君しか要らない

すずまる

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私の婚約者様

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「冗談じゃない!俺はイルマ意外と結婚する気などない!」

 その声にご令嬢方が一斉に後ろを振り返りましたわ!……この隙に逃げちゃダメかしら?

「テ…テリア様」

 スザンヌ様の声が震えていますわね。まぁいくら愛し合っておられるとは言えこの状況では悪いことをしているように見えますものね。

「アイコス令嬢、貴女に名前を呼ぶ許可など一度も出したことはないはずだが?」

 貴族社会では家名に爵位をつけて呼ぶのが礼儀とされていて、まだ爵位のない子息令嬢は家名に令息、令嬢とつけるのが礼儀でもあり当たり前のことなのです。
 ぁ、でも愛し合っているのよねぇ?それなのに名前を呼ばせないなんて、テリア様、今は私が居るから気を遣ってくれているのね。やっぱりテリア様はお優しい方だわ。実はほんの少しだけ、ホントに勘違いしているわけではないけれど、それでも私を気遣ってくれる優しさや向けられる笑顔によってほのかに甘い気持ちが芽生え育ってしまったのは許して欲しい。
 そんなことを思い出したからでしょう、所詮私達の関係は政略的な物だと自分に言い聞かせると少しかなしくなってしまってつい俯いてしまいました。そしてそんな私の表情かおを見てテリア様は勘違いをなさってしまったのかもしれません。本当は愛しているはずのスザンヌ様に声を荒げたのです。

「俺のイルマに何をした!こんなに悲しそうな顔を……。貴女が同じ伯爵家とは言え家格としてはプライム家ウチより上であることは承知しているが彼女を傷つけるならたとえ相手が王族だろうと許すつもりはない!二度と彼女にも俺にも近付くな!」

 あれ?俺のって…俺のって……!?

「大丈夫かイルマ?あの女どもに何を言われた?」
「テ…テリア様?」
「もう大丈夫だ。あんな奴らを二度と近付けたりしないから」

 あんな?奴ら?…テリア様、お言葉が……?

「テリア様?」
「ん?」

 あぁ、何度見ても慈愛に満ちたお優しい笑顔かお

「アイコス令嬢と恋人同士ではないのですか!?」

 テリア様の先程までのお言葉も態度も、まるで私をあぃ…ぁああ……あぃっ………

「やめてくれ!俺が愛しているのはイルマだけだ!初めて君を見つけた時からずっと、ずっと君が好きなんだ!」

 ぇ?……えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

「で、でも私達の婚約はお互いに利があるからと私の父が強引に「それは違う!」!?!?」
「俺が君に…その、なんだ…ひっ……」
「ひ?」

 ひ?日?非?

「一目惚れして!!」
「ひっ!?」

 一目惚れって…あの一目惚れ?ぁ、もしかして『人』『名簿』『礼』???

「その…婚約の話を男爵家に打診するよりももっと前に……。君がゲイル殿男爵と一緒に建国祭で売り子をしていただろう?その時に、その、はじめは笑顔が愛らしいなと思って、近付いたら柔らかくて軽やかな声も可愛らしくて、それから何度か父と一緒にクーパー商会に訪れることもあって、生まれたばかりの弟に向ける優しい目、家族や商会の重合㊞、使用人にまで分け隔てなく溢れる優しさで接する君の姿を目にして……気付いたらもう君以外のことが考えられなくなったんだ。そんなある日、ゲイル殿が父を訪ねて来た事があったから俺、思わず礼儀も何もかもを忘れて父達が話している部屋に飛び込んで君との結婚を申し込んだんだ」

「私が建国祭で…って、え!?それって5年前にしか……」

 この国の建国祭は毎年盛大に行われ、我が家も普段のお店とは別に露店で小物などを商っているのですが、私が父の手伝いで売り子をしていたというなら間違いなく5年前の建国祭です。
 あの日は丁度歳の離れた弟が生まれたことも重なってかなり浮かれていたんです。

「ゎ…私……あの日はちょっと…あの、すごく、浮かれて…て……」
「うん、今思うとホント浮かれてたよね。念願の弟アンディが生まれたからだろ?弾んだ声も可愛かった」

 気付かれてた!?しかも可愛いって!?は…はずかし こうなったら開き直るしかありませんわ!

「えぇ、確かにあの日は弟が生まれた喜びも重なって浮かれておりましたわね。あの頃だって、いつもはあんなにはしゃいだりはしてませんでしたよ」

 ……いや、よくよく思い返すとお母様のお腹に弟が妹がいるのよと教えてもらってからつい最近まで、むしろ今朝もはしゃぎっぱなしでしたわ。

「そのはしゃいでた可愛い君に目も耳も奪われて、君を見かける度に君の優しさ、心の清らかさに惹かれたんだ」

 まるでロマンス小説のセリフの如き甘く痺れるような褒め言葉が誰もが憧れる素敵な男性によって紡がれていく。
 これが美男美女によって繰り広げられる恋愛劇なら『ほぅ…』と甘いため息をきながら『いつか私にも素敵な、私だけの王子様が同じ様に甘く囁いてくれるのかしら…』なんて夢見ることだろう。そして今私はそんな夢が叶ってしまっている……。そうは思うものの愛の言葉を紡いでいる人は王子様でも、その降り注ぐ愛を浴びているのは庶民の中でさえ埋没しそうなほど平凡な私なのだ。嬉しい前に一瞬ではあるけれども警戒が走ってしまう。

「あの、テリア様はもしかして、私を見初めてくれて私を知ってくれて、それで私を妻にと望んでくださったのですか?」

 冷静に考えるとこの質問はテリア様の愛を疑っているような、烏滸がましくも失礼な質問だったわ。それでも、もしかしたら、この身に不相応な私の願いが叶うのではと……。

「愛してる。俺は5年前の建国祭の日に君に惹きつけられてからずっと変わらず、いや、それ以上に君への愛が溢れて止まらないんだ。だからイルマ、どうかあんな外見ばかりを着飾って思いやりの欠片も無いようなハリボテの令嬢の言葉なんか信じないでくれ!俺の愛を信じてくれ!」

 悲痛なほどに真剣な眼差しが私を捉えて離さない。恥ずかしいのに目を逸らすことなんて出来なくて……。

「……も」
「ん?」
「私も…ずっとお慕いして…」

 私が、初めてお会いした時からずっと胸に秘めていた、きっと結婚はしても叶うことはないと思っていたこの恋心おもいを、伝えきる前に息も出来ないくらい強く抱きしめられた。

「イルマ!嬉しいよ…ありがとう!本当にありがとう!こんな俺を好きになってくれて!俺の思いを受け止めてくれて!本当に…本当にありがとう!」

 男の人がこんなに泣くなんて、私の想いを知って喜んでくれるなんて、いつの間にか私も人目も気にせずテリア様にしがみついたまま泣いていました。
 泣きつかれる頃にはテリア様はほんのりと目の周りを赤くしながらもいつものように甘く優しく微笑んでくれていました。
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