れぷたいるず!~転生先の異世界は爬虫類がヒト化した世界でした~

桜蛇あねり

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第一章 ティタノボアの箱庭世界

5.この世界のルールは「弱肉強食」

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目の間の少女の表情が険しくなる。

完全に、あの少年に敵意むき出しだ。

そしてそれは、対面している少年も同じことだった。


「悪いが、おれも人間が必要なもんでね。ここは譲れない」


少年の殺気が強くなる。

しかし、ニシアフ少女はそれでもなお、臆することなく真っすぐに相手をにらんでいた。


「そうか。それはお互い様だな。私だって、ようやく巡り合えた人間なんだ。渡すわけにはいかない!」


両者、一歩も引かず、火花を散らし合う。


そんな中、状況が把握できていない無能な人間がここに一人。



ええっと、どういう状況なんだ…?


俺を取り合って、戦争しようとしているのか?


この俺が、爬虫類たちに求められて、争いの火種になっている……?


なんだこの状況……今までにないきゅんきゅんするシチュエーションじゃないか!


だとすれば、ここで俺が発する言葉はただ一つ!!!





「二人ともっ!俺のために、争わないでっ!!」





乙女チックな表情を作り、現世では絶対に言うことのない、しかし言ってみたい言葉トップ10に入るであろうその言葉を叫ぶ俺。



にらみ合う二人の間に入ろうとした刹那―――



「はっはぁ!だったら、やることはひとつだよなぁ!お嬢ちゃん!!」


ひゅう、と突風が少年の周りをうずまいた。


俺のふざけた空気を切り裂くようなその突風に、俺は足を止め、その場で固まった。



土埃を巻き上げ、風は少年の周りを激しく包む。


その中で、少年は右手を高々と上げた。


「強いやつが正義。おれと……戦闘だっ!」


風がおさまり、いつの間にか現れた長身の日本刀をその右手に握っている少年がそこにいた。


不敵な笑みを浮かべ、その日本刀を構える。

「お、おい、あれ本物か!?やべえって、逃げよう!」

切れ味の鋭そうな刀身を見た俺は、少女に逃げるよう呼びかけた。

生身の俺たちが、あんな武器に太刀打ちできるはずがない!


しかし、彼女は堂々と、相手を見据え、両手を横に広げた。


「いいだろう。勝った者が、彼を手に入れられる。受けて立つ…!」

彼女の両手に、1対の鞭のようなものが現れる。

鞭、というよりかは、リボンのような武器だ。

バトンのように長い柄に、さらに長くてひらひらとした、それでいてしっかりとした強度をもったリボンが備わっている。

左手に、オレンジ色のリボンを。

右手には、黒色のリボン。黒色のリボンには、小さなとげのようなものがいくつも付いていた。


「ニシアフリカトカゲモドキ、ミィ。お前に勝つ!」

「上等だ!ニホンカナヘビ、大地。参るっ!」


二人は同時に動いた。


その速さに、急に二人が姿を消してしまったように見えた。


キィン―――


上空で打ちあう音が聞こえ、すぐさま視線を上へとやる。

日本刀で切りつけるニホンカナヘビの少年に、それを柄の部分で受け止めるニシアフ少女。


左手のリボンで受け止めた少女は、右手のリボンを振り、攻撃で無防備になった少年の横腹を打つ。

「くっ!」

その衝撃を避けようとしたが、リーチの長さに避けきることは難しかった。

一撃をくらい、少年は態勢を崩して地面に叩きつけられる。

彼が態勢を立て直そうとするも、すぐに少女は二本のリボンで連撃を放ち、その暇を与えなかった。


「やああああっ!」


「くそっ!」


日本刀で迎え撃ち、さらに続く連撃に防戦一方となってしまう。


この子……強い……!


「さぁ、トドメだ!断華一閃だんかいっせん!」

オレンジ色のリボンが相手の足を絡めとる。

「う、動けな……」


縛られた足に気を取られたその一瞬、もう一本の黒いリボンが、少年の身体を横一文字に叩きつけられた。


「ぐはっ……!」


後ろ向きに倒れる少年。うぅ、と痛みに呻きながら、腹部の傷をおさえている。


「私の勝ちだ。悪いが、手を引いてもらおうか」

彼女は両手を開き、リボンを手放した。

すると、そのリボンは跡形もなく消えてしまった。

同じように、少年の日本刀も消え去っている。


「うぅ……くそ……」


少年は何か反論するでもなく、おもむろに立ち上がり、ゆっくりとした足取りで、森の奥へと去って行ってしまった。


「あ、おい!君、そんな怪我で!」

俺がとっさに引き留めようとした手を、

「引き留めるな。ここはこういう世界なんだ」

ミィと名乗っていたニシアフ少女はそっと止めた。

「ここでは、強さがすべて。何事にも、強いやつが正義とされる弱肉強食の世界なんだ。決着がついてしまえば、弱者は強者に従い、去るしかない」

「……そう、か。そこは野生と変わらないんだな、この世界は」

「あぁ。おそらく我らの本能なのだろう。私がこの世界に来た時から、ずっとそうだった」


じっと少年が去っていった方向を見つめるミィ。

きっとこの子も、あの少年と同じ立場だった時期があったのだろう。



あれ、そう言えば、ここに来る前、ティタノボアが言っていたルールがあったような……。


「なぁ、ここって、殺しは禁止されてんだよな?なのに決闘って、大丈夫なのか?」

そうだ、ここでは殺しはご法度。ルールを破れば、この世界には居られなくなってしまう。

「その通り、ここでは殺しは禁止。だから、皆、こういうところで決闘をするときは、互いに殺さない様に、殺されない様に、考えながら闘うんだ」

「それはなかなかにしんどそうだな…。生死をかけた戦闘なんてしたことないからわかんないけど…」

弱肉強食の本能を持ったまま、殺しが禁止された世界で生きていく。

それはかなり難しいのではないだろうか…?

何を思って、ティタノボアはこのような世界を創ったのだろう?


まだまだ、この世界はわからないことだらけだ。


「さて、そろそろここから移動しようか。また人間を求める輩に見つかると面倒だからな。私の住む街に案内しよう


ぱっと、彼女の空気が変わり、戦闘前に見せていた笑顔になる。

そして、俺に向き直り、手を差し出した。

「私はミィ。これから、この世界で一緒に過ごして欲しい」

新しく生きることになったこの世界で、初めて出会った少女、ミィ。

これからどんな困難が待ち受けているのか、どんな楽しいことが待っているのか、俺には全く予想ができないが、でも、

「あぁ。俺は高川 誠。マコト、とでも呼んでくれ。よろしくな、ミィ」

ヒト化したとはいえ、大好きな爬虫類たちと過ごす日々は、きっと楽しいに違いない。

俺はしっかりと、ミィの手を握ったのだった。
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