私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ

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 突然の婚約破棄。
 アインスの冷たい宣告に、レイナは呆然と立ち尽くしていた。まるで、時間が止まってしまったかのように。
 ボロボロのドレスに、大勢の前で無様に告げられた心無い言葉。今のレイナは、誰の目から見ても伯爵家の令嬢とは思えない。
 周囲の貴族たちから漏れ聞こえる笑い声が、彼女をさらに追い詰める。

「アインス様、私にはアインナーズ伯爵家に生まれた娘としてのプライドがあります。本当に、このような格好でパーティに参加するとお思いですか? スカートを踏まれ、転んだ際に破けた事故だとお知りになっても……それでも、婚約破棄を望まれるのでしょうか?」

 レイナの凛とした声は、嘲笑に包まれた空間を一瞬だけ静まり返らせた。
 貴族の中には、レイナが転んだ状況を見ていた者もいる。正しいことを言っていると分かっている者もいる。面白がって、傍観者になっているだけ。
 しかし、アインスは冷笑を浮かべたまま、レイナを指差し口を開く。

「ははっ、その言い訳がもう何度も男を騙してきた尻軽女のものとしか思えない。君が夜な夜な男を求め、怪しいパーティに参加しているという噂が真実であった……この目にまざまざと見せつけられているようだよ!」

 この人は、何を言っているのだろう。身に覚えのない話をされても、レイナには理解できない。
 あたかも事実であるかのようにアインスが言い放ったせいで、周囲の貴族たちもざわめき立ち、好奇の目で彼女を見つめていた。

「アインス様、正気ですか? 婚前の令嬢が、自身を落とすような真似をするとでも? アインス様とは、もう何度も言葉を交わしてきました。根も葉もない噂と私を比較して、そんな答えが出てくるとは信じられません!」

 レイナの言葉は毅然としていた。彼女は、アインナーズ伯爵家の娘としての誇りを何よりも大切にしてきた。
 親が決めた婚約であったが、アインスに対する敬意を失ったことは一度もない。だが、今の彼の態度を目にし、彼女は深い失望を覚える。

「将来の夫となる僕に向かって、その口の聞き方とはね。レイナ……お前と幸せになる未来が見えなくなった。卑しい女は、その品位に相応しい男でも見つけることだ。二度と僕に話しかけるな!」

 アインスの紫色の瞳は冷酷に輝き、彼の声は侮蔑に満ちていた。アインスは背を向けて去っていく。

 レイナの心は砕け、力が抜けてその場に崩れ落ちてしまう。
 彼女の瞳からは、耐えきれない涙が溢れ出す。
 周囲の視線と嘲笑に晒されながらも、彼女は声を殺して涙を流し続けた。

「どうして、こんなことに……」

 誰も味方になってくれないこの場で、レイナの心に強く刻まれたのは、孤独と絶望だった。
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