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― 参 ― ふたりのこども
答え合わせ
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「アル坊ちゃまが『アカンタレ小僧』はお爺様ではないかと思ったのはどうしてかを先ずは教えてもらえますか?」
コンラード先生が優しい声でアルに問いかけます。
「ん~…っと、おじいちゃんがアロじいちゃんに『カインぼっちゃまのせんせい』だったっていって、アロじいちゃんが『アカンタレコゾー』よりぼくほほうがいいこっていって、アカンタレはにげるこで、アロじいちゃんがにげちゃだめだっていったの」
ん~~…間違ってはいないのですが…きっとアル自信も何が言いたいのかわからなくなってしまっているのかもしれませんね。
「えっと、だから、アンナがおじぃさま、おべんきょうのひ、アロじいちゃんのとこにげて、にげるのアカンタレって、だからおじぃさまがアカンタレコゾーかなっておもったの」
相手に自分の考えを伝えたいという気持ちはひしひしと感じますが、その分どんどん言葉が短くなってしまっていますわね。なんて可愛いのかしら。
「あとね、おじぃさまはメッてしないの…」
確かにお父様はアルに声を荒げたところを見せた事がありませんわね。…いえ、私達も見た事がありません。
優しいと言えばそうなのですが『貴人は危険を眺めるもの』などと、この国の訓辞の一部を都合良く解釈して言い訳にしているのです。
この言葉はそもそも『貴人とは民に害為す危険を見つけ、賢人に意見を求め、武人に力を求め、そうして民を護る者也』というという訓辞なのですが、一部の貴族の行いを嘲り歪曲する事で『貴人は危険を眺め、賢人は隠れ、武人は力で抑え込む』という卑罵表現が生まれたのです。そしてお父様は、恐らくですがそのふたつの言葉と意味の違いを習ったのでしょう、意味がごっちゃになって卑罵表現を訓辞の意味で使っているようなのです。
「おや、それはアル坊っちゃまが叱られるような悪い子じゃないからではありませんか?」
勿論それもありますわ。なんせアルは本当に良い子なんですもの。
「そうだけど、ぼくじゃなくて、おじちゃんなの…」
おじちゃん?
「その『おじちゃん』は知ってる人でしたか?」
「しらないおじちゃん」
「じゃあその『おじちゃん』は悪い人じゃないかもしれませんねぇ、だからおじいさまは叱らなかったのでは?」
「わるいひとだよ!だってあのおじちゃんはぼくよりちょっとおおきいおねえちゃんをパンってしてふくろにいれてつれてっちゃったんだよ!」
なんて事でしょう…アルは誘拐事件を目撃したという事でしょうか?
思わず主人の方に眼を向けると主人も驚いた顔を…でもその顔はどこか息子がそんなものを見た事にと言うよりは『何故知っているのか』と思っているような顔に見えます。
「実は…半年ほど前から領民の中で子供が行方不明になっていると言う相談を受けているんです。殆どがアルより少し年上…ひとりでお使いに行ったり遊びに行ったりする年頃の女の子です」
「それをアル坊ちゃんが目撃したかもしれないと…?」
「おじぃさまもみたよね!でもめってしてくれなかったの!」
それが本当なら、いえ、アルが嘘なんてつくはずありません。お父様、それは『アカンタレ』では済まない話ですわよ。
「……あの男は先日デューク君に報告して潰してもらった組織の者だよ。あの時、アルと一緒に私も顔をしっかり確認したからね、しかもそいつは伯爵位を持っているなかなかめんどくさい狸だったからフィリップに後をつけさせたんだよ」
いつもアルのお出かけには必ずフィリップが護衛としてついて行ってくれています。成る程、お父様も弱くはないはずですし、お父様の護衛も一応いらっしゃいますし、何よりそのような犯罪組織をひとつでも潰せたのなら正しい判断だったのでしょう。
「ぁ…それであの日、アルは帰ってきた時にあんなことを言っていたのね」
私も気付きました。あの日夕食をいただいている時にアルは給仕をするフィリップに「ねぇフィリップ、きょうはとちゅうでどこにいっちゃったの?まいご?」と訊ねたのです。
フィリップが外出時のアルの護衛である事は使用人の中では家令のセルジュと家政婦長でアルの乳母でもあるアンナ以外の者は知らず、恥ずかしながら私もその組織のひとつを潰すことができたという話の中で初めて知ったほどだったのです。
半年程前から頻発するようになった女児誘拐事件…実は更に2年程前から王都や他領ではそういった事件が起こっているとの話は聞いていたのですが、正直なところ、所詮他人事としか思えていませんでした。
話を聞いた頃には既にアルを産んで母親となっておりましたので、誘拐された子供達のご両親の心痛を考えるとやはり何か出来ないかと思いはするのですが、自分の産んだ子供は男の子だった事でどうしても心の何処かで自分には関係ないと思ってしまっていたのでしょう。今日、この話が出るまで事件の事はあまり気にしていませんでしたわ。
「アル坊っちゃまのお爺様はご自分では捕まえたり叱ったりはしませんでしたがちゃんと捕まえてくれる人にお願いをしていたようですよ」
先生が穏やかな声で仰います。
「じゃあおじぃさまはアカンタレじゃない?」
「そうですね。お爺様は子供の頃は勉強が嫌で逃げてしまうようなアカンタレだったかもしれませんがちゃんと大人になって悪い事を見逃さない良い領主になったのですね」
「じゃあおべんきょうからにげないぼくならもっといいりょーしゅになれる?」
アルは既に次期領主としての自覚を持っているようです。誇らしく眩しく見えますわね。
「ああ、勿論。お前は私とお母様に似て勇敢で賢い子だからね」
デュークがアルの頭を撫でながら言います。
「アル坊っちゃまはきっと良い領主になれますよ。その為にもマナーやお勉強を頑張りましょうね」
コンラード先生も優しく鼓舞してくれています。目を輝かせたアルのお勉強がいよいよ始まります。
コンラード先生が優しい声でアルに問いかけます。
「ん~…っと、おじいちゃんがアロじいちゃんに『カインぼっちゃまのせんせい』だったっていって、アロじいちゃんが『アカンタレコゾー』よりぼくほほうがいいこっていって、アカンタレはにげるこで、アロじいちゃんがにげちゃだめだっていったの」
ん~~…間違ってはいないのですが…きっとアル自信も何が言いたいのかわからなくなってしまっているのかもしれませんね。
「えっと、だから、アンナがおじぃさま、おべんきょうのひ、アロじいちゃんのとこにげて、にげるのアカンタレって、だからおじぃさまがアカンタレコゾーかなっておもったの」
相手に自分の考えを伝えたいという気持ちはひしひしと感じますが、その分どんどん言葉が短くなってしまっていますわね。なんて可愛いのかしら。
「あとね、おじぃさまはメッてしないの…」
確かにお父様はアルに声を荒げたところを見せた事がありませんわね。…いえ、私達も見た事がありません。
優しいと言えばそうなのですが『貴人は危険を眺めるもの』などと、この国の訓辞の一部を都合良く解釈して言い訳にしているのです。
この言葉はそもそも『貴人とは民に害為す危険を見つけ、賢人に意見を求め、武人に力を求め、そうして民を護る者也』というという訓辞なのですが、一部の貴族の行いを嘲り歪曲する事で『貴人は危険を眺め、賢人は隠れ、武人は力で抑え込む』という卑罵表現が生まれたのです。そしてお父様は、恐らくですがそのふたつの言葉と意味の違いを習ったのでしょう、意味がごっちゃになって卑罵表現を訓辞の意味で使っているようなのです。
「おや、それはアル坊っちゃまが叱られるような悪い子じゃないからではありませんか?」
勿論それもありますわ。なんせアルは本当に良い子なんですもの。
「そうだけど、ぼくじゃなくて、おじちゃんなの…」
おじちゃん?
「その『おじちゃん』は知ってる人でしたか?」
「しらないおじちゃん」
「じゃあその『おじちゃん』は悪い人じゃないかもしれませんねぇ、だからおじいさまは叱らなかったのでは?」
「わるいひとだよ!だってあのおじちゃんはぼくよりちょっとおおきいおねえちゃんをパンってしてふくろにいれてつれてっちゃったんだよ!」
なんて事でしょう…アルは誘拐事件を目撃したという事でしょうか?
思わず主人の方に眼を向けると主人も驚いた顔を…でもその顔はどこか息子がそんなものを見た事にと言うよりは『何故知っているのか』と思っているような顔に見えます。
「実は…半年ほど前から領民の中で子供が行方不明になっていると言う相談を受けているんです。殆どがアルより少し年上…ひとりでお使いに行ったり遊びに行ったりする年頃の女の子です」
「それをアル坊ちゃんが目撃したかもしれないと…?」
「おじぃさまもみたよね!でもめってしてくれなかったの!」
それが本当なら、いえ、アルが嘘なんてつくはずありません。お父様、それは『アカンタレ』では済まない話ですわよ。
「……あの男は先日デューク君に報告して潰してもらった組織の者だよ。あの時、アルと一緒に私も顔をしっかり確認したからね、しかもそいつは伯爵位を持っているなかなかめんどくさい狸だったからフィリップに後をつけさせたんだよ」
いつもアルのお出かけには必ずフィリップが護衛としてついて行ってくれています。成る程、お父様も弱くはないはずですし、お父様の護衛も一応いらっしゃいますし、何よりそのような犯罪組織をひとつでも潰せたのなら正しい判断だったのでしょう。
「ぁ…それであの日、アルは帰ってきた時にあんなことを言っていたのね」
私も気付きました。あの日夕食をいただいている時にアルは給仕をするフィリップに「ねぇフィリップ、きょうはとちゅうでどこにいっちゃったの?まいご?」と訊ねたのです。
フィリップが外出時のアルの護衛である事は使用人の中では家令のセルジュと家政婦長でアルの乳母でもあるアンナ以外の者は知らず、恥ずかしながら私もその組織のひとつを潰すことができたという話の中で初めて知ったほどだったのです。
半年程前から頻発するようになった女児誘拐事件…実は更に2年程前から王都や他領ではそういった事件が起こっているとの話は聞いていたのですが、正直なところ、所詮他人事としか思えていませんでした。
話を聞いた頃には既にアルを産んで母親となっておりましたので、誘拐された子供達のご両親の心痛を考えるとやはり何か出来ないかと思いはするのですが、自分の産んだ子供は男の子だった事でどうしても心の何処かで自分には関係ないと思ってしまっていたのでしょう。今日、この話が出るまで事件の事はあまり気にしていませんでしたわ。
「アル坊っちゃまのお爺様はご自分では捕まえたり叱ったりはしませんでしたがちゃんと捕まえてくれる人にお願いをしていたようですよ」
先生が穏やかな声で仰います。
「じゃあおじぃさまはアカンタレじゃない?」
「そうですね。お爺様は子供の頃は勉強が嫌で逃げてしまうようなアカンタレだったかもしれませんがちゃんと大人になって悪い事を見逃さない良い領主になったのですね」
「じゃあおべんきょうからにげないぼくならもっといいりょーしゅになれる?」
アルは既に次期領主としての自覚を持っているようです。誇らしく眩しく見えますわね。
「ああ、勿論。お前は私とお母様に似て勇敢で賢い子だからね」
デュークがアルの頭を撫でながら言います。
「アル坊っちゃまはきっと良い領主になれますよ。その為にもマナーやお勉強を頑張りましょうね」
コンラード先生も優しく鼓舞してくれています。目を輝かせたアルのお勉強がいよいよ始まります。
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