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邪竜の遺骸は、険しい山脈をかきわけた奥の奥、山頂にほど近い岩場に置き捨てられていた。
邪竜の呪われた性質ゆえか、そこだけは草木が枯れ、肌にまとわりつくような靄が漂っていて陰々としている。
灰色に濁った空には、屍肉にたかる鳥や魔獣が旋回していた。ギャアギャアと耳をつんざく鳴き声が響く。
(……これが、邪竜)
馬車を降り、遺骸を仰いだエレオラは唾を飲み込んだ。
首を落とされたとはいえ、それは小高い丘と見紛うほど大きい。赤褐色の鱗が不気味に輝き、切断面には赤黒く変色した血がこびりついていて陰惨だった。ぼとり、と腐った肉が地面に垂れ落ちて、聖女たちが押し殺した悲鳴をあげる。
「あまり上手く斬れなかったから、エレオラに見られるのは気恥ずかしいんだが」
「少なくとも恥ずかしがる場面ではありませんよね?」
隣で照れくさげにしているのはもちろんヴァールハイトだ。手にした聖杖で思わずその腕を軽く突いてから、聖女エレオラはこんなことしない!と心の内で悶える。
だがヴァールハイトは気にしたふうもなく、エレオラの手元の聖杖を覗き込む。
「それはなんだ?」
「聖杖です。魔力を増幅させる魔道具で、浄化に使います」
「へえ」
エレオラの簡素な説明に理解したのかしていないのか、ヴァールハイトは短く頷いた。
さっさと浄化を早く終わらせよう、と取り決めて、エレオラは遺骸に近づいてテキパキと準備を始める。その後ろで、おそるおそる、といった様子でレベッカがヴァールハイトに近づき、こそこそと話しかけ始めた。
「エレオラ様は簡単に言いますが、聖杖を扱えるのは限られた聖女だけなのです。とってもすごいことなのですよ。私たちの誇りなのです」
「さすが我が妻だな。求婚に竜殺しを求めるだけある。妻として愛らしいだけでなく、聖女としても優れているとは。まあ、全部俺のだが」
「……『私たちの』聖女エレオラは、本当にすっごい方なのです。魔力量が多いだけではなく、努力家だし、お菓子を焼くのもお上手なのです。とっても優しいし、勉強だって分かりやすく教えてくださるのですよ」
「……『俺の』エレオラは、皆で作ったスープが炊き出しで全て捌けると誰よりも嬉しそうだし、朝の祈りを捧げるときには後光が差しているし、神殿には一番遅くまで残って戸締まりをしているし、一人で落ち着いて本を読むのも意外と好きだし、市場でおまけしてもらうと小さく拳を握っているし、笑い声は可憐だし、寝顔が非常に可愛い」
(いや何それ知らん知らん! あとレベッカと張り合うな‼︎)
地面に白墨で聖句を書きながら、エレオラは聖杖の底でヴァールハイトをどつき回したくて仕方がなくなった。発言から推察するに、どうやら神殿で過ごしているところを朝から晩まで観察していたらしい。全く気づかなかった。怖。
それに、レベッカだって褒めすぎだ。エレオラは良い聖女になりたかったから、ずっとそれらしく振る舞っていただけ。
実際のエレオラはその辺の町娘と変わらない。聖女らしい純粋さなんて持ち合わせていないし、心の中では言いたい放題言っているし、第一王子の執務室をお悩み相談室にしている。
……慕われること自体は、嬉しいけれども。
そうこうしているうちに浄化の準備が整って、他の聖女が合図をしてくれる。エレオラは目で頷いて、ヴァールハイトとレベッカの方を振り向いた。
「そこのお二人、離れていてくださいね」
「は、はいっ」
「なぜ? エレオラのそばにいたらいけないのか?」
「いけません。危険なので。ヴァールハイトさまはレベッカをしっかり見ていてあげてください」
「……承知した」
不満そうなヴァールハイトだが、自分より遥か下にあるレベッカの小さなつむじを見下ろした。レベッカが視線に気がついて、むむっと唇を曲げる。同レベルの戦いなのか、娘と争う父親なのか、微妙なところだ。
(……いや、その場合私が母親ということになってしまう! レベッカが娘なのはいいけれど、ヴァールハイトさまが父親なのはちょっと!)
一瞬受け入れかけた自分が恐ろしい。ぶるぶる首を振っていると、エレオラに合図してきた聖女が訝しそうな顔を向けてくる。エレオラはにこ、と微笑んで、軽く咳払いをした。
すっ、と静かに背筋を伸ばす。
聖杖を両手に握り直し、胸の前で掲げてみせる。それから一つ、地面を叩く。
コーン……と涼やかな音が、色褪せた岩場に響き渡った。
それは決して大きな音ではないのに、その場にいたもの全ての耳朶を打った。
風はやみ、空を飛んでいた魔獣や鳥の姿も遥かに遠ざかる。靄が濃くなって、一瞬、エレオラの体を包み込んだ。
エレオラは躊躇わず頭上に聖杖を振り上げる。杖の先端に飾られた魔石が、靄の中でも朝露のようにきらめく。聖女の唇から、朗々とした詠唱が流れた。
「——天には眼、地に腕、葦の海原は遙かに至り、果ての荒野は足下に空く」
金に輝く魔力の糸がゆるゆると四囲を揺蕩い、遺骸をかがり、まつろう。
「慈悲深き我らが星よ。白夜を超えて指はここに至る——汝、清くあれ」
ごう、と風が渦巻いた。魔石が目も眩む光を放ち、枯れた草木が引き倒れそうなほど軋む。悲鳴のような音を立てながら、激しく枝を振り、幹を歪ませる。
聖女の何人かがきゃあと叫んで地面を転がった。屈強な騎士団の男たちですら、耐えられないというように膝をつく。
その、中心で——。
エレオラは真っ直ぐに立っていた。
聖杖を天高く捧げたまま身じろぎもしない。そこにはただ一本の若木が生えているようだった。
聖衣の裾が翻り、舞い上がったヴェールがエレオラの表情を明らかにする。
彼女の眼差しに微塵も揺らぎはなく。ただじっと遺骸を見据え、浄化に集中していた。
その横顔に見惚れているのが若干一名。竜殺しの騎士は、自身の斃した竜になど一欠片の興味もなく、頬を紅潮させて聖女を見つめていた。
一応、隣で吹っ飛びそうになっているレベッカの首根っこを片手で捕まえながら。その整った顔には陶酔が満ちていて、口元には不穏な笑みが漂っていた。くっ、と喉の奥で笑い声に似た音が鳴る。
——やがて風が収まり、靄が晴れた。
魔石から輝きが失せ、それと入れ替わるように空から太陽の光が差し込む。エレオラはほっと肩の力を抜いて聖杖を地面についた。コンと小気味良い音が鳴った。
「浄化完了です。皆さん、お疲れさまでした」
邪竜の血の禍々しさは霧散し、そこにあるのはただの巨大な屍肉だった。この処理は大変だろうが、少なくとも血に触れて気絶したり呪われてしまったりすることはない。
その場には静寂が染み入っていた。みな圧倒されたように口をつぐみ、エレオラを遠巻きに眺めやる。震えながら祈りを捧げる騎士もいた。まるでそこに立つのが女神であるかのように。
ヴェールがふわりとエレオラの顔を覆う。さゆらぐレースの向こう、幻想的な微笑みの気配だけが確かだった。
誰かの細い呼吸の音がやけに響く。そのとき、エレオラに駆け寄る人影があった。
「エレオラ!」
ヴァールハイトである。一切の躊躇いなくエレオラに腕を伸ばし抱き上げようとするので、エレオラは聖杖を振り回して威嚇した。
「な、なんでしょうか」
「あなたの浄化はこんなにも神々しいものなのか。女神か天使に見えたぞ」
「いえ、聖女なので……」
「俺の心も清められるようだった。ところで伯爵邸に帰ってくる気はないか? そろそろ限界なんだが」
「これは浄化失敗したかもしれませんね」
ヴァールハイトが甘く笑って顔を寄せ、両手を掴んでくるのでベシッと払う。それでなんとなく、場の空気がほぐれた。人々の間にざわめきが戻り、荷の片づけにとりかかる。今日の任務は完遂した。下山するのだ。
その様子を眺めながら、ヴァールハイトがぼそりと言った。
「俺はときどき、あなたが恐ろしくなるときがある」
「それはこちらの台詞ですが」
「こんなに欠けるところのない存在が生まれていいのか、と思う。何かの間違いじゃないか? 俺に愛されるために生まれてきたのか?」
「全然違います。……今日の私は、恐ろしかったですか?」
「今日? 今日のエレオラは大活躍だったな。たくさんそばにいられて嬉しかった。何せ俺は新婚の妻に一日で逃げられるような男だからな」
「ああそうですか……」
いつもの調子のヴァールハイトにがっくりと肩を落とす。聖杖の先が力なく地面を向いた。
(ヴァールハイトさまの疑念はある種正しい。そんな完璧な存在が自然にいるわけない)
聖女エレオラは、エレオラが精一杯の力でこの世に投影した幻想だった。それが現にある限り、奇跡はいずれ起きるのだと信じられる類のもの。だから、聖女エレオラはそもそもエレオラのためだけの神様だったのだ。
——良い子でいれば、必ず迎えがくるという祈りのための。
それで結局、エレオラの望んだ迎えは来ずに、やって来たのは政略結婚の誘いと邪竜の首だったのだから、これは贋物の神様を生み出したエレオラへの罰かもしれない。
ヴァールハイトが、何かを探るように細めた瞳を向けてくる。エレオラは気を取り直して明るく告げた。
「とにかく、これでティオールにも人が立ち入れるようになります。今後、ここも発展していくでしょう。色々ありましたがヴァールハイトさまが邪竜殺しを成し遂げたおかげですね」
「……俺はエレオラの役に立ったか」
「私の、というか、みんなの、です。結局それが一番なのですよ」
「へえ、そうか、良かったな」
「全然響いていませんね?」
「俺はエレオラと剣の道以外はどうでもいい。興味がない」
「人生の選択が両極端すぎませんか」
「……きっとエレオラには、何かが欠落した生き物のことは分からないだろう」
「はい?」
低く問われて、エレオラは片眉を上げた。急に喧嘩を売ってきたのか?とその顔を仰いだが、ヴァールハイトは存外、穏やかな表情をしていた。わずかに唇の端が緩んですらいる。
「だが、あなたは——」
ヴァールハイトが何か言いかけたとき、幼い悲鳴が響き渡った。ハッとそちらを振り向くと、岩場の端で、レベッカが腰を抜かしていた。
その眼前には、熊に似た大きな魔獣。
鋭い牙を唾液にてからせ、頭をもたげて吠え声を轟かせる。幼い子供なら丸呑みできそうなほど大きく口を開き、レベッカに狙いを定めた。
真っ青になったレベッカはガタガタと震えるばかりで、とても逃げられそうにない。
周りの誰もが凍りつき、レベッカを見るばかりだった。助けようと動くものは一人もいない。
「レベッカ!」
エレオラはとっさに地面を蹴った。手を伸ばす。聖杖はとうに放り出した。けれどだめだ。遠すぎる。間に合わない。それにレベッカの元に辿りついたとして、エレオラには魔獣を倒すすべがない。聖女は武器を持たない。守りたいものを守るには。
——命を擲つしかない。
そのとき、エレオラのそばを黒い影が駆け抜けた。
それは一息に踏み込むと同時に剣を抜き放ち、魔獣の前に迷いなく身を躍らせたと思うと。
次の瞬間には魔獣の胴体が両断されていた。
青空に血飛沫が散る。ざあっ、と雨が降るような音がして、周囲にばたばたと血が振りまかれた。
けれど、地面にへたり込むレベッカの白いワンピースには染み一つない。彼女の前に立ったヴァールハイトが、醒めた顔で全身に血を浴びているためだ。
その顔はおそろしく平然としている。たった今、瞬きする間もなく魔獣を斬り伏せたことも、子供を助けたことも、まるで興味がないというように。
しん、と岩場が静まりかえる。風が吹いて、ヴァールハイトの前髪を揺らした。粘っこい血が髪の先から垂れて、白い頬に伝い落ちた。
男がゆっくりと子供を見下ろす。血に濡れたまま、白々とした面差しのままで。
「怪我はないか?」
「……ぁ、あ」
レベッカは慄きながら首を横に振って、後退ろうとする。ヴァールハイトは少し考えるように小首を傾げ、「ああ」と平坦に呟いた。
すっと膝をつき、レベッカと視線を合わせる。「それ」と間近で目があって、レベッカは凍りついた。
「なんだ、平気そうだな。服は汚れなかったか?」
「……ひ、ぇ」
「はいはいはい! レベッカ、もう大丈夫ですよ!」
やっと追いついたエレオラは、呆然としているレベッカを勢いよく腕に抱きしめた。頭を抱え、固くこわばった背中を温めるようにさする。それで緊張がとけたようで、レベッカはバターのようにぐんにゃりとエレオラの胸に身を預けるやいなや、ワッと大きな声をあげて泣き始めた。
子供の泣き声が辺りにこだまし、他の聖女や騎士たちも慌てたように動き出す。
その中で、エレオラは静かにヴァールハイトを見返した。
ヴァールハイトは泣く子供を前にして、困ったように血濡れた前髪をかき上げていた。
「……ヴァールハイトさま、ありがとうございます」
「うん? これで良かったのか」
「もちろんです。ヴァールハイトさまにお怪我はありませんか?」
「俺に?」
ヴァールハイトは肩をすくめる。短く笑って、
「あんなものが、俺に傷一つつけられるわけがない」
「……それならよろしいのですが。心配しました」
「ほう、エレオラが俺のことを心配するとは。そういえば、足が痛い気がしてきた」
ヴァールハイトが瞳を輝かせる。エレオラは嫌な予感がして、レベッカをぎゅっと抱きしめた。
「絶対足なんか怪我していないと思いますけど」
「いや、痛い。看病してもらわないといけない。朝から次の日の朝まで、つきっきりで。じっくりと」
「一応言っておきますけど、私はあなたへのご褒美とか償いみたいに邸に戻る気はありません」
きっぱりした言葉に、ヴァールハイトの顔から笑みが消えた。しごく真面目な顔つきで、
「……わかっている」
そう首肯したあとで、傷が痛むように顔を歪める。顔色ひとつ変えずに魔獣に対峙して、恐れもなくその体を斬り刻んで、血を浴びたってしらっとしていたのに。
エレオラはうつむき、肺の底まで空気を取り入れた。生ぬるい、血腥い臭いがした。
唇を噛んで、まだらに血で汚れたヴァールハイトのブーツを見つめる。つま先は赤黒く変色し始めていた。
深く息を吐いて、エレオラはきっと眦を決する。顔を上げた。ヴァールハイトと、まともに視線がぶつかった。
目はそらさない。挑みかかるような口調で言った。
「そのうちに私は神殿の荷物をまとめます」
「帰ってくるのか⁉︎」
「結論が早い。……まあ、そういうことです」
認めざるをえなかった。彼のそばにいたい、と思ってしまったことを。
エレオラと剣以外はどうでもよいと言い切り、その言葉に違わず人とも思えぬ剣さばきであらゆる魔物を斬り、つまらなさそうに血に塗れる男のそばに。
それでも彼はレベッカを救い、浄化を終えたエレオラに無邪気に駆け寄り、エレオラが邸に帰ることを望む。それを……なぜだか嬉しいと感じてしまった。
不思議な感覚だった。聖女エレオラは誰にも分け隔てなく接し、一人の想いだけを特別に扱わない。
それは裏返せば、誰の特別にもなれないということだった。当然だ。みんなに平等に優しい人間を、誰が一つしかない椅子に座らせたいと思うだろう。
だがエレオラは平気だった。恋知らずの聖女には、その孤独こそがふさわしいとさえ思った。
(これはたぶん……恋ではない、けれど。ドキドキしているのは完全に恐怖による動悸なのだけれど!)
誰か一人のそばにいたいなんて、聖女エレオラにはふさわしくない希望。でもエレオラは、こうするのが一番良いと思ってしまったのだ。
ヴァールハイトは心底嬉しげに目尻を緩めて、ぼうっと虚空を見ている。心が現実に追いついていないようだ。
なお、二人の周りで、聖女や騎士たちが「夫婦喧嘩が収まったようですわ」「ヴァールハイト、良かったな」などと囁きあっていることは知る由もない。
邪竜の呪われた性質ゆえか、そこだけは草木が枯れ、肌にまとわりつくような靄が漂っていて陰々としている。
灰色に濁った空には、屍肉にたかる鳥や魔獣が旋回していた。ギャアギャアと耳をつんざく鳴き声が響く。
(……これが、邪竜)
馬車を降り、遺骸を仰いだエレオラは唾を飲み込んだ。
首を落とされたとはいえ、それは小高い丘と見紛うほど大きい。赤褐色の鱗が不気味に輝き、切断面には赤黒く変色した血がこびりついていて陰惨だった。ぼとり、と腐った肉が地面に垂れ落ちて、聖女たちが押し殺した悲鳴をあげる。
「あまり上手く斬れなかったから、エレオラに見られるのは気恥ずかしいんだが」
「少なくとも恥ずかしがる場面ではありませんよね?」
隣で照れくさげにしているのはもちろんヴァールハイトだ。手にした聖杖で思わずその腕を軽く突いてから、聖女エレオラはこんなことしない!と心の内で悶える。
だがヴァールハイトは気にしたふうもなく、エレオラの手元の聖杖を覗き込む。
「それはなんだ?」
「聖杖です。魔力を増幅させる魔道具で、浄化に使います」
「へえ」
エレオラの簡素な説明に理解したのかしていないのか、ヴァールハイトは短く頷いた。
さっさと浄化を早く終わらせよう、と取り決めて、エレオラは遺骸に近づいてテキパキと準備を始める。その後ろで、おそるおそる、といった様子でレベッカがヴァールハイトに近づき、こそこそと話しかけ始めた。
「エレオラ様は簡単に言いますが、聖杖を扱えるのは限られた聖女だけなのです。とってもすごいことなのですよ。私たちの誇りなのです」
「さすが我が妻だな。求婚に竜殺しを求めるだけある。妻として愛らしいだけでなく、聖女としても優れているとは。まあ、全部俺のだが」
「……『私たちの』聖女エレオラは、本当にすっごい方なのです。魔力量が多いだけではなく、努力家だし、お菓子を焼くのもお上手なのです。とっても優しいし、勉強だって分かりやすく教えてくださるのですよ」
「……『俺の』エレオラは、皆で作ったスープが炊き出しで全て捌けると誰よりも嬉しそうだし、朝の祈りを捧げるときには後光が差しているし、神殿には一番遅くまで残って戸締まりをしているし、一人で落ち着いて本を読むのも意外と好きだし、市場でおまけしてもらうと小さく拳を握っているし、笑い声は可憐だし、寝顔が非常に可愛い」
(いや何それ知らん知らん! あとレベッカと張り合うな‼︎)
地面に白墨で聖句を書きながら、エレオラは聖杖の底でヴァールハイトをどつき回したくて仕方がなくなった。発言から推察するに、どうやら神殿で過ごしているところを朝から晩まで観察していたらしい。全く気づかなかった。怖。
それに、レベッカだって褒めすぎだ。エレオラは良い聖女になりたかったから、ずっとそれらしく振る舞っていただけ。
実際のエレオラはその辺の町娘と変わらない。聖女らしい純粋さなんて持ち合わせていないし、心の中では言いたい放題言っているし、第一王子の執務室をお悩み相談室にしている。
……慕われること自体は、嬉しいけれども。
そうこうしているうちに浄化の準備が整って、他の聖女が合図をしてくれる。エレオラは目で頷いて、ヴァールハイトとレベッカの方を振り向いた。
「そこのお二人、離れていてくださいね」
「は、はいっ」
「なぜ? エレオラのそばにいたらいけないのか?」
「いけません。危険なので。ヴァールハイトさまはレベッカをしっかり見ていてあげてください」
「……承知した」
不満そうなヴァールハイトだが、自分より遥か下にあるレベッカの小さなつむじを見下ろした。レベッカが視線に気がついて、むむっと唇を曲げる。同レベルの戦いなのか、娘と争う父親なのか、微妙なところだ。
(……いや、その場合私が母親ということになってしまう! レベッカが娘なのはいいけれど、ヴァールハイトさまが父親なのはちょっと!)
一瞬受け入れかけた自分が恐ろしい。ぶるぶる首を振っていると、エレオラに合図してきた聖女が訝しそうな顔を向けてくる。エレオラはにこ、と微笑んで、軽く咳払いをした。
すっ、と静かに背筋を伸ばす。
聖杖を両手に握り直し、胸の前で掲げてみせる。それから一つ、地面を叩く。
コーン……と涼やかな音が、色褪せた岩場に響き渡った。
それは決して大きな音ではないのに、その場にいたもの全ての耳朶を打った。
風はやみ、空を飛んでいた魔獣や鳥の姿も遥かに遠ざかる。靄が濃くなって、一瞬、エレオラの体を包み込んだ。
エレオラは躊躇わず頭上に聖杖を振り上げる。杖の先端に飾られた魔石が、靄の中でも朝露のようにきらめく。聖女の唇から、朗々とした詠唱が流れた。
「——天には眼、地に腕、葦の海原は遙かに至り、果ての荒野は足下に空く」
金に輝く魔力の糸がゆるゆると四囲を揺蕩い、遺骸をかがり、まつろう。
「慈悲深き我らが星よ。白夜を超えて指はここに至る——汝、清くあれ」
ごう、と風が渦巻いた。魔石が目も眩む光を放ち、枯れた草木が引き倒れそうなほど軋む。悲鳴のような音を立てながら、激しく枝を振り、幹を歪ませる。
聖女の何人かがきゃあと叫んで地面を転がった。屈強な騎士団の男たちですら、耐えられないというように膝をつく。
その、中心で——。
エレオラは真っ直ぐに立っていた。
聖杖を天高く捧げたまま身じろぎもしない。そこにはただ一本の若木が生えているようだった。
聖衣の裾が翻り、舞い上がったヴェールがエレオラの表情を明らかにする。
彼女の眼差しに微塵も揺らぎはなく。ただじっと遺骸を見据え、浄化に集中していた。
その横顔に見惚れているのが若干一名。竜殺しの騎士は、自身の斃した竜になど一欠片の興味もなく、頬を紅潮させて聖女を見つめていた。
一応、隣で吹っ飛びそうになっているレベッカの首根っこを片手で捕まえながら。その整った顔には陶酔が満ちていて、口元には不穏な笑みが漂っていた。くっ、と喉の奥で笑い声に似た音が鳴る。
——やがて風が収まり、靄が晴れた。
魔石から輝きが失せ、それと入れ替わるように空から太陽の光が差し込む。エレオラはほっと肩の力を抜いて聖杖を地面についた。コンと小気味良い音が鳴った。
「浄化完了です。皆さん、お疲れさまでした」
邪竜の血の禍々しさは霧散し、そこにあるのはただの巨大な屍肉だった。この処理は大変だろうが、少なくとも血に触れて気絶したり呪われてしまったりすることはない。
その場には静寂が染み入っていた。みな圧倒されたように口をつぐみ、エレオラを遠巻きに眺めやる。震えながら祈りを捧げる騎士もいた。まるでそこに立つのが女神であるかのように。
ヴェールがふわりとエレオラの顔を覆う。さゆらぐレースの向こう、幻想的な微笑みの気配だけが確かだった。
誰かの細い呼吸の音がやけに響く。そのとき、エレオラに駆け寄る人影があった。
「エレオラ!」
ヴァールハイトである。一切の躊躇いなくエレオラに腕を伸ばし抱き上げようとするので、エレオラは聖杖を振り回して威嚇した。
「な、なんでしょうか」
「あなたの浄化はこんなにも神々しいものなのか。女神か天使に見えたぞ」
「いえ、聖女なので……」
「俺の心も清められるようだった。ところで伯爵邸に帰ってくる気はないか? そろそろ限界なんだが」
「これは浄化失敗したかもしれませんね」
ヴァールハイトが甘く笑って顔を寄せ、両手を掴んでくるのでベシッと払う。それでなんとなく、場の空気がほぐれた。人々の間にざわめきが戻り、荷の片づけにとりかかる。今日の任務は完遂した。下山するのだ。
その様子を眺めながら、ヴァールハイトがぼそりと言った。
「俺はときどき、あなたが恐ろしくなるときがある」
「それはこちらの台詞ですが」
「こんなに欠けるところのない存在が生まれていいのか、と思う。何かの間違いじゃないか? 俺に愛されるために生まれてきたのか?」
「全然違います。……今日の私は、恐ろしかったですか?」
「今日? 今日のエレオラは大活躍だったな。たくさんそばにいられて嬉しかった。何せ俺は新婚の妻に一日で逃げられるような男だからな」
「ああそうですか……」
いつもの調子のヴァールハイトにがっくりと肩を落とす。聖杖の先が力なく地面を向いた。
(ヴァールハイトさまの疑念はある種正しい。そんな完璧な存在が自然にいるわけない)
聖女エレオラは、エレオラが精一杯の力でこの世に投影した幻想だった。それが現にある限り、奇跡はいずれ起きるのだと信じられる類のもの。だから、聖女エレオラはそもそもエレオラのためだけの神様だったのだ。
——良い子でいれば、必ず迎えがくるという祈りのための。
それで結局、エレオラの望んだ迎えは来ずに、やって来たのは政略結婚の誘いと邪竜の首だったのだから、これは贋物の神様を生み出したエレオラへの罰かもしれない。
ヴァールハイトが、何かを探るように細めた瞳を向けてくる。エレオラは気を取り直して明るく告げた。
「とにかく、これでティオールにも人が立ち入れるようになります。今後、ここも発展していくでしょう。色々ありましたがヴァールハイトさまが邪竜殺しを成し遂げたおかげですね」
「……俺はエレオラの役に立ったか」
「私の、というか、みんなの、です。結局それが一番なのですよ」
「へえ、そうか、良かったな」
「全然響いていませんね?」
「俺はエレオラと剣の道以外はどうでもいい。興味がない」
「人生の選択が両極端すぎませんか」
「……きっとエレオラには、何かが欠落した生き物のことは分からないだろう」
「はい?」
低く問われて、エレオラは片眉を上げた。急に喧嘩を売ってきたのか?とその顔を仰いだが、ヴァールハイトは存外、穏やかな表情をしていた。わずかに唇の端が緩んですらいる。
「だが、あなたは——」
ヴァールハイトが何か言いかけたとき、幼い悲鳴が響き渡った。ハッとそちらを振り向くと、岩場の端で、レベッカが腰を抜かしていた。
その眼前には、熊に似た大きな魔獣。
鋭い牙を唾液にてからせ、頭をもたげて吠え声を轟かせる。幼い子供なら丸呑みできそうなほど大きく口を開き、レベッカに狙いを定めた。
真っ青になったレベッカはガタガタと震えるばかりで、とても逃げられそうにない。
周りの誰もが凍りつき、レベッカを見るばかりだった。助けようと動くものは一人もいない。
「レベッカ!」
エレオラはとっさに地面を蹴った。手を伸ばす。聖杖はとうに放り出した。けれどだめだ。遠すぎる。間に合わない。それにレベッカの元に辿りついたとして、エレオラには魔獣を倒すすべがない。聖女は武器を持たない。守りたいものを守るには。
——命を擲つしかない。
そのとき、エレオラのそばを黒い影が駆け抜けた。
それは一息に踏み込むと同時に剣を抜き放ち、魔獣の前に迷いなく身を躍らせたと思うと。
次の瞬間には魔獣の胴体が両断されていた。
青空に血飛沫が散る。ざあっ、と雨が降るような音がして、周囲にばたばたと血が振りまかれた。
けれど、地面にへたり込むレベッカの白いワンピースには染み一つない。彼女の前に立ったヴァールハイトが、醒めた顔で全身に血を浴びているためだ。
その顔はおそろしく平然としている。たった今、瞬きする間もなく魔獣を斬り伏せたことも、子供を助けたことも、まるで興味がないというように。
しん、と岩場が静まりかえる。風が吹いて、ヴァールハイトの前髪を揺らした。粘っこい血が髪の先から垂れて、白い頬に伝い落ちた。
男がゆっくりと子供を見下ろす。血に濡れたまま、白々とした面差しのままで。
「怪我はないか?」
「……ぁ、あ」
レベッカは慄きながら首を横に振って、後退ろうとする。ヴァールハイトは少し考えるように小首を傾げ、「ああ」と平坦に呟いた。
すっと膝をつき、レベッカと視線を合わせる。「それ」と間近で目があって、レベッカは凍りついた。
「なんだ、平気そうだな。服は汚れなかったか?」
「……ひ、ぇ」
「はいはいはい! レベッカ、もう大丈夫ですよ!」
やっと追いついたエレオラは、呆然としているレベッカを勢いよく腕に抱きしめた。頭を抱え、固くこわばった背中を温めるようにさする。それで緊張がとけたようで、レベッカはバターのようにぐんにゃりとエレオラの胸に身を預けるやいなや、ワッと大きな声をあげて泣き始めた。
子供の泣き声が辺りにこだまし、他の聖女や騎士たちも慌てたように動き出す。
その中で、エレオラは静かにヴァールハイトを見返した。
ヴァールハイトは泣く子供を前にして、困ったように血濡れた前髪をかき上げていた。
「……ヴァールハイトさま、ありがとうございます」
「うん? これで良かったのか」
「もちろんです。ヴァールハイトさまにお怪我はありませんか?」
「俺に?」
ヴァールハイトは肩をすくめる。短く笑って、
「あんなものが、俺に傷一つつけられるわけがない」
「……それならよろしいのですが。心配しました」
「ほう、エレオラが俺のことを心配するとは。そういえば、足が痛い気がしてきた」
ヴァールハイトが瞳を輝かせる。エレオラは嫌な予感がして、レベッカをぎゅっと抱きしめた。
「絶対足なんか怪我していないと思いますけど」
「いや、痛い。看病してもらわないといけない。朝から次の日の朝まで、つきっきりで。じっくりと」
「一応言っておきますけど、私はあなたへのご褒美とか償いみたいに邸に戻る気はありません」
きっぱりした言葉に、ヴァールハイトの顔から笑みが消えた。しごく真面目な顔つきで、
「……わかっている」
そう首肯したあとで、傷が痛むように顔を歪める。顔色ひとつ変えずに魔獣に対峙して、恐れもなくその体を斬り刻んで、血を浴びたってしらっとしていたのに。
エレオラはうつむき、肺の底まで空気を取り入れた。生ぬるい、血腥い臭いがした。
唇を噛んで、まだらに血で汚れたヴァールハイトのブーツを見つめる。つま先は赤黒く変色し始めていた。
深く息を吐いて、エレオラはきっと眦を決する。顔を上げた。ヴァールハイトと、まともに視線がぶつかった。
目はそらさない。挑みかかるような口調で言った。
「そのうちに私は神殿の荷物をまとめます」
「帰ってくるのか⁉︎」
「結論が早い。……まあ、そういうことです」
認めざるをえなかった。彼のそばにいたい、と思ってしまったことを。
エレオラと剣以外はどうでもよいと言い切り、その言葉に違わず人とも思えぬ剣さばきであらゆる魔物を斬り、つまらなさそうに血に塗れる男のそばに。
それでも彼はレベッカを救い、浄化を終えたエレオラに無邪気に駆け寄り、エレオラが邸に帰ることを望む。それを……なぜだか嬉しいと感じてしまった。
不思議な感覚だった。聖女エレオラは誰にも分け隔てなく接し、一人の想いだけを特別に扱わない。
それは裏返せば、誰の特別にもなれないということだった。当然だ。みんなに平等に優しい人間を、誰が一つしかない椅子に座らせたいと思うだろう。
だがエレオラは平気だった。恋知らずの聖女には、その孤独こそがふさわしいとさえ思った。
(これはたぶん……恋ではない、けれど。ドキドキしているのは完全に恐怖による動悸なのだけれど!)
誰か一人のそばにいたいなんて、聖女エレオラにはふさわしくない希望。でもエレオラは、こうするのが一番良いと思ってしまったのだ。
ヴァールハイトは心底嬉しげに目尻を緩めて、ぼうっと虚空を見ている。心が現実に追いついていないようだ。
なお、二人の周りで、聖女や騎士たちが「夫婦喧嘩が収まったようですわ」「ヴァールハイト、良かったな」などと囁きあっていることは知る由もない。
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