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七章
マッシュ村調査依頼5/10(マッシュ峡谷)
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紅葉を見ながら山道を進むことしばらく。村を出てから三日目の朝、俺たちは目的のマッシュ峡谷に辿りついたのであった。
マッシュ峡谷は薄っすらとした靄に包まれていた。美しくもどこか空恐ろしいような雰囲気を持っている。
「ここがマッシュ峡谷だ。視界が悪い上に、血塗れ熊(ブラッディベア)などの強い魔物が出没するから気をつけろ」
「血塗れ熊ね、了解(ペットとして欲しいな)」
ハンターの言葉に頷いてから、峡谷へと降り立つ。それから川沿いの砂利道を進んでいく。
「グブォオオオ!」
「邪魔ですわ」
「――ブゴッ!?」
岩陰から飛び出てきた熊を、エリザが一太刀で沈める。
「はぁっ!? 血塗れ熊を一撃だと!?」
ここらへんでは最強格扱いされている魔物を一撃で屠ったエリザを見て、ハンターが目を見開いた。
「グヴォオオ!」
「熊さん、こんにちは。そしてさよなら」
「――ブグッ!?」
続けざまに違う熊が襲い掛かってきたので、今度は俺が一撃で仕留めると、ハンターは完全に呆けた表情となった。
「お前ら、化けもんか!?」
そうです化け物です。吸血鬼です。そんなことを言いたかったが自重した。日々の修行の成果だと言っておこう。
「まあ冒険者だからね。俺たちは日々鍛えているから余裕だよ」
「そうか。冒険者ってのはすげえんだな。ちと舐めてたぜ」
「エリザさんもヨミトさんも、普段修行なんてしてないのに……。僕たちが朝練してる時も縁側でお茶飲んでるだけなのに……」
「パープル君の見てないところでたゆまぬ努力を続けているんだよ?」
「本当ですかぁ?」
感心するハンターであるが、パープルはジト目で見てくる。普段何もしてないように見えるからだろう。
失礼しちゃうね。修行っていっても吸血鬼にとってのそれは吸血することだ。そういう意味ではこの世界に転生してからというもの、毎日のように修行に励んでいるんだよ。
吸血は何百何千回とやっても飽きない。これからも何万回何億回と吸血しよう。血は大好物ですよ。
「流石は鋼等級の冒険者様といったところか。期待してるぜ」
「任せてくれ兄者」
「だから誰が兄者だっつの! いい加減殺すぞ!」
気安く肩に触れながら冗談を言うと、ハンターはそれを振り払う。
「兄者、そこの先に熊が潜んでるみたいだから気をつけて」
「だから兄者じゃねえって!」
「ヨミトさんにハンターさん、ふざけないでください! ブラッディベアは鋼等級相当の強い魔物ですよ! いくら余裕でも少しは緊張感持ってください! エリザさん、欠伸しながら背伸びなんてしないで!」
「いちいちうるさい坊やですわね」
「うるさくないです! 冒険者として当然の行いですから!」
危険地帯を歩いているというのに呑気にしていたので、パープルに怒られてしまった。
「はーい。ごめんなさい」
「ごめんなさいですわ」
「くそ、何で俺までこのチビに怒られなきゃなんねんだ……」
パープルに小言を言われ続けるのも面倒なので、真面目にやるとするか。
「ほいレイラとどめ」
「はい」
レイラたちに弱らせた熊を与えて止めを刺させる。レイラたちにとっては良いレベリングの機会だ。
ダンジョンマスターの力を使ってステータスを覗いてみると、結構成長しているな。最近はゴブリンやオークじゃ大したレベリングにもならなかったからちょうどいい。
「こんな熊の多い峡谷を通って村に通ってこれるなんて、茸人族ってそれなりに強いのか?」
「いや戦闘能力はそこまで高くねえよ。ただ、彼らは生まれ持つスキルを駆使して敵から逃れることができる。【胞子】って言ってな。毒、麻痺、眠りなどの状態異常をもたらす効果のある胞子を飛ばすことができんだ」
「なるほど。それで敵の注意を逸らすことができるってわけか」
「ああ。それと【胞子】の効果はそれだけじゃねえ。自分自身の姿を小さな胞子に変化させることもできる。それで風に乗って移動することができるんだ。そのおかげで、俺たちが三日かかるような獣道を一日で踏破しちまうってわけさ。この峡谷だって俺たちが目的の場所まで行くのに半日かかるが、彼らは半刻で踏破しちまう」
茸人族は生まれながら特殊なスキルを持っているみたいだな。
「へえ。茸人族ってのは、そんなスキルを持っているのか」
「ああ。あとそれ以外にも、茸栽培で恩恵のあるスキルも種族特性として持っているようだな」
「いいねえ。欲しいなぁ」
「欲しい? 何の話だ?」
「気にしないでくれ。ただの独り言さ」
「?」
ハンターとそんな会話を繰り広げながら峡谷を進んでいく。
茸栽培が楽になるスキルか。是非とも茸人族を眷属にしたいところだな。
茸栽培ができるようになれば、ダンジョンの食料生産能力がアップするからね。食のレパートリー的にも欲しいところだな。
マッシュ峡谷は薄っすらとした靄に包まれていた。美しくもどこか空恐ろしいような雰囲気を持っている。
「ここがマッシュ峡谷だ。視界が悪い上に、血塗れ熊(ブラッディベア)などの強い魔物が出没するから気をつけろ」
「血塗れ熊ね、了解(ペットとして欲しいな)」
ハンターの言葉に頷いてから、峡谷へと降り立つ。それから川沿いの砂利道を進んでいく。
「グブォオオオ!」
「邪魔ですわ」
「――ブゴッ!?」
岩陰から飛び出てきた熊を、エリザが一太刀で沈める。
「はぁっ!? 血塗れ熊を一撃だと!?」
ここらへんでは最強格扱いされている魔物を一撃で屠ったエリザを見て、ハンターが目を見開いた。
「グヴォオオ!」
「熊さん、こんにちは。そしてさよなら」
「――ブグッ!?」
続けざまに違う熊が襲い掛かってきたので、今度は俺が一撃で仕留めると、ハンターは完全に呆けた表情となった。
「お前ら、化けもんか!?」
そうです化け物です。吸血鬼です。そんなことを言いたかったが自重した。日々の修行の成果だと言っておこう。
「まあ冒険者だからね。俺たちは日々鍛えているから余裕だよ」
「そうか。冒険者ってのはすげえんだな。ちと舐めてたぜ」
「エリザさんもヨミトさんも、普段修行なんてしてないのに……。僕たちが朝練してる時も縁側でお茶飲んでるだけなのに……」
「パープル君の見てないところでたゆまぬ努力を続けているんだよ?」
「本当ですかぁ?」
感心するハンターであるが、パープルはジト目で見てくる。普段何もしてないように見えるからだろう。
失礼しちゃうね。修行っていっても吸血鬼にとってのそれは吸血することだ。そういう意味ではこの世界に転生してからというもの、毎日のように修行に励んでいるんだよ。
吸血は何百何千回とやっても飽きない。これからも何万回何億回と吸血しよう。血は大好物ですよ。
「流石は鋼等級の冒険者様といったところか。期待してるぜ」
「任せてくれ兄者」
「だから誰が兄者だっつの! いい加減殺すぞ!」
気安く肩に触れながら冗談を言うと、ハンターはそれを振り払う。
「兄者、そこの先に熊が潜んでるみたいだから気をつけて」
「だから兄者じゃねえって!」
「ヨミトさんにハンターさん、ふざけないでください! ブラッディベアは鋼等級相当の強い魔物ですよ! いくら余裕でも少しは緊張感持ってください! エリザさん、欠伸しながら背伸びなんてしないで!」
「いちいちうるさい坊やですわね」
「うるさくないです! 冒険者として当然の行いですから!」
危険地帯を歩いているというのに呑気にしていたので、パープルに怒られてしまった。
「はーい。ごめんなさい」
「ごめんなさいですわ」
「くそ、何で俺までこのチビに怒られなきゃなんねんだ……」
パープルに小言を言われ続けるのも面倒なので、真面目にやるとするか。
「ほいレイラとどめ」
「はい」
レイラたちに弱らせた熊を与えて止めを刺させる。レイラたちにとっては良いレベリングの機会だ。
ダンジョンマスターの力を使ってステータスを覗いてみると、結構成長しているな。最近はゴブリンやオークじゃ大したレベリングにもならなかったからちょうどいい。
「こんな熊の多い峡谷を通って村に通ってこれるなんて、茸人族ってそれなりに強いのか?」
「いや戦闘能力はそこまで高くねえよ。ただ、彼らは生まれ持つスキルを駆使して敵から逃れることができる。【胞子】って言ってな。毒、麻痺、眠りなどの状態異常をもたらす効果のある胞子を飛ばすことができんだ」
「なるほど。それで敵の注意を逸らすことができるってわけか」
「ああ。それと【胞子】の効果はそれだけじゃねえ。自分自身の姿を小さな胞子に変化させることもできる。それで風に乗って移動することができるんだ。そのおかげで、俺たちが三日かかるような獣道を一日で踏破しちまうってわけさ。この峡谷だって俺たちが目的の場所まで行くのに半日かかるが、彼らは半刻で踏破しちまう」
茸人族は生まれながら特殊なスキルを持っているみたいだな。
「へえ。茸人族ってのは、そんなスキルを持っているのか」
「ああ。あとそれ以外にも、茸栽培で恩恵のあるスキルも種族特性として持っているようだな」
「いいねえ。欲しいなぁ」
「欲しい? 何の話だ?」
「気にしないでくれ。ただの独り言さ」
「?」
ハンターとそんな会話を繰り広げながら峡谷を進んでいく。
茸栽培が楽になるスキルか。是非とも茸人族を眷属にしたいところだな。
茸栽培ができるようになれば、ダンジョンの食料生産能力がアップするからね。食のレパートリー的にも欲しいところだな。
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