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君に溺れてしまうのは僕だから.26

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「初めまして、伊織の叔母です。あら、すごいイケメンじゃない。でかしたわね伊織」

「い、いえ、そんな…」

 そうだよ、俺は学校ではモテるんだ。

 それなのにこの親父ときたら、俺をダメ男みたいに扱って。

「お名前は何て言うの」

「坂口壮です」

「まあ、爽やかでいい名前ね」

「名前が爽やかだからって、中身がそうとは限らないぞ」

「兄さまったら、そんなこと言って。あ、壮君、兄さまが失礼なこと言わなかった?」

「い、いえ…」

「あ、何か余計な事言ったのね。もう、私が来てよかった。兄さまは、そりゃあ小説家としては一流かもしれませんけど、一般常識が世間とずれてるんだから。ごめんなさいね」

「なんだ、世間とズレてるとは。失敬な」

「仕方ないでしょ。世間に出る前に小説家として成功しちゃったもんだから、周りからは先生って呼ばれてチヤホヤされてきたんだもの」

「美紀、いい加減にしないか」

「ほら、いい大人がこんなことですぐ癇癪起こすんだもの。壮君、伊織、ケーキ食べたら伊織の部屋へ行きなさい」

「な、なんで?」

「兄さま、ちゃんと壮君の顔見たでしょ。もうそれで十分よ。兄さまが若い子と楽しい会話なんて出来るはずないでしょ。ほら、伊織、行きなさい」

「美紀!」

「いいから、ほら、壮君が可哀そうでしょ」

「は、はい…。壮君こっち」

 伊織は坂口を連れて自分の部屋に向かった。



「どうぞ」

「お邪魔します」

 突然、伊織の部屋に入れることになり、坂口のテンションは爆上がりだ。

「そこに座って」

 伊織は坂口に白いソファをすすめた。

「いやあ、村井っぽい可愛い部屋だな」

「何よそれ。別に女の子なら普通でしょ」

 そう言われても、同い年の女の子の部屋になど入ったことのない坂口にしてみれば、まるで天国にいるようにフワフワとした気持ちになるのも無理はない。

 なんか漂ってる空気がすでに違う。

 甘い香りがするのは気のせいだろうか。

 全てがうっすらピンク色に見えるのは幻か。



「ねえ、坂口君。お父さんと本当は何話してたの?」

 すっかり女子の部屋に浮かれていた坂口は伊織の言葉で現実に引き戻された。

「え、別に大したことは話してないよ」

 親父さんにいきなり性的な質問をされたなんて言えるはずがない。

「そう?キッチンにいたら結構話し声が聞こえてきたから、男同士で会話がはずんでるんだと思ってた」

 いえいえ、もう少しでセクハラ?パワハラの世界だったよ。

「ははっ」

 坂口は笑って誤魔化すしかない。
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