日替わりでイケメン達に迫られてます

星野しずく

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誰かイケメン達を止めてくれませんか!!.12

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 みゆうは、決して慣れたとは言えないまでも、もう彼らを迎え入れる覚悟だけは出来つつあった。

 ただ、次はどんなレベルのイケメンがくるのか分からない。

 いつ心臓が止まるかは、もう運を天に任せるしかなかった。

 みゆうは勢いよく玄関のドアを開けた。

 しかし、特に変化は見られない。

 やはり、自分の部屋だ。

 みゆうは二階にあがると、自分の部屋のドアを思い切って開けた。

 だが、そこにも誰もいない。

 終わったのか。

 昨日までのおかしな現象はついに終わりを迎えたんだ。

 みゆうは嬉しい様な悲しい様な、奇妙な感覚に襲われた。

 昨日の夜のネットニュースでも、やはり収録中に峰岸亮が一時行方不明という記事が出ていた。

 なにがどうなっているのか全く分からないが、このところのおかしな現象は終わったのだ。

 みゆうはそう思うと体の力が抜けた。

 これでやっと普通の生活に戻れる。

 イケメン有名人に振り回されるおかしな生活。

 極度の緊張と興奮で、完全に情緒不安定だった。

 そんな気持ちからもおさらばできる。

 イケメンに会えなくなるのは、淋しくないかと言ったら嘘になる。

 だけど、彼らが突然来て突然帰ってしまったあとのみゆうは激しい疲れを感じた。

 あんな日々がずっと続けば、頭も体もおかしくなってしまっただろう。

 だから、これでよかったんだ。

 みゆうは自分にそう言い聞かせた。

 あ~あ、でも写真の一枚でも撮っておけたらよかったのにな~。

 ポロリと本音が出る。

 みゆうは、部屋着に着替えるとリビングに行って、久しぶりにゆっくりと好きなテレビを見た。

 夕食を食べ、お風呂に入り、少しばかり勉強をしたあと、ベッドに入った。

 本当に何事もなかった。

 みゆうは、枕にほっぺをこすりつけると、頭まで布団をかぶり眠る態勢に入った。

 その瞬間、背中にドンっと衝撃が走った。

 えっ、えっ、うそ、うそでしょ!

 もう終わったんじゃなかったの…。

 みゆうは驚きのあまり体を動かすことが出来ない。

 しかしこの流れは、きっといつものやつだ。

 みゆうはゆっくりと後ろを振り返った。

「やあ、こんばんは!」

 みゆうの狭い狭いシングルベッドに入ってきたのは、人気声優の是沢優くんだった。

 みゆうが大好きなアニメの主人公の声も彼だ。

 声優だから当たり前なのだが、その声は女子をたやすく殺傷する能力を持っている。

「は、はい?( ゚Д゚)」

 当然のことだが、シングルベッドに二人ということは、ほとんど二人の間に隙間というものは存在しない。

 振り向いたみゆうの顔スレスレの位置に優くんの顔が鎮座している。

「添い寝に来たよ」

 う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!その声はいけません!
 
 優くんの声はツヤのあるミルキーボイスだ。

 それを耳元でささやかれた日には、耳が妊娠する。

「そ、そ、添い寝?」

 みゆうはやっとの思いで言葉を発した。

「そうだよ。君が眠るまでここにいるよ」

 い、いやいやいや!眠れませんから、余計に眠れませんから。

「だ、だ、大丈夫です。自分で眠れます」

 勿体ない。勿体ないことは百も承知だ。

 だけど、この状況には耐えられない。

 すぐ横にピッタリと優くんがいて、信じられないくらい甘い声でささやいてくれる。

 夢の様なシチュエーションだけど、当然だが眠れるはずがない。

 それに今までのパターンだと、どうせまた仕事の途中でやってきているに違いないのだ。

「そんなこと言わないで、僕に甘えて」

 優くんはみゆうの髪をそっと撫でた。

 ムリーーーーーーーーーーッ!

 そんな声でそんなこと言われて、おまけに髪なんか撫でられたら…、耳と脳が爆発する。 

 くっ、これが自覚症状なしなんだよね…。
 
 罪作りだ…。

「ほら、子守唄を歌ってあげる」

 優くんはみゆうの肩を優しくポンポンしながら、子守唄を歌い始めた。

 ひうぅっ!!!

 聴きたい、だけどこんな距離で生歌を聴いたら発狂するかもしれない。

 しかし、みゆうの気持ちなどにはおかまいなく、優くんは歌い始めた。

 話している声もそれはそれはイケボです。

 だけど、歌声というものは話す声とは違うものです。

 そして、優くんのその歌声は女子を瞬殺する威力を持っているのです。

 その歌声が、耳元で…、あ、あ、うあああ~!!

 みゆうはとてもじっとしていられない。

 からだがムズムズしはじめる。

 悶絶…。

 みゆうの嬉しすぎるあまりの苦しみなど知る由もなく、優くんは歌い続ける。

 く、くおっ…、透き通るように綺麗で、すべてを包み込むような優しさがある歌声…。

 いつもイヤホンで聴いているだけでも、悶えてしまうというのに、それを耳元で聴かされたら…。

 みゆうの心臓はもうすぐそのキャパをオーバーするだろう。

 嬉しすぎるというのは一歩間違うと危険なものなのだ。

 しかし、みゆうの嬉しすぎる悶絶タイムは突然終わりをむかえた。

「もっと歌ってあげたいんだけど、実は今アフレコの途中なんだ。もうそろそろ戻らないと。でも君はまだ眠っていない」

 そ、そ、そんな大変なときに来ちゃダメでしょ!

「わ、私のことはいいですから、すぐ戻ってください。私はすぐ眠れますから」

 みゆうは、必死で訴えた。

「そう?本当は君が眠るまでいてあげたかったんだけど。ごめんね」

 そう言うと、優くんはニコッと笑って手を振ると部屋から出て行った。

 みゆうは呆然としながらも、手を振り返した。
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