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旦那様、私をそんな目で見ないでください!22
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電車とバスを乗り継いで約一時間ほど行った隣町に静音の実家はあった。
住所の場所にはごく一般的な木造の一軒家があった。表札には倉持とある。ここで間違いないようだ。
響介は勇気を振り絞ってチャイムを押した。
「はい」
しばらくして男性の声で応答があった。
「間野響介と申します。あの、静音さんに家政婦さんとして家で働いていただいている者です」
「ああ、分かりました。少々お待ちください」
その男性によって玄関が開けられた。
「どうぞ、こちらへ。今、静音を呼んできます」
そう言って男性は居間を出て行った。しかし、なかなか戻ってこない。もしかしたら会ってもらえないかもしれない。響介はその可能性も十分あると考えている。親御さんはそこまで詳しい事情は知らないだろうから、すんなり自分のことを家にあげてくれたが、静音からしたら余計なお世話以外のなにものでもないかもしれない。
「部屋に来て欲しいと言ってますので、すみませんがこちらへきていただけますか」
初老の男性は響介のことをあれこれと詮索することなく、ごく普通に接してくれている。
「ここです。どうぞ」
そう言うと男性は去っていった。お父さんですかと聞くのも何だか変な気がして、聞けずじまいだった。
コンコンとノックすると「どうぞ」と中から静音の声が聞こえた。
響介は緊張で強張る体を何とか動かしてドアを開けた。
静音は大きな窓から西日が差し込む部屋でソファに腰掛けて小説らしきものを手にしていた。
「こちらへどうぞ」
響介はすすめられるまま、静音の向いにある一人がけのソファに腰をおろした。
「今お茶をお持ちしますね」
「いや、おかまいなく」
響介は一刻も早く話をしたかった。
「軽蔑してますよね」
静音は自嘲気味につぶやいた。
「そういう訳じゃないけど、説明はしてもらいたい」
響介は正直に答えた。
「そうですよね」
静音は覚悟を決めた様子で、少し顔をこわばらせながら話しはじめた。
「奨学金の話も両親が亡くなったというのも嘘です」
静音は核心部分であるその点について素直に認めた。
「なんでそんな嘘を」
響介は静音の意図が分からない。
「どうしても住み込みで働きたかったんです。日中は雛ちゃんがいますから」
静音は複雑な表情でそう言った。
それは、やはり、夜の生活というか、身体の関係を持つために?響介はその類のこととなると急に言葉が出なくなる。
「ほんと、軽蔑しますよね。女のくせにそんなことばっかり考えてるなんて」
「そ、そういう訳じゃないんだが」
自分からそんな風に女性を求めたことはない。どちらかというとそっち方面は淡白だった自分とは真逆の女性を前に、響介はどう振る舞えばいいのか分からない。
「でも、もう迷惑をおかけすることもありませんから」
「それは、うちの家政婦を辞めるということですか?」
「はい。勝手ばかりで本当に申し訳ありません」
「だけど、雛は君のことをとても気に入っている」
「でも、あなたは私のことなんか好きじゃないですよね」
初めてあなたと言われて、響介は軽くショックを受ける。もう、元には戻ることは叶わないだろうか。
「僕は、どうもそういうことに疎いというか、男である前に雛の父親という視点でしか物事を考えられなくなっていた。だけど…、君がいなくなって不覚にも泣いてしまった。自分でも驚いたよ」
静音は何も言わず響介の次の言葉を待っているようだ。
「正直、どうして君が僕のことを、えっと、その…、好いてくれているのか自分では分からないけど。今の僕が言えることは、僕は君がいなくなると寂しいということが分かった」
響介は、いまだにハッキリしない自分の気持ちをそのまま伝えた。
長い沈黙が訪れる。
「…キスしてくれませんか」
ようやく発せられた言葉がそれ…。響介は苦笑する。
静音に対する自分の気持ちがまだ恋とよべる程のものではないとしても、好意を持っているとはいえる。どうしても頭で考えてしまう自分だからこそ、あえて静音の提案を受け入れるべきではないかと思う。
響介は意を決して立ち上がった。静音の横に腰をおろすと彼女をじっと見つめた。静音も響介を見つめ返す。響介は、いい年をした自分がキスごときで、まるで中学生のように緊張でドキドキしているなんて、死ぬほど恥ずかしかった。
そんな響介を静音は潤んだ瞳でじっと見つめている。彼女はいつもそうだ。もう素直に認めよう。そうだ、彼女はエロい。たまらなくエロいのだ。そんなことを認めたら彼女のちょっとした誘いに全て応えてしまう自分がいたことに響介は恐れを感じていたのかもしれない。
響介はぎこちなく彼女の唇に自分の唇を重ねた。しかし、そこからは彼女が主導権を握った。あっという間に髪をくちゃくちゃにかき乱され、口腔内を彼女の舌が激しく動き回った。角度を変えて深くなるキス。一向に離れる気配はない。呼吸をする隙も与えられず、唇の隙間から洩れた互いの吐息と水音が耳を刺激する。こんなキスはしたことがない…。響介はキスだけですでに陥落寸前だ。頭がボーっとしてなにも考えられない。そして、もうすでに下半身がヤバいことになっている…。
どれくらいの間キスをしていたのだろう。ようやく離れたときには、二人とも肩で息をしていた。
静音は唾液で濡れた唇がいやらしく光っている。もう、このままどうにかなってしまってもいい。
こんな動物のみたいな気持ちが自分にあるなんて。響介は自分の中に発見した欲情に戸惑う。
「響介さん。今はここまでにしましょう」
それって、後でその先をするってことですか?響介の理性をぶち壊した欲望はそんなことを期待している。
「そ、そうですね」
なんとかそう答えた。
「うちへ戻ってくれますか?」
「はい」
静音ははにかみながら答えた。
静音の両親に挨拶をすまして、二人で響介の家へ帰った。静音は両親に響介のことをどう説明していたのだろう。特にあれこれ聞かれることもなく、娘がお世話になりますとだけ挨拶された。
詳しいことを聞いてみたい気がしたが、彼女の方から話してくれるのを待とうと思う。
住所の場所にはごく一般的な木造の一軒家があった。表札には倉持とある。ここで間違いないようだ。
響介は勇気を振り絞ってチャイムを押した。
「はい」
しばらくして男性の声で応答があった。
「間野響介と申します。あの、静音さんに家政婦さんとして家で働いていただいている者です」
「ああ、分かりました。少々お待ちください」
その男性によって玄関が開けられた。
「どうぞ、こちらへ。今、静音を呼んできます」
そう言って男性は居間を出て行った。しかし、なかなか戻ってこない。もしかしたら会ってもらえないかもしれない。響介はその可能性も十分あると考えている。親御さんはそこまで詳しい事情は知らないだろうから、すんなり自分のことを家にあげてくれたが、静音からしたら余計なお世話以外のなにものでもないかもしれない。
「部屋に来て欲しいと言ってますので、すみませんがこちらへきていただけますか」
初老の男性は響介のことをあれこれと詮索することなく、ごく普通に接してくれている。
「ここです。どうぞ」
そう言うと男性は去っていった。お父さんですかと聞くのも何だか変な気がして、聞けずじまいだった。
コンコンとノックすると「どうぞ」と中から静音の声が聞こえた。
響介は緊張で強張る体を何とか動かしてドアを開けた。
静音は大きな窓から西日が差し込む部屋でソファに腰掛けて小説らしきものを手にしていた。
「こちらへどうぞ」
響介はすすめられるまま、静音の向いにある一人がけのソファに腰をおろした。
「今お茶をお持ちしますね」
「いや、おかまいなく」
響介は一刻も早く話をしたかった。
「軽蔑してますよね」
静音は自嘲気味につぶやいた。
「そういう訳じゃないけど、説明はしてもらいたい」
響介は正直に答えた。
「そうですよね」
静音は覚悟を決めた様子で、少し顔をこわばらせながら話しはじめた。
「奨学金の話も両親が亡くなったというのも嘘です」
静音は核心部分であるその点について素直に認めた。
「なんでそんな嘘を」
響介は静音の意図が分からない。
「どうしても住み込みで働きたかったんです。日中は雛ちゃんがいますから」
静音は複雑な表情でそう言った。
それは、やはり、夜の生活というか、身体の関係を持つために?響介はその類のこととなると急に言葉が出なくなる。
「ほんと、軽蔑しますよね。女のくせにそんなことばっかり考えてるなんて」
「そ、そういう訳じゃないんだが」
自分からそんな風に女性を求めたことはない。どちらかというとそっち方面は淡白だった自分とは真逆の女性を前に、響介はどう振る舞えばいいのか分からない。
「でも、もう迷惑をおかけすることもありませんから」
「それは、うちの家政婦を辞めるということですか?」
「はい。勝手ばかりで本当に申し訳ありません」
「だけど、雛は君のことをとても気に入っている」
「でも、あなたは私のことなんか好きじゃないですよね」
初めてあなたと言われて、響介は軽くショックを受ける。もう、元には戻ることは叶わないだろうか。
「僕は、どうもそういうことに疎いというか、男である前に雛の父親という視点でしか物事を考えられなくなっていた。だけど…、君がいなくなって不覚にも泣いてしまった。自分でも驚いたよ」
静音は何も言わず響介の次の言葉を待っているようだ。
「正直、どうして君が僕のことを、えっと、その…、好いてくれているのか自分では分からないけど。今の僕が言えることは、僕は君がいなくなると寂しいということが分かった」
響介は、いまだにハッキリしない自分の気持ちをそのまま伝えた。
長い沈黙が訪れる。
「…キスしてくれませんか」
ようやく発せられた言葉がそれ…。響介は苦笑する。
静音に対する自分の気持ちがまだ恋とよべる程のものではないとしても、好意を持っているとはいえる。どうしても頭で考えてしまう自分だからこそ、あえて静音の提案を受け入れるべきではないかと思う。
響介は意を決して立ち上がった。静音の横に腰をおろすと彼女をじっと見つめた。静音も響介を見つめ返す。響介は、いい年をした自分がキスごときで、まるで中学生のように緊張でドキドキしているなんて、死ぬほど恥ずかしかった。
そんな響介を静音は潤んだ瞳でじっと見つめている。彼女はいつもそうだ。もう素直に認めよう。そうだ、彼女はエロい。たまらなくエロいのだ。そんなことを認めたら彼女のちょっとした誘いに全て応えてしまう自分がいたことに響介は恐れを感じていたのかもしれない。
響介はぎこちなく彼女の唇に自分の唇を重ねた。しかし、そこからは彼女が主導権を握った。あっという間に髪をくちゃくちゃにかき乱され、口腔内を彼女の舌が激しく動き回った。角度を変えて深くなるキス。一向に離れる気配はない。呼吸をする隙も与えられず、唇の隙間から洩れた互いの吐息と水音が耳を刺激する。こんなキスはしたことがない…。響介はキスだけですでに陥落寸前だ。頭がボーっとしてなにも考えられない。そして、もうすでに下半身がヤバいことになっている…。
どれくらいの間キスをしていたのだろう。ようやく離れたときには、二人とも肩で息をしていた。
静音は唾液で濡れた唇がいやらしく光っている。もう、このままどうにかなってしまってもいい。
こんな動物のみたいな気持ちが自分にあるなんて。響介は自分の中に発見した欲情に戸惑う。
「響介さん。今はここまでにしましょう」
それって、後でその先をするってことですか?響介の理性をぶち壊した欲望はそんなことを期待している。
「そ、そうですね」
なんとかそう答えた。
「うちへ戻ってくれますか?」
「はい」
静音ははにかみながら答えた。
静音の両親に挨拶をすまして、二人で響介の家へ帰った。静音は両親に響介のことをどう説明していたのだろう。特にあれこれ聞かれることもなく、娘がお世話になりますとだけ挨拶された。
詳しいことを聞いてみたい気がしたが、彼女の方から話してくれるのを待とうと思う。
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