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デキる先輩はちょっと可愛い No.1
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外はぬるい空気で息苦しかった。灼熱の太陽に照らされたアスファルトからの放射熱で、夜中になってもうだるような暑さであった。僕の後から外に出た社員たちも、口々に暑いだの文句を言った。
「それじゃあ二次会行く人ー!?はいっ!全員ねー!」
「えーっ!?そりゃないですよーっ!」
すでに二次会の話が僕の知らないところで進んでいた。さっきまで冷房の中でキンキンに冷やされて、一気に解凍されたと思ったらまた冷凍庫行きか、と僕はうんざりした。
「ほーい!じゃあ移動するよ!」
幹事役の男性社員がダミ声で指示を出すと、みんな水族館のペンギン行列のようにズルズルと後を追っていく。僕も見えない重力に引っ張られるようにつま先をみんなの行くほうへくるりと向けた瞬間、手首のあたりを掴まれた。
「相沢、二次会なんかフケて俺んちで飲んでけよ」
がっしりした色黒の男が腕まくりした手で僕を掴んでいた。首回りがとんでもなく太い。営業部の先輩の富樫。大学はラグビーだかアメフトにのめり込んだ、体育会一直線の熱血漢。そんな男が、僕の目をまっすぐに見て、うっすらと口元に笑みを浮かべていた。
「あのぅ、でも二次会が……」
「るせえよ。お前一次会だって端っこで黙ってたじゃねえか。適当に言い訳すんなよ」
富樫はぐっと力を込めて僕を引き寄せた。
「あっ!富樫さん!痛いっ!」
「俺んちに来りゃいいんだって!相沢っ!ほらっ!」
ぐいぐいと富樫は僕を引っ張っていく。何度か抵抗したが、腕をぶんぶん振り回されて、肩が外れそうなくらい痛かったので、僕は抵抗することを諦めた。二次会に向かった一行は、すでに視界から消えていた。
富樫は僕が抵抗しなくなったのを確認してからは、腕づくでどうにかしようとはしなかった。タクシーで富樫のマンション下まで乗り付け、彼はスマホで手早く支払を済ませた。道中、僕はずっと車窓から夜の帳が下りた街の風景を眺めた。
「ま、くつろいでくれよ」
男の一人暮らしとは言っても、富樫の家は整理整頓され掃除が行き届いている。僕は二足用意されたスリッパのひとつに足を入れた。富樫は、僕が今夜こうして部屋に来ることを100パーセント予想していたと思うと、少し混乱した。
「相沢、とりあえず何飲むよ?」
ネクタイを外して襟元を緩めながら富樫が聞いてきた。ビールをください、と僕が返すと、アイヨ!と板前のように富樫は威勢よく返事した。すでに富樫のペースで事が運んでいた。ソファに座り一息ついて、あらためて部屋を見渡した。白を基調として部屋で、隅には丈のある観葉植物の鉢があった。ほんのりアロマの匂いもした。富樫は仕事もできるが、こうした雰囲気作りも卒なくこなすデキる先輩だった。
「とりあえずテレビでも点けてろよ。適当にツマミ出すからよ」
「いろいろすいません」
富樫に半ば無理やり連れて来られた立場なのに、すいませんなどとのたまう自分に心の中で苦笑した。正直なところ、この部屋に来るのは今回が二回目であったし、一回目のそれなりの出来事もまだ鮮明に脳裏に記憶していた。
適当にテレビ番組を物色していると、富樫がいそいそと酒とツマミを載せた四角いトレイを運んできた。僕が恐縮していると、富樫はガツンと僕の前にガラスコップを置いて、まあまあとアリキタリなセリフを唱えながら生ビールを並々と注いだ。僕も富樫のコップに注ぎ返した。その手元を、富樫は熱っぽくも静かに見つめていた。
「それじゃあ二次会行く人ー!?はいっ!全員ねー!」
「えーっ!?そりゃないですよーっ!」
すでに二次会の話が僕の知らないところで進んでいた。さっきまで冷房の中でキンキンに冷やされて、一気に解凍されたと思ったらまた冷凍庫行きか、と僕はうんざりした。
「ほーい!じゃあ移動するよ!」
幹事役の男性社員がダミ声で指示を出すと、みんな水族館のペンギン行列のようにズルズルと後を追っていく。僕も見えない重力に引っ張られるようにつま先をみんなの行くほうへくるりと向けた瞬間、手首のあたりを掴まれた。
「相沢、二次会なんかフケて俺んちで飲んでけよ」
がっしりした色黒の男が腕まくりした手で僕を掴んでいた。首回りがとんでもなく太い。営業部の先輩の富樫。大学はラグビーだかアメフトにのめり込んだ、体育会一直線の熱血漢。そんな男が、僕の目をまっすぐに見て、うっすらと口元に笑みを浮かべていた。
「あのぅ、でも二次会が……」
「るせえよ。お前一次会だって端っこで黙ってたじゃねえか。適当に言い訳すんなよ」
富樫はぐっと力を込めて僕を引き寄せた。
「あっ!富樫さん!痛いっ!」
「俺んちに来りゃいいんだって!相沢っ!ほらっ!」
ぐいぐいと富樫は僕を引っ張っていく。何度か抵抗したが、腕をぶんぶん振り回されて、肩が外れそうなくらい痛かったので、僕は抵抗することを諦めた。二次会に向かった一行は、すでに視界から消えていた。
富樫は僕が抵抗しなくなったのを確認してからは、腕づくでどうにかしようとはしなかった。タクシーで富樫のマンション下まで乗り付け、彼はスマホで手早く支払を済ませた。道中、僕はずっと車窓から夜の帳が下りた街の風景を眺めた。
「ま、くつろいでくれよ」
男の一人暮らしとは言っても、富樫の家は整理整頓され掃除が行き届いている。僕は二足用意されたスリッパのひとつに足を入れた。富樫は、僕が今夜こうして部屋に来ることを100パーセント予想していたと思うと、少し混乱した。
「相沢、とりあえず何飲むよ?」
ネクタイを外して襟元を緩めながら富樫が聞いてきた。ビールをください、と僕が返すと、アイヨ!と板前のように富樫は威勢よく返事した。すでに富樫のペースで事が運んでいた。ソファに座り一息ついて、あらためて部屋を見渡した。白を基調として部屋で、隅には丈のある観葉植物の鉢があった。ほんのりアロマの匂いもした。富樫は仕事もできるが、こうした雰囲気作りも卒なくこなすデキる先輩だった。
「とりあえずテレビでも点けてろよ。適当にツマミ出すからよ」
「いろいろすいません」
富樫に半ば無理やり連れて来られた立場なのに、すいませんなどとのたまう自分に心の中で苦笑した。正直なところ、この部屋に来るのは今回が二回目であったし、一回目のそれなりの出来事もまだ鮮明に脳裏に記憶していた。
適当にテレビ番組を物色していると、富樫がいそいそと酒とツマミを載せた四角いトレイを運んできた。僕が恐縮していると、富樫はガツンと僕の前にガラスコップを置いて、まあまあとアリキタリなセリフを唱えながら生ビールを並々と注いだ。僕も富樫のコップに注ぎ返した。その手元を、富樫は熱っぽくも静かに見つめていた。
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