れぷたいるず!~転生先の異世界は爬虫類がヒト化した世界でした~

桜蛇あねり

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第一章 ティタノボアの箱庭世界

13.コロシアムの魔法

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―――コロシアム内のバトル場入り口にて。


選手がバトル場へ入場する際は、必ず入り口にある扉をくぐって入場する。

赤サイドの選手も、青サイドの選手も、入るときは同じ、この扉から入らなければならない。

バトルが終わった現在、扉は固く閉ざされている。



その瞬間、閉ざされていた扉が、まばゆい光に包まれた。




その光は2匹の身体を形成して……おさまった。


そこにいたのは、先ほどまで激しい死闘を繰り広げていたライメイとトラン。

彼らの身体には、一つの傷も残っていなかった。


「あー、マジであそこで噛みつかれるとは思わなかった」

ライメイが先ほどまで深い傷があったはずの首元をさする。

「でも、よくあの状態で冷静に反撃できたよな。……負けたよ」

トランは悔しそうに目を伏せながらも、素直に敗北を認めた。

戦闘から戻った2匹は、互いに顔を見合わせ、握手を交わす。

そこへ、

「おう、危なかったな、ライメイ」


「お疲れ様、トラン」


2人の人間がやってきた。

先ほど、バトル場にある透明な空間で二人を見守っていた人間だ。

チャイナドレスをまとった女性は、トランへ近づき、そっと彼の肩へと手を置いた。

「いい動きだったわ、トラン。今回は負けちゃったけど、あなたの強さならすぐ取り返せる。めげずに次の勝負のことを考えましょうね」

「はい……っ。精進します…!」

彼女のねぎらいの言葉に、トランは悔しそうに、だけど前向きな声で返事をする。

女性は優しくほほ笑みながら、

「それじゃあまたね。いい勝負をありがとう。だけど、次は負けないわ」

ライメイとそのトレーナーに手を振り、トランを連れて去っていった。


「ライメイ」


彼女を見送った後で、トレーナーはライメイに声をかける。

「んー?なに、リーダー」

ライメイは振り返って、トレーナーへと身体を向けた。

あらゆるところに着けているチェーンがぶつかりあう音が響く。

「お前、テンションMAXになるのはいいが、それで油断すんの気をつけろよ。今回もヤバかっただろ」

「あーいや、つい…。アガってくるとなんでも思い通りになっちまう気がして…」

リーダー、と呼ばれた人間の指摘に、ばつの悪そうにライメイは頭をかいた。

何度かコロシアムには出場しているが、リーダーの言う通り、テンションが上がってくると、守りや回避がおろそかになってしまうことが何度かあった。

それで負けたことももちろんある、というか、それで負けた回数の方が多いかもしれない。

「いつまでたっても直せねぇってんだったら、一度徹底的に敗北を味わってみるか?なす術もなくボコボコにされたら、お前の思い上がりも直せるだろうよ」

「ひぇ!?そ、それは勘弁してくれよぉ!頑張って直すからさぁ!」

はあ、と呆れながら歩き出すリーダーの背を、ライメイは慌てて追った。

「ってかリーダー!オレ勝ったんだからさぁ!そこに対してのねぎらいとか、褒めるとかないの!?」

「うるせ。てめぇの実力だったらさっさとAランクいけるだろ。Bランクで満足してんじゃねぇよ」

「えー!それはそれとしてさぁ!まずはさ、ほら、褒めようよ!オレ、褒めて伸びるトカゲよ!」

「うるせ」

隣で騒ぎながら歩くライメイに、リーダーは言葉はかけず、代わりに乱暴に頭をぐしゃぐしゃと撫でてやった。





「時空の魔法?」

ティフィンの説明を聞いていた俺は、その言葉を思わず口にした。

「ティタノボア様の魔法だよ。その魔法で、このコロシアムはつくられてるの」

「それで、このコロシアムでは殺し合いが認められている、と?」

ティフィンは丁寧に説明してくれた。




各地に配置されているコロシアムには、この世界の創造主であるティタノボアによる『時空の魔法』がかけられているらしい。

その魔法は、バトルが終わった瞬間、出場者の肉体を戦闘前の状態に巻き戻す、というものだった。

どんな大けがを負っても、命を落としたとしても、あのバトル場にいる限り、肉体の時間は元に戻るのだという。


ただし、あくまで戻るのは肉体の状態だ。


闘った記憶や、精神的な負荷に関しては、戻せない。



「だから、精神的にダメージを与える戦術で負けたり、死を経験してトラウマになってしまったりしたら、身体は無事でも、戦えなくなってしまう爬虫類もいるんだよ」


ティフィンが語るその口調には、どこか楽しそうに聞こえた。

彼女は、このコロシアムでの戦闘を今までたくさん観てきたのだろう。

数々の強者を、そしてそれ以上に多いであろう敗れた者たちも。

本気の戦闘だからこそ味わえる、命のやり取りを、彼女は楽しんでいる。

いや、違うな。

ティフィンは、周りの観客のような、娯楽として楽しんではいない。

だって、先ほどのバトルを見守る彼女の目は、真剣そのものだった。

まるで、これから闘う相手を見据えるような、そんなまなざしだった。




「ティフィン。コロシアムに……出たいのか?」



俺が聞くと、ティフィンは何も言わずに、じっと俺の目を見つめた。

彼女の、細長い瞳孔が、まっすぐに、俺を捉えていた。

ああ、やっぱりこの子の瞳は、すごく綺麗だな、と思った。



永遠に続くかと思われたその沈黙は、


「さぁ!それでは、本日の2戦目に参りましょーっ!」


司会者の叫び声に破られた。


声を聞いたティフィンは視線をバトル場へ向ける。

俺もつられてバトル場へと視線を向けた。


「まずは青サイドー!……」


選手の紹介を聞きながら、

「ぬし」

周りの歓声でも聞き取れるよう、ティフィンは俺に告げた。


「ここの観戦が終わったら、ついてきて欲しい場所があるんだ」

俺はティフィンの方を見たが、彼女は視線をバトル場から離すことはなかった。

その口元は、笑っていた。

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