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第一章 ティタノボアの箱庭世界
8.レオパードゲッコー
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ティフィン―――
俺が初めてお迎えした爬虫類。
レオパードゲッコーの女の子、ティフィン。
モルフはハイイエローで、綺麗なレモン色の身体に、黒色のヒョウ柄が美しい子だった。
女の子だからオシャレな名前をつけようと、俺の大好きな紅茶のリキュールの名前を付けて、可愛がった。
よく動く子で、俺がケージの前に立つと、奥からひょこっと顔をのぞかせ、首を少しだけ傾けて俺を見つめる癖があった。
そのしぐさに、何度俺はきゅん死にしそうになったことか。
俺の大切な子、ティフィン。
まさか、こんなにも早く巡り合えるとは。
ティフィンと目が合ったまま、俺は動くことができなかった。
いろいろな感情が渦巻きすぎていて、身体を動かすことへ意識を持っていけない。
巡り合えたことの嬉しさ、現世で一緒に暮らしていたなつかしさと愛しさ。
そしてもう一つ。
少しだけ心の奥底で渦巻いている……
恐怖―――
今、俺とティフィンは言葉を交わすことができる。できてしまう。
そして、現世での記憶は、ティフィンの中に存在している。
俺はティフィンのことを大切にした、愛していた。
その愛を、ティフィンはどのように受け取っていたのだろうか。
俺との暮らしを、ティフィンは何を感じながら生きていたのだろうか。
俺のことを、どう思っていたのだろうか。
次々と頭に浮かぶ疑問。
その答えを、この世界では聞くことができてしまう、
それがどんな答えであれ。
別に俺は、ティフィンに愛されたいとか、なついて欲しい、とは思わない。
ただ……。
俺の育て方が、もし間違っていたら。
環境を整え、ティフィンが快適に過ごせている…それが俺の思い込みだったとしたら。
本当はもっとこうして欲しかった、と思うことがあったのだとしたら。
それが、今俺の中で渦巻いている恐怖の正体だ。
神妙な顔をしたままフリーズしている俺を、ティフィンは数秒、不思議そうに見つめた後……
「ああーーーーー!!!ぬしだぁぁぁぁぁ!!!!」
その表情は、直視できないくらいの眩しい笑顔に変わった。
そしてそのまま、
「ぬしぃぃぃぃ!!!」
勢いよく俺に向かって抱きついてきた。
「わっ…!」
あまりの勢いに俺は後ろに倒れそうになったが、なんとか足に力をいれて耐えた。
腕の中には、俺の身体をぎゅっと抱きしめているティフィンがいる。
「ぬしもこの世界に来たんだぁ!会いたかったよー!」
ぐりぐりと頭をこすりつけてくるティフィン。
そのしぐさに、心の中にあった冷たい恐怖が少しずつ解けていくのを感じた。
「ティフィン……」
俺が名前を呼ぶと、彼女は抱きしめた姿勢のまま顔を上げた。
「なぁに、ぬし?」
至近距離で目が合う。
どきどきと跳ね回る鼓動を抑えつけて、俺は彼女に問うた。
「俺と一緒に過ごして、幸せだったか……?」
今の俺は、たぶん酷い顔をしているんだと思う。
不安そうで、泣き出してしまいそうで、だけど抑えきれない嬉しさもあって。
そんなぐちゃぐちゃな感情で見つめる俺に、ティフィンはくすり、と笑って言った。
「うんっ!すっごく幸せだったよ、ぬし!」
それは太陽のような暖かく眩しい笑顔だった。
俺の中にあった冷たい恐怖は一瞬で解け、俺の目から流れ出た。
「そ……っか……。そっか、そっかぁ…!」
ぎゅぅ、とティフィンの身体を強く抱きしめる。
良かった、と安堵した瞬間、今度は懐かしさで俺の心はいっぱいにあふれてきた。
よみがえる、現世での日々。一緒に過ごした15年間。
「ティフィン、久しぶり。また会えて、嬉しい」
「えへへ、わたしもだよ、ぬし!」
抱きしめていた力を緩め、改めて俺はティフィンと顔を合わせた。
夜行性の爬虫類に多い、爬虫類特有の瞳。
縦に細長い瞳孔と、グレー色の眼。
こうやって見ると、ヒト化したとはいえ、現世の時の面影が感じられる。
レオパードゲッコー。別名ヒョウモントカゲモドキ。
レオパ、と呼ばれていることがほとんどだ。
レオパの見た目の特徴は、ニシアフとよく似ていて、特に名の知れた爬虫類だ。
飼いやすい種のため、初心者向けとして最初に飼う人が多いような気がする。
かく言う俺もそうだ。
モルフの種類もかなり豊富で、白、黒、黄色、オレンジ、とその種類は多岐にわたる。
「あ、ティフィン。一つ聞きたいんだけど、その”ぬし”ってのは俺のこと?だよな?」
「うん!飼い主、だからぬし!」
「ぬし…か…」
さっきまではそこまで思考が回らなかったが、改めて考えてみると、なんか聞きなれない呼ばれ方をしてんな、と気づいた。
「ってかあれか。現世にいた時も、俺の名前、ティフィンに名乗ることもなかったか」
一緒に過ごしていて、自分の名前を聞かせること機会なんてほとんどない。
長く過ごしてきたけど……ティフィンは俺の名前を知らない可能性がある。
っていうか知らないだろう。
「確かに!ぬしの名前、わたし知らないや!ぬし、何て名前?」
家族のように一緒にいたのに、こうして自己紹介するのも面白いな、と思いながら、俺は初めて彼女に名乗った。
「俺はマコトだ」
「マコト、かぁ!マコト…。……でも、わたしにとって、ぬしはぬしだから……。ぬしって呼び方嫌なら変えるけど…」
「あはは、いいよ。ティフィンの好きなように呼びな」
「わぁい!」
ティフィンは、俺の名を呼ぶのにしっくりこなかったようだ。
特に呼び方にこだわりを持っているわけではないし、呼びやすいように呼んでくれればいい。
俺とティフィンの会話がひと段落したところで、
「まさかマコトがティフィンの飼い主だったとはな。運命ってあるものなんだな」
後ろにいたミィがこちらへと歩いてきた。
「ミィちゃん!ぬしを連れてきてくれてありがとう!これで、わたしたちの夢はきっと叶うよ!」
「あぁ。君の飼い主だった人間ならば、いろいろと信頼できそうだ。……さて、マコト。ここのカフェについて、話していこうか」
窓の外から差し込む、柔らかい日の光が、俺たちを優しく照らしている。
夢を語り合うのにふさわしい、最高の環境だ。
カフェの中にあるテーブルに座り、俺たちはこれからのことを話し合い始めた。
俺が初めてお迎えした爬虫類。
レオパードゲッコーの女の子、ティフィン。
モルフはハイイエローで、綺麗なレモン色の身体に、黒色のヒョウ柄が美しい子だった。
女の子だからオシャレな名前をつけようと、俺の大好きな紅茶のリキュールの名前を付けて、可愛がった。
よく動く子で、俺がケージの前に立つと、奥からひょこっと顔をのぞかせ、首を少しだけ傾けて俺を見つめる癖があった。
そのしぐさに、何度俺はきゅん死にしそうになったことか。
俺の大切な子、ティフィン。
まさか、こんなにも早く巡り合えるとは。
ティフィンと目が合ったまま、俺は動くことができなかった。
いろいろな感情が渦巻きすぎていて、身体を動かすことへ意識を持っていけない。
巡り合えたことの嬉しさ、現世で一緒に暮らしていたなつかしさと愛しさ。
そしてもう一つ。
少しだけ心の奥底で渦巻いている……
恐怖―――
今、俺とティフィンは言葉を交わすことができる。できてしまう。
そして、現世での記憶は、ティフィンの中に存在している。
俺はティフィンのことを大切にした、愛していた。
その愛を、ティフィンはどのように受け取っていたのだろうか。
俺との暮らしを、ティフィンは何を感じながら生きていたのだろうか。
俺のことを、どう思っていたのだろうか。
次々と頭に浮かぶ疑問。
その答えを、この世界では聞くことができてしまう、
それがどんな答えであれ。
別に俺は、ティフィンに愛されたいとか、なついて欲しい、とは思わない。
ただ……。
俺の育て方が、もし間違っていたら。
環境を整え、ティフィンが快適に過ごせている…それが俺の思い込みだったとしたら。
本当はもっとこうして欲しかった、と思うことがあったのだとしたら。
それが、今俺の中で渦巻いている恐怖の正体だ。
神妙な顔をしたままフリーズしている俺を、ティフィンは数秒、不思議そうに見つめた後……
「ああーーーーー!!!ぬしだぁぁぁぁぁ!!!!」
その表情は、直視できないくらいの眩しい笑顔に変わった。
そしてそのまま、
「ぬしぃぃぃぃ!!!」
勢いよく俺に向かって抱きついてきた。
「わっ…!」
あまりの勢いに俺は後ろに倒れそうになったが、なんとか足に力をいれて耐えた。
腕の中には、俺の身体をぎゅっと抱きしめているティフィンがいる。
「ぬしもこの世界に来たんだぁ!会いたかったよー!」
ぐりぐりと頭をこすりつけてくるティフィン。
そのしぐさに、心の中にあった冷たい恐怖が少しずつ解けていくのを感じた。
「ティフィン……」
俺が名前を呼ぶと、彼女は抱きしめた姿勢のまま顔を上げた。
「なぁに、ぬし?」
至近距離で目が合う。
どきどきと跳ね回る鼓動を抑えつけて、俺は彼女に問うた。
「俺と一緒に過ごして、幸せだったか……?」
今の俺は、たぶん酷い顔をしているんだと思う。
不安そうで、泣き出してしまいそうで、だけど抑えきれない嬉しさもあって。
そんなぐちゃぐちゃな感情で見つめる俺に、ティフィンはくすり、と笑って言った。
「うんっ!すっごく幸せだったよ、ぬし!」
それは太陽のような暖かく眩しい笑顔だった。
俺の中にあった冷たい恐怖は一瞬で解け、俺の目から流れ出た。
「そ……っか……。そっか、そっかぁ…!」
ぎゅぅ、とティフィンの身体を強く抱きしめる。
良かった、と安堵した瞬間、今度は懐かしさで俺の心はいっぱいにあふれてきた。
よみがえる、現世での日々。一緒に過ごした15年間。
「ティフィン、久しぶり。また会えて、嬉しい」
「えへへ、わたしもだよ、ぬし!」
抱きしめていた力を緩め、改めて俺はティフィンと顔を合わせた。
夜行性の爬虫類に多い、爬虫類特有の瞳。
縦に細長い瞳孔と、グレー色の眼。
こうやって見ると、ヒト化したとはいえ、現世の時の面影が感じられる。
レオパードゲッコー。別名ヒョウモントカゲモドキ。
レオパ、と呼ばれていることがほとんどだ。
レオパの見た目の特徴は、ニシアフとよく似ていて、特に名の知れた爬虫類だ。
飼いやすい種のため、初心者向けとして最初に飼う人が多いような気がする。
かく言う俺もそうだ。
モルフの種類もかなり豊富で、白、黒、黄色、オレンジ、とその種類は多岐にわたる。
「あ、ティフィン。一つ聞きたいんだけど、その”ぬし”ってのは俺のこと?だよな?」
「うん!飼い主、だからぬし!」
「ぬし…か…」
さっきまではそこまで思考が回らなかったが、改めて考えてみると、なんか聞きなれない呼ばれ方をしてんな、と気づいた。
「ってかあれか。現世にいた時も、俺の名前、ティフィンに名乗ることもなかったか」
一緒に過ごしていて、自分の名前を聞かせること機会なんてほとんどない。
長く過ごしてきたけど……ティフィンは俺の名前を知らない可能性がある。
っていうか知らないだろう。
「確かに!ぬしの名前、わたし知らないや!ぬし、何て名前?」
家族のように一緒にいたのに、こうして自己紹介するのも面白いな、と思いながら、俺は初めて彼女に名乗った。
「俺はマコトだ」
「マコト、かぁ!マコト…。……でも、わたしにとって、ぬしはぬしだから……。ぬしって呼び方嫌なら変えるけど…」
「あはは、いいよ。ティフィンの好きなように呼びな」
「わぁい!」
ティフィンは、俺の名を呼ぶのにしっくりこなかったようだ。
特に呼び方にこだわりを持っているわけではないし、呼びやすいように呼んでくれればいい。
俺とティフィンの会話がひと段落したところで、
「まさかマコトがティフィンの飼い主だったとはな。運命ってあるものなんだな」
後ろにいたミィがこちらへと歩いてきた。
「ミィちゃん!ぬしを連れてきてくれてありがとう!これで、わたしたちの夢はきっと叶うよ!」
「あぁ。君の飼い主だった人間ならば、いろいろと信頼できそうだ。……さて、マコト。ここのカフェについて、話していこうか」
窓の外から差し込む、柔らかい日の光が、俺たちを優しく照らしている。
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