。それも冴えない、顔色の悪い優男だった。
「ええ人族ですよ――ごほごほっ」
「テメエ、病持ちか」
「左様でございます。生まれつき肺を病んでおりまして」
「そうか難儀なことだな」
男は生まれつき肺を患っているらしい。それで空気の綺麗な森の中に住んでいるのだと言う。家が資産家だったのか、奴隷として購入した人魚を妻にして介助させて共に住んでいるようだった。
(こんなヤワな人族が、こんな美人の人魚を嫁にしてやがるのか! クソがッ!)
男を見て最初に浮かんだ感情は、不快感だった。人族のくせに、金の力を使ってこんな美しい人魚を嫁にしやがって。
「魚人族の皆さんは魚介類に目がないとお聞きしております。沢山用意したのでどうぞ召し上がってくださいませ」
男は素性も知れない俺たちにご馳走を振舞ってきやがった。こんな森の中で大量の海産物を用意しやがった。
金にものを言わせて運んできたんだろう。あるいは事前に山ほど買い込んで魔法の鞄にでも溜め込んであるのだろう。
昨今、港町の住人ですら満足に魚介類を食べられねえってのに。こんな森の中に住んでいながら魚介類を貪り食ってやがるとはな。
俺たち魚人にとって大好物の魚介類を山ほど食いやがって、許せねえ。クソみたいな金持ちがッ!
「美味ぇな……」
「ああ美味いっすね……」
「美味い……」
俺はむかつきを抑えられなかった。子分の野郎共も同じだったらしい。貰うもんは貰っておきつつ、主人の男に対しての不快感を抑えられなかった。
「ご満足いただけたようで幸いですよ。うふふ」
そんな俺たちの心情なんて素知らぬといった感じで、男は飛び切りの笑顔を浮かべてやがった。
むかつく笑顔だぜ。ぶん殴ってやりてえ。
「みなさん。ごゆっくりどうぞー」
夜も遅かったのでで、飯を食った後はすぐに水浴びして就寝となった。
「おい野郎共」
寝床で俺たちは寄り添い合って相談する。金持ちのクソ主人が寄こしてくれやがった美味い酒を片手に話し合う。
「わかってますぜシャークの旦那ァ。あのクソみたいな優男、ぶっ殺すんですよね?」
「ああそうだ。ぶっ殺して魚の餌にする。それであのクソ男に飼われているエイちゃんを解放して、俺たちのもんにする。人族なんかに支配されてるエイちゃんを救ってやろうぜ」
クソみたいな金持ち男に捕らえられている美しい人魚エイ。
あんな人族の病弱野郎にくれてやるには勿体ねえ。俺たちが奪いとってやる。
「エデンに行くのはやめだ。あの胸糞悪い金持ちから奪い取った金を使い、旗揚げするぞ」
「旗揚げですかい?」
「ああ俺たちゃ義賊だ。エイちゃんみたいな金持ち共に捕らわれている哀れな美しい人魚たちを解放する。俺たちは魚人奴隷解放戦士になるんだよ!」
「それいいですね! 格好良いですしやりましょうぜ!」
子分の野郎共もエデン行きなんて望んでなかったのか、俺の提案に二つ返事で答えてくれる。
「シャークの旦那、このクソみたいな世界をぶち壊してやりましょう!」
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