社長の奴隷

星野しずく

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社長の奴隷.25

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「ああっ、不機嫌になると、唇の端が少しだけキュッてなるんだよね。たまらんな~」

「やめろ、それ以上言ったら二度と口をきかんぞ」

「そんなあ、俺の一番の楽しみを・・・。分かったよ、心の中だけで楽しむから、許してください」

 こんな自分のどこを気に入っているのか理解に苦しむが、美住はとにかく信楽には弱い。



「それでも十分気持ち悪いけどな」

「で、誠之助は就活の方はどうなんだよ。やっぱIT関係なんだろ?競争率高いぞ~」

「分かってるよ・・・。まあ、ボチボチな」

「ボチボチって、もう今全力出さないと、いいとこ行けないぞ」

「いいんだよ。俺は、今もっと大事なことがあるから」

 うっかり言ってしまってから後悔した。

 就活よりも大切なことがあるなんて言ったら、美住がそれを追求してくるに決まっているのに。



「なになに、誠之助がそんな風に熱く語るなんて初めて聞くな~。興味ある~」

「お前にだけは絶対言わない」

「何でだよ、むしろ俺にだけは言ってくれよ」

「いやだ。あ、昼休み終わる。じゃあな」

 信楽は危うく腕を掴まれそうになるのをかわし、次の授業の教室へと全速力で走った。



 平日の夕方からオフィスに顔を出すと、美緒は何かしらトラブルを起こしており、信楽はまずそれを修正してから自分の仕事に取り掛かるというのが日課になった。

 そして、ようやく迎えた日曜日。

 きょうはいよいよ社長が帰ってくる。

 まだ細かいところにまで手が回っていないが、男性向けショップの大まかなデザインは完成した。

 果たして社長は気に入ってくれるだろうか。

 信楽はドキドキしながら日曜日の朝十時少し前、オフィスの階段を上がっていた。



「おはようございます」

 オフィスの扉を開けると、大きな段ボール箱がいくつも積み上げられていて、その向こうに社長の姿があった。

「社長、お帰りなさい」

「ああ、信楽君。急にいなくなってすまなかったね。色々と藤巻君のフォローをしてくれたみたいで、助かったよ」

「いえ・・・」

「そうなんですよ。本当に、信楽君がいなかったら、うちのショップ一週間休業状態でしたよ」



 美緒は自分には出来ないことだと割り切っているのか、平気でそんなことを言ってしまう。

 しかし、そんな風に褒められても、信楽の気持ちは複雑だった。



 自分も恋が出来るようになるかもしれないと、この会社をバイト先に選んだのに・・・。

 美緒の身体に触れ(しかもいきなりあんな場所に)、自分の大事な場所にも触れられて・・・。

 物理的刺激で、自分の身体も美緒の身体もちゃんと反応した。

 そして、その後も写真撮影で美緒の妖艶な姿を目の当たりにした自分のあそこはしっかりと反応していた。

 しかし、それは自分が高校の時、嫌悪していたチャラい男たちと何が違うのかとハタと思ってしまった。



 入ったばかりの会社をすぐ辞める様な無責任なことは出来ない。

 それに、先週は美緒しかいなくて、とても放っておける様な状態ではなかった。

 だが、自分が毛嫌いしていた男たちと同じようなことを、今まさに自分はやろうとしているのではないかと思うと、信楽は社長の謳い文句に騙された気分になる。

 そんなのは自分が望んでいた恋の形じゃない。

 だから、顔面はもちろん無表情だが、美緒のセクシーな姿を見ても、決して心は動かされないようにと、信楽は自分を厳しく戒めた。
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