ヤンチャな御曹司の恋愛事情

星野しずく

文字の大きさ
89 / 106

御曹司のやんごとなき恋愛事情.89

しおりを挟む
「もういいから・・・。僕は君があの男のことを好きでもいいから、そばにいたかったんだよ。だから、僕もずるい。君は謝らなくていい」

 そんなはずない・・・。

「そんなに泣くなよ・・・。僕は最初からこういう日が来ること覚悟してたから。ただ・・・、少しでも長く優子と一緒にいたかったから、やっぱり残念だけど・・・」



 きっとそんな簡単に割り切れることじゃないはずだ。

 だけど、伊波はどこまでも優しくて・・・。

 それは、ひとえに優子のことを愛しているからで。

 自分はそんな風に大事にしてもらう価値なんて無い・・・。

 そんな卑屈なことを考えてしまうほど、優子の自己評価は最低になっていた。



「出来るだけ早くマンションを探さないとな・・・。君がそばにいると、どうしても触れたくなっちゃうから・・・」

 最後まで思いやりに溢れた言葉に、優子は何も答えることができなかった。

 そして、その日から、優子はベッドで、伊波はソファで眠ることになった。

 いくら優子がソファで眠ると言っても伊波は聞かなかった。



 更に伊波に不便をかけるそんな生活を続けるのは心苦しくて、一日も早く引越し先のマンションを見つけようとネットで探した。

 運よく以前住んでいたマンションに空き部屋があり、即日契約して、さっそく引越し会社に連絡を入れた。

 繁忙期からは外れていたため、引越しの日は二週間後に決まった。



「引越しの日、決まったの・・・」

「そんなに慌てなくてもいいのに・・・。いや、君がそうしたいんだね・・・」

「・・・」
 


 伊波と一緒の空間にいるだけで、居たたまれない・・・。

 いくら優しい言葉をかけられても、伊波の苦しみが感じられてしまうから。

 伊波との話し合いを続けながらも、職場ではいつもと変わらず仕事に追われていた。

 栗本以外、誰も優子のプライベートの事情など知らない。

 ただ、何人かいる優子の部下の中では、海外視察に同行した須藤だけが優子の変化に気づいていた。



「佐竹さん、最近疲れてるみたいですけど、大丈夫ですか?大変だったら僕たちに仕事回してください」

「ありがとう・・・。実は今引越しの準備しててね・・・、仕事が終わった後も結構忙しくて・・・」

「そうなんですか。佐竹さん、何でも自分でやりすぎるんですから、僕たちのことも少しは頼りにしてください」

「ありがとう、じゃあ明日から少し助けてもらおうかな」

 以前の優子だったら、人に頼ることなど考えられなくて、断っていただろう。

 だが、今は自分という人間がどんなに弱くて自分勝手な人間だったのかということを知っている。



「はい、よろこんで!」

 須藤は沢山いる同期の中から海外視察に選ばれたことが自信になったらしく、あれから益々意欲的に仕事に取り組んでいる。

 野心的な性格と、感情の機微を感じ取れる繊細な部分を持ち合わせた将来が楽しみな人材だ。

 須藤の申し出のおかげで、残業が減った分、優子は引越しのために家具や家電、日用品を購入する時間を確保できた。

 そうやって、引越しの準備が徐々に整ってきた。

 須藤がああ言ってくれたおかげで、職場での働き方も変えられた。

 以前より風通しがよくなったこの会社を近いうちに去らなければならないことが、寂しさをより大きくする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...