ホストと女医は診察室で

星野しずく

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ホストと女医は診察室で.25

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「えっ、な、なんで…?」

「なんでって、俺が働いてる店にいたらおかしい?」

 一か月ぶりに間近で見る聖夜はやっぱり素敵だ。

 思い出さないように毎日努力してきたのが一瞬で無駄にるほどに…。



「そ、そういうことじゃなくて、こんな早い時間に…」

 不意打ちをくらった慶子はしどろもどろになる。

 もう二度と会うことはないと思って油断していたせいで、余計に動揺してしまう。

「こんな所じゃなんだから、中に入ってよ」

 店の入り口で大金の入った封筒を手渡すのはまずいだろう…。

 慶子は仕方なく聖夜と一緒に店の中に入った。



「聖夜さん、私、今日は用があって来たの…。お酒を飲みに来たんじゃないから」

「どうせお金を返してないからとか言うんだろう。まあ、先生がどうしてもっていうなら受け取るけど、せっかくここまで来たんだから、少しゆっくりしていきなよ。それとも何か他に用事でもあるの?」

 そう言われると特に何の用もない慶子は答えに詰まる。

 おまけに上手に嘘をつくことも出来ない。



「じゃ、じゃあ少しだけ」

「よかった。また先生に会えて」

 またそんなこと言って…。

 どうせ誰にでも言ってるんでしょ。

 もうそんな言葉聞きたくない…。



「あれ、先生なんだか前にも増して綺麗になったね。お肌ツヤツヤじゃない」

 肌はそりゃツヤツヤですよ、だってエステに行って来たばかりなんだから。

 慶子は心の中ではそんなことを考えながら、聖夜の笑顔に作り笑いで応えた。



「お酒は止めておくわ。明日は仕事だから。ソフトドリンクお願いしてもいい?あ、聖夜さんは好きなお酒飲んでね」

「先生、なんか今日冷たいね。俺、嫌われちゃったのかな?」

「そ、そういうわけじゃないけど…。あの、忘れないうちにお金返しとくわ」

 慶子は聖夜に封筒を渡した。

「えっ、なんかすごく分厚いんだけど…。ちょっと、先生いったいいくら入ってるのこれ」

「お願い、黙って納めてちょうだい。すっかり迷惑ばかりかけちゃって…、私の気が済まないの」

 慶子は聖夜の内ポケットに無理やり封筒をねじ込んだ。

「俺、別に迷惑だなんて思ってないよ。先生なんか勘違いしてない?もう来ないなんて言わないでよ。俺もっと先生と話したいな」



 聖夜にそんな風に言われると、それがセールストークだと分かっていても、決心が揺らぎそうになる。

 だめだ、これ以上話していたらまた聖夜のペースに巻き込まれてしまう。

 本当は慶子だって聖夜ともっと話していたい。

 だけど、それじゃあ多分自分がダメになってしまう。

 だから、やっぱりもう来ない。



 あ、そうだ…、どうせ今日が最後なんだから、気になってるあのことを聞いてみようかな。

 それは他でもない見合相手の三上和希のことだ。

「聖夜さん、ちょっと聞きたいことがあるの…」

「なになに改まって」

「えっと、この人知ってる?」

 慶子はおもむろにスマホを取り出すと、和也の写真を見せた。

「え、これ、どうしたの?」

 聖夜は珍しく動揺している。
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