それでも俺が好きだと言ってみろ

星野しずく

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それでも俺が好きだと言ってみろ.83

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 もうあとは時間の問題かもしれない・・・。

「そうですか・・・、桜庭さんも転職・・・」



 そうなれば、桜庭のセックスの相手は自分である必要はなくなる。

 幸か不幸か、自分は今の職場でずっと働き続けることができるかもしれない。

 桜庭がいなくなれば、桜庭の機嫌を損ねることもなくなるのだから。



「竹内さん・・・、今は宗理が昼間言ったことをかいつまんで言ったけど、僕は、あいつが自分の気持ちにちゃんと向かい合わないで暴走してるんだと思ってる」

「・・・それはどういうことですか?」

 この間も早乙女はそんなようなことを言っていた気がする。



「学生の時だって、社会人になってからだって、近くに自分が進みたいと思ってる場所で自分より遥かに活躍してる人がいれば、その人に近づきたい、そしてそのために努力するのは普通のことだって思うよね?」

「たぶんそうでしょうね」

「この間言ったみたいに、宗理にとっての伊沢さんは刷り込みが入ってるんだよ。だから、愛着と憧れ、そして恋心がごちゃごちゃになっちゃってると思うんだ」

「はあ・・・」

 そう言われても、和香にはまだピンと来ない。



「つまりね、宗理は伊沢さんに憧れてはいるかもしれないけど、恋はしてない。僕はそう思ってる」

「私にはそうは思えません・・・。桜庭さんは伊沢さんのこと女性として好きだと思います」

「まあ、その辺は自分で確かめてみなよ」

 早乙女はようやく自分の言いたいことを言い終えてスッキリしたのか、ビールをもう一杯おかわりし、料理をうまそうに口に運んだ。



「今日こそ私が払います」

 レジ前で、和香は財布を手に早乙女に訴えた。

「新人のうちは、大人しく奢られておきなさい。それで、君が先輩になったら、ちゃんと奢ってあげて」

 そんな風に言われては従うしかない。



「すみません、じゃあ、お言葉に甘えて・・・。ごちそうさまでした」

「もっと、明るく言ってよね~。奢り甲斐がないなぁ~」

「ご、ごちそうさまでした!」

「そうそう!その調子」

 早乙女におやすみなさいを言って別れた。



 早乙女は店を出てしばらくすると植松に電話をかけた。

「あ、もしもし、桃代?もう、ついポロっと言っちゃいそうで大変だったよ。でも何とか耐えた。うん、えらいでしょ?まったくじれったいったらありゃしないよ~。もう俺の口から全部言っちゃいたいって、何度思った事か・・・。うん、でもきっともう少しの我慢だよね・・・。はぁ~、近くで見守るっていうのは結構疲れるもんだね。うん、わかってる、きっと大丈夫だよね」

 そう言って早乙女は電話を切った。



「人の恋路に首を突っ込むのは嫌いじゃないんだけど、どっちも臆病者で自分の気持ちに自信がないときてる。まったく、じれったくて、こっちの方がおかしくなりそうだよ・・・」

 早乙女はそんなことをボヤキながら繁華街をフラフラと通り抜けて行った。



 そんな早乙女にスッと近寄る男の影があった。

 そして、二人は短い言葉を交わすとそのまま一緒に雑踏の中へと消えていった。



 和香は家に帰っても、独り言で時間を潰すだけで、早乙女と会う前と何ら状況は変わっていなかった。

「自分で確かめるって言ったって・・・、そんなこと私が聞いたってまともに相手にしてもらえるはずないのに・・・」
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