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御曹司のやんごとなき恋愛事情.103

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「佐竹君も今年は三十六歳になるのかな?」

「え、ええ、そうです」

 行成はいつもどちらかと言えば、単刀直入に本題に入るのに、今日はえらくまどろっこしい。



「そうか、それではやはり急がねばならんな・・・」

「そうだな」

 突然俊介が会話に入ってきた。

「何をですか?」

 優子はついに痺れを切らした。



「俊介は今月いっぱいで日本に戻ってもらう。そして社長に就任してもらう予定だ」

「ええっ!副社長の出向期間は三年とお聞きしていましたが」

「まあ、そういうことにしておいただけだ」



 いったいどういうことなのか、優子にはさっぱり分からない。

 せっかく俊介もニューヨークの生活に慣れてきたというのに・・・。

 個人的な事を言えば、もちろん帰ってくることは嬉しい。

 しかし、俊介のためを思うなら、海外でキャリアを積むことは重要なことだ。



 優子は俊介のことを見つめたが、ニコニコ笑っているだけで動揺した様子はない。

 ということは俊介はこのことを知っていたということだ。

 そして栗本も・・・。



「何か問題があったんですか?」

「いや、全く」

「じゃあ、どうして・・・」

「そして、佐竹君には副社長に就任してもらう」

 優子の質問を遮って、行成は言葉を続けた。



「わ、私がですか!」

 行成が優子をヘッドハンティングしたとき、当時勤めていた商社で将来就ける最高の地位より必ず上のポジションを約束すると言った。

 これがそれなのだろうか・・・。

 しかし、桑原商事は同族経営だから、副社長はマズいのではないだろうか・・・。



「あの・・・、訳が分かる様に話していただけないでしょうか」

 優子はさっきから驚かされてばかりで、座るのさえ忘れていた。

 何も知らないのは優子だけというのにも、いい加減疲れた。

 優子はソファに腰をおろすと行成のことをじっと見つめた。



「俺が話すよ」

 俊介が優子の所にやって来て、すぐ隣に座った。

 危うく「坊ちゃん!」、と言いかけて、慌てて「副社長」と言い直した。



「俺の出向の予定、本当は最初から一年て決まってたんだ。優子や俺に近しい人間には三年って嘘の情報を流した」

「嘘の情報・・・」

「まあ、質問はあとで受け付けるから、とりあえず最後まで聞いて」

 俊介はそっと優子の手を握った。

 こんなところでとは思ったが、行成からは見えないし、どうせ栗本は全部知っているのだからと、そのまま受け入れた。



「本当のこと言うと、出向することもどっちでもよかったんだ」

「ええっ!!」

 今すぐ問い詰めたいことが山ほどあったが、グッと飲み込んだ。
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