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御曹司のやんごとなき恋愛事情.95

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「よ、よほど疲れてらっしゃったのかしら・・・」

 それ以外考えられない。

 優子はあれこれ期待・・・、いや覚悟していた自分がまるで馬鹿みたいに思えた。



 食器を片付け、お風呂に入ると、すっかりベッドを占領している俊介の邪魔にならない様、端の方に身体をねじ込んだ。

 気持ちよさそうに眠っている俊介の顔・・・。

 つい自分からキスをしてしまいたくなる。



 だけど、これまでの習慣なのか、俊介に対して自分から行動起こすということが優子にとってはひどくハードルが高いことだった。

 自分の気持ちを自覚したからと言って、じゃあ今度はこちらからとは簡単にいかないものだ。

 優子は俊介に触れたくて、触れたくて仕方ない気持ちを抑えるのに疲れ切って、ようやく眠りについたのだった。



「優子~、腹減ったな~」

 ベッドの隣にいる俊介の声で優子は目覚めた。

 どんな時でも俊介と一緒の時はほとんど必ず優子が先に起きていた。

 自分がどんな顔をして眠っていたのかと思うと、途端に目が覚めた。



「す、すみません、寝坊なんかして・・・」

「いや、俺が早く起き過ぎただけだ」

 そうだった・・・、俊介は時差ボケのせいで、夕べは夜の十時を待たず眠ってしまったのだ。

 今はまだ朝の五時だった。



「優子、この辺に歩いて行けるファミレスはあるか?」

「ありますけど・・・」

「よし、今日の朝飯はそこに決めた」

 俊介はベッドから勢いよく起き上がると、鼻歌を歌いながらシャワーを浴びにお風呂へ行ってしまった。

「坊ちゃん、タオル・・・」

 何も持たずに行こうとする俊介のあとを追って、優子もベッドを飛び出した。

 まだもう少し眠っていたかったけれど、今日も俊介に振り回されそうだ。



 日曜の早朝はジョギングや犬の散歩をしている人がポツリポツリといるだけで、人影はほとんどない。

 俊介は今日も優子の手を取り、上機嫌でファミレス迄の道を歩いた。

 早朝であることもあり、優子もあまり人目を気にしなくて済んだ。

 そもそも、こんなご近所づきあいのない場所で、人目を気にする必要などないのに、これも長年の習性なのだろう。

 優子はつい気になってしまうのだ。



 だけど、本当は優子も一緒に鼻歌を歌いたくなるくらいには嬉しいのだ。

 こんな風に、普通に手を繋いで外を歩けることが。

 社長の御曹司とその教育係、そのあとは取締役とその秘書という関係でしか俊介と触れ合う事がなかったのだから。



「俺、パンケーキ。優子は?」

「私は・・・、朝定食にします」

「へえ、優子って普段から和食派なの?」

「え、ええ、どちらかと言えば」

「ふうん・・・」

 そんな些細な会話が妙に嬉しいらしく、俊介の顔は緩みっぱなしだ。

 何も言われていなくても、ずっと俊介の優子が好きという気持ちが溢れ出していて、優子もすっかり幸せな気分に包まれる。
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