吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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七章

マッシュ村調査依頼9/10(捜索活動)

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 ダンジョンの部隊を投入し、一斉捜索を開始してから、しばらく経つ。シヴァたちを連れて捜索に出ていたアキたちが戻ってきた。

「ヨミトさん、ハンターという人の痕跡はここで途絶えてます」

 アキたちの導きによって向かった先には、一際大きな瓦礫の山があった。

「この瓦礫の下が怪しいようですよ。シヴァたちがそう言ってます。ねえシイちゃん」
「はい。色んな臭いが集積してます。ハンターさんもそうですし、ローパーの臭いもここから色んなところに広がってるように思えますね」
「くんくん。うん、言われてみればそうだね」

 シイに言われて【獣の嗅覚】を発動して嗅いでみる。

 確かに、この瓦礫の下に臭いが集まっているように思える。俺は言われてからでないとわからなかったが、犬のシヴァたちや獣人のシイには嗅ぎわけられたみたいだ。

「よし、ここの部分の瓦礫を除去してくれ」
「はっ」

 ゴブリンたちに命じ、瓦礫の撤去作業を行う。ついでなので再利用できそうな資材は俺のダンジョンへと運んでおこう。

「ビンゴか」

 瓦礫の下には地下空間があった。ここからローパーたちが湧いて出てきたとすれば、急に現れたのも頷ける。

 問題は瓦礫の隙間をどうやって潜り抜けたのか、どうやって気づかれずに移動できたのかだが、何らかの方法があるのだろう。

 例えば、俺たちがこの岩穴にやって来る時に飲んだ特殊ポーションみたいなものがあれば可能だろう。小さくなって存在感を消すことができるポーションでもあれば、それが可能なはずだ。

 まあ推測は程ほどにしておくか。とにもかくにも、この地下空間の先が怪しいというわけだ。調べてみるしかないだろう。

「ライト、セイン。付いてきてくれるかい?」
「はいお供します。命に賭けても主をお守りいたします」
「随行の誉れ、光栄でございます。この幸福、一生忘れません」
「いちいち大袈裟だね君たち……」

 大仰に喜んで祈りだす二人を引き連れ、地下空間へと入る。

 イメージとしては防空壕のような洞穴だな。一本道の通路を進んでいくと、やがて突き当たりに出た。

「これは……」

 突き当たりの場所にあったのは、トーテムポールのような物体。

 これには見覚えがある。確か転移装置だったはずだ。ハザマ村の騒動(五章参照)の時の盗賊団が使用していたものと同じだな。

 盗賊団にやむなく協力していたユマたちの話によれば、毒蜘蛛という連中から齎された魔道具だとかいう話だった。確か“ポーター”とかいう名前だったか。

(ダンジョンマスターなら転移陣で事足りるから、わざわざこんなものを用意する必要はないよなぁ)

 念のためにメニューを開いて調べてみる。

(ふむ、改造できそうだな)

 メニューを開いてダンジョン作成機能を使って調べてみると、転移装置のある一帯をダンジョン化できることがわかった。

 ダンジョンに改造できるということは、ここら一帯は他のダンジョンマスターによってダンジョン化されていないということになる。

 移動に転移陣を使っておらず、重要場所と思われる場所もダンジョン化されていないということは、この先にいるのはダンジョンマスターではなさそうだ。

 どうやら今回の相手はダンジョンマスターではないようだ。ポーターがあることから、毒蜘蛛とかいう連中と関連がある可能性が高いというわけだな。

 断定はできないが、そう思える。

(この先にいる連中がハンターの失踪に関わり、茸人族たちの異変にも関わってる可能性が大というわけか。謎が少しだけだけど、解けてきたな)

 さらなる真相を探るべく、この転移装置の先に進みたいところだ。

 だがこの装置は鍵石がなければ使えないんだよな。奪い取るしかないな。

「ここをこうしてっと」

 転移装置から少し離れた所の通路をダンジョン化させ、隠し部屋を設置する。転移装置を使って移動してきた敵を捕らえるための部屋だ。

「おぉ神の御業……」
「拝謁賜りこの上なき幸せです」

 隠し部屋を作っている間、ライトとセインがぶつぶつと呟いてお祈りしていたが、無視する。

 何か目が怖い。なんなのあの子たち。

 優秀だけど怖いよ。いちいち大袈裟だしさ。それに俺は神様じゃなくて悪魔の吸血鬼なんだけど。

 まあそれはさておき。

「あの転移装置から必ず敵が現れるはずだ。ここに網を張り、現れた者を必ず仕留める。現れた敵を一人とて逃がすなよ。逃げられたら終わりだからね」
「はい、肝に銘じます」
「それじゃライトとセイン。ゴブリン部隊の指揮よろしくね」
「ええお任せください」

 ダンジョンマスターが相手でないならば、脅威度は下がる。ライトたちに任せても大丈夫だろう。

 ハザマ村の一件があったので、ライトたちは毒蜘蛛に恨みがある。相手が毒蜘蛛関連となれば、それを晴らすにはちょうどいい機会かもしれないな。経験値稼ぎのためにも彼らに任せよう。

「俺がまず対処するから、君たちはセインの護衛を頼む。俺に何かあればセインの指示を聞くように」
「かしこまりましたライトの兄貴!」
「元気がいいね。よろしくね」

 ライトたちがゴブリンの部下たちとコミュニケーションをとっている。上手くやっているようだし、ライトたちに任せて大丈夫だろう。

(それにしてもギャップのある光景だなぁ)

 傍から見ると、ゴブリン部隊を率いる勇者様と女神官といった感じだね。魔王軍に降って将となった勇者様と神官様か。面白い光景だな。

 さて、俺は他のゴブリンたちの指揮に回ろう。

「他の部隊は瓦礫の撤去作業を続けてくれ」
「かしこまりましたヨミト様」

 本丸は割れたが、念のために全ての瓦礫を撤去して他の場所も総ざらいすることにした。

 他の危険を排除するのもそうだが、茸人族が村を再建するにしても俺が利用するにしても瓦礫はない方がいいので、撤去することにしたのだ。

(こんな大きな木材を軽々持ち上げちゃってるよ。今更ながら人間やめてるよなぁ)

 そんなことを思いながら、ゴブリンたちに交じって瓦礫の撤去作業に汗を流す。吸血鬼のチートボディだと激しい肉体労働も楽で助かるね。

「――ご主人様。ライト様より伝令です」

 そしてしばらくすると、伝令のゴブリンが報告をくれた。ライトの使いのようだ。

「現れた敵を仕留めました。人間の男二人、ローパーと思われる魔物十二匹です。そして転移に使ったと思われる鍵石を確保しました」

 どうやらライトたちは上手くやってくれたようだ。

「そうかご苦労さん。怪我人は?」
「ローパーの攻撃でゴブリン兵に複数の負傷者が出たものの、セイン様の回復魔法のおかげで死者はなしです」
「ローパー十二匹も狩って死者なしか? ラッキーだな」

 ローパー十二匹。それだけの戦力相手に戦えば、ライトとセインはともかく、弱いゴブリンに犠牲が出てもおかしくはない。だが幸いにも犠牲は出なかったようだ。

「転移してきた人間とローパーは何故か小さかったので弱かったのです。それでも我々にとってはそれなりの脅威でしたが、ライト様とセイン様の助力があったのでどうにかなりました。怪我人はセイン様がすぐさま回復させてくれました」

 現れた敵は小さく弱かったらしい。どうやら連中は、俺たちがここに来る時に使った特殊ポーションのようなものを用いて自身及びローパーの身体を小さくしていたらしい。

(なるほどな。そうやって存在を誤魔化していたわけか)

 小さい身体で隠密的に移動して、奇襲する時に元の大きさに戻る。気配がまったく感じられず、気配が急に膨れ上がったようにして敵が現れたのはそういうわけか。

「そうかご苦労様。俺もすぐに向かうよ。他に敵がやって来ないか警戒は続けてくれ」
「はっ」

 伝令ゴブリンを送り返し、俺もすぐに向かう準備をする。

「イノコ、瓦礫撤去の総指揮は任せるぞ」
「はいかしこまりました」

 イノコに後事を託し、ライトたちの場所に向かう。

「ライトたち、よくやってくれたね。ご苦労様」
「いえ大した敵ではありませんでした。小さくなっていて弱かったですし」

 さっき作った隠し部屋にてライトたちを労い、死体を検分する。

 部屋には、知らない人間の男二人と、ローパーの死骸十二匹分が転がっていた。死んだことで小さくなる効果は消えたのか、元のサイズに戻っている。

「ヨミト様、ローパーを率いていたのはこちらの男です」
「こいつか。知らん男だな。もう一人の方も知らんな」

 ギルドの手配書とかで見た覚えはないから、無名の盗賊か何かだろう。男たちはいかにもな悪人面だった。

「ライトとセインは見覚えある?」
「いえありません」
「私もありません」

 ライトたちも見覚えはないという。やはり無名の盗賊のようだ。

「ヨミト様、男たちはこれを持っていました。あの転移装置に使う、鍵ですよね?」
「そのようだね。ありがとう」

 ライトから鍵石を渡され、俺は思わず笑みを浮かべる。

 これがあれば転移装置を使える。敵の本陣に向かえるだろう。

 さあて、今まで振り回された分、たっぷり仕返しをしてやろう。
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