れぷたいるず!~転生先の異世界は爬虫類がヒト化した世界でした~

桜蛇あねり

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第一章 ティタノボアの箱庭世界

16.UROBOROSU

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カフェで、ティフィンとミィの攻防にマコトが巻き込まれているころ……。

ミナミの街の裏通りを歩く、二つの影があった。

今日のコロシアムの第一戦目で勝利を収めたライメイと、そのトレーナートウマ。

二人は、にぎやかな深夜の裏町を颯爽と歩いていく。

表通りの店はほとんどがシャッターを下ろし、街は眠りについたように静まり返っていた。

しかし、そこから狭い裏通りへ一歩足を踏み入れると、そこは夜行性の世界。

色とりどりのネオンが視界を染め、酒と音楽が混ざり合う空間の中、あらゆる場所でバトルが行われていた。

能力同士の激しい衝突と、観衆の野次と歓声が響きわたる。

これがミナミ街の裏通り。

娯楽と欲望で満たされた、夜の街だ。




「よう、トウマ!いい酒はいってんぞ!寄っていけよ!」

「ライメイー!さっきのバトルよかったぞー!」

「お二人さん、ちょっと歌っていかない?みんな聞きたがってるよ!」

2人が歩いていると、いろんなところから声がかかった。

いつもの光景だ。


「わりぃな、今日はまっすぐ帰る日だ」

トウマは速度を変えることなく、声の方に、軽く手を振って挨拶だけして歩いていく。

「ごめんなー!今度また寄るからさ!」

それに続くように、ライメイも顔の前で手を合わせながら歩いていった。


裏通りをさらに進んでいき、今夜は閉まっているライブハウスへとやってきた。

地下へと続くコンクリートの階段を降り、”関係者用”のプレートがかかっている扉を開け、中へと入る。



中は、少し広めのバンドグループの練習場になっていた。

ドラムセット、ギターアンプ、ミキサー卓……。

音を生む機材が所狭しと並び、床も壁も分厚い防音材で覆われている。

ここは、トウマが経営するライブハウスで、数多のバンドグループがこの場所でリリックを刻んできた。

経営はトウマがスカウトした爬虫類たちとともに行われている。

とはいえ、彼らにはあくまで経営の裏方をお願いしている程度。


彼らの本業は、バンドグループ【UROBOROSU】として、この世界に名前を轟かせることだ。



練習場には、3匹のメンバーがいた。

が、誰も楽器を手にしていない。

それどころか、うち2匹は床に転がり、激しい運動をした後のように、肩で息をしていた。


「……またか、ゼロ」


その様子に驚くこともなく、トウマはため息をつく。

転がる2匹の中心で立っていた青年が、トウマに気づいた。

「おかえり、トウマぁ」

振り返った彼の目は、獲物を見つけたかのようにぎらついていた。


彼はアルマジロトカゲのゼロ。

キャラメル色の茶髪に、鋭い黒色の瞳。

彼の頬や腕には、固いとげのような鱗が生えている。


現世では、名の知れたバンドマンのトウマと共に暮らしていた。

この世界で再会し、ヒトの姿を手に入れたゼロは、飼い主と同じ音楽の世界に入っていったのだ。

……音楽の世界に入っていったのだが、ゼロはそれ以上にハマりこんでしまったものがあった。


「よーお、ライメイ。今夜はどうだったんだよ。もちろん勝ったよなぁ?」

トウマの後ろにいるライメイに目をつけ、にやりと笑うゼロ。

その猟奇的な笑みに、ライメイはゾクリと身震いした。

「ゼロさん、お疲れっす…。もちろん、勝ったっすよ」

「そっかそっか、さすがだなぁ。じゃあまだ、暴れたりねぇんじゃねぇか?」

「いや、その…。かなり接戦でメンタル的にきたというかなんというか……」

ライメイは目をそらしながら、ごにょごにょと小声でつぶやいた。

目線をゼロの足元にやると、同じUROBOROSUのバンドメンバーがぐったりと倒れている。

身体の所々に、細い切り傷がいくつも走っていた。ゼロにやられたのだろう。


「ごちゃごちゃうるせぇ。黙って俺様の相手しろや。欲求不満なんだよ」


動けなくなるほどの威圧を放ちながらも、ゼロの声は落ち着いたものだった。

それは、絶対的強者だからこその余裕。



「嫌っすよ!ゼロさん、ランク全然違うのに容赦しないじゃないっすか!オレ、Bっすよ!?」

何とかこの場を切り抜けようと、全力で拒否するライメイだったが……。

「経験も強さも全然違うのにオレなんかと―――がっ!?」

その言葉は途中で遮られた。

ゼロが目にもとまらぬ速さでトウマの横をすり抜け、ライメイに飛びかかったのだ。

そしてそのまま床へと乱暴に押し倒される。


「ゼ、ゼロさ……」

「ランクなんか関係ねぇよ。さっさと戦闘態勢なれ」

「う……。リーダー、助けて!」

身体を強い力で押さえつけられ、こちらが闘う意思を見せないと解放されそうにない状況に耐えかねたライメイは、必死に斜め前に立っているトウマへ助けを求めた。

トウマはその様子を黙ってみていたが、ふぅ、と再びため息をつき、

「ま、ちょうどいい。相手してやれ。こうなったゼロは止まんねぇからな」

そう言い放った。

「リ、リーダー!」

涙目になりながらトウマに視線を送るライメイ。

だが、彼はそのままゆっくり部屋の端まで歩いていき、壁にもたれかかった。

それから、腕を組んでなにやら考え込んでしまった。

こうなったらもうダメか。仕方ない、腹をくくろう。

覚悟を決めて、ライメイは両手に雷の力をこめていく。

「さぁ、始めるかライメイ。刺激的な夜にしようぜぇ!」

「ああもう!あんたのその戦闘狂なとこ、どうにかしてくださいよ!雷鳴サンダー!!」

バトルを始めた2匹を、トウマは静かに見つめていた。



ゼロは、ライメイも言っている通り、戦闘狂だ。

この世界でコロシアムの試合を初めてゼロと見に行った時、彼は目下で繰り広げられる弱肉強食の世界に異常なまでの興奮をみせた。



自分の強さを、ここで試したい。

世界の頂点に立ちたい。

最強の爬虫類になりたい。



そう意気込んで、音楽と並行してコロシアムにも打ち込んだ。

あれは、もう2年前のことだったか。

彼は、自分の能力を分析し、磨きをかけ、特訓と実戦を重ねた。

ひたすらに、自分が強くなることだけを求めて。
弱音も吐かず、ただただ上だけを見続けて。

そして昨年、彼はコロシアムの頂点に立った。

毎年行われる、Sランクコロシアムの頂上決定戦。

それに見事勝利をおさめ、ゼロは晴れて『最強の爬虫類』になったのだ。



『最強の爬虫類』の称号を手にしても、ゼロの強さへの執念は変わらなかった。

今年の頂上決定戦でも、最強を手に入れるつもりでいる。

それが、彼にとっての、一番の生きる目的であるから。




ふと、さっきコロシアムから出た時にみた1人の人間と1匹の爬虫類を思い出す。

コロシアムを娯楽としてただ楽しんでいた観客に交じって、その2人だけは違うまなざしをしていた。



その目には、かつて自分とゼロが抱いていた、あの興奮が宿っていた。


これから、自分たちもあの場所へ行くのだと。

最強の称号を手に入れるのだと。


あの、強さへの執念。

見たことのない顔だったから、まだコロシアムには出場したことはないのだろう。

この先に待っている感情を、彼らはまだ知らない。


「この興奮と地獄の世界を……あいつらは生きていけるかな」


生き残ることができたら、きっと彼らは自分たちの良きライバルに、厄介な敵に、なってくれるのだろう。


それは戦闘狂のゼロとトウマにとって、とても嬉しいことだった。


「今年のコロシアムも、退屈しそうにないな」


誰にも聞こえない声で、トウマはぼそりとつぶやき、口角を上げた。
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