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レノアの章
孤独な決意
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悪い予感というものは大体が当たるもので、特に私のそれはほぼ確実だった。
誰よりも知っていたのに。
放課後、廊下を歩いているとアイリスフィア様を見かけた。
立ち姿に違和感を覚えて近づくと彼女の白い首筋は季節に合わず汗ばんでいた。
「アイリスフィア様?」
そう名を呼ぶと普段は氷のように澄んだ青の瞳がぼんやりと私を見返した。
眦(まなじり)が赤く腫れている。その時になって気づいた。
彼女の制服のスカートの下が素足であることを。
指定のタイツを身に着けていない。青白い足は寒そうに震えている。私がそのことを指摘すると彼女は声もなく泣き始めた。
ああ、間に合わなかった。苦く熱い後悔に胃が焼かれる。
私はアイリスフィア様を人の来ない部屋まで連れ出し、落ち着くまで傍にいた。そして彼女に精神安定剤だと言って避妊薬を飲ませた。
その後で私に会う前に起こったことは夢だと思うようにと暗示をかけた。全て悪い夢だと。
本当は、恐らく第二王子に穢されたアイリスフィア様を連れてすぐ教会に行き事実を暴露したかった。
教会の人間だけでない、公爵家にも王家側の人間にもだ。そして彼女に暴行をしたジルク王子を凶悪な犯罪者だと糾弾したかった。
けれど私はその方法を選ばなかった。望むような結果にはならないと予想したからだ。
教会の大人たち、司祭長や先代聖女である司祭長補佐は、恐らく婚儀が行われる前までアイリスフィア様が孕まなければいいと考えているのだ。
結婚前の姦通は貴族だろうと婚約者同士だろうと禁じられている。
男女が婚約関係なら厳罰は下されないだろうが、我儘な子供のまま育ったような第二王子だ。
叱られるだけのことさえ嫌がって女性側に罪を押し付けることは想像できた。そしてそれが私が見た悪夢に繋がるのだろうと。
大人たちはジルク王子と結婚するまでアイリスフィア様に避妊して貰えればそれで問題ないと考えているに違いない。
けれど私は違う。そのような身勝手な男と結婚しても彼女は幸せにはなれない。
ジルク王子には凶相が出ている。我儘で愚かなだけではなく、人の尊厳を傷つけることを喜ぶ残酷さを感じる。
そのような人物に好き勝手に振舞わせていいことなどない。
聖女としての使命感と尊敬し憧れていた先輩を穢された怒りで私の頭は冷え切っていた。
誰よりも知っていたのに。
放課後、廊下を歩いているとアイリスフィア様を見かけた。
立ち姿に違和感を覚えて近づくと彼女の白い首筋は季節に合わず汗ばんでいた。
「アイリスフィア様?」
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眦(まなじり)が赤く腫れている。その時になって気づいた。
彼女の制服のスカートの下が素足であることを。
指定のタイツを身に着けていない。青白い足は寒そうに震えている。私がそのことを指摘すると彼女は声もなく泣き始めた。
ああ、間に合わなかった。苦く熱い後悔に胃が焼かれる。
私はアイリスフィア様を人の来ない部屋まで連れ出し、落ち着くまで傍にいた。そして彼女に精神安定剤だと言って避妊薬を飲ませた。
その後で私に会う前に起こったことは夢だと思うようにと暗示をかけた。全て悪い夢だと。
本当は、恐らく第二王子に穢されたアイリスフィア様を連れてすぐ教会に行き事実を暴露したかった。
教会の人間だけでない、公爵家にも王家側の人間にもだ。そして彼女に暴行をしたジルク王子を凶悪な犯罪者だと糾弾したかった。
けれど私はその方法を選ばなかった。望むような結果にはならないと予想したからだ。
教会の大人たち、司祭長や先代聖女である司祭長補佐は、恐らく婚儀が行われる前までアイリスフィア様が孕まなければいいと考えているのだ。
結婚前の姦通は貴族だろうと婚約者同士だろうと禁じられている。
男女が婚約関係なら厳罰は下されないだろうが、我儘な子供のまま育ったような第二王子だ。
叱られるだけのことさえ嫌がって女性側に罪を押し付けることは想像できた。そしてそれが私が見た悪夢に繋がるのだろうと。
大人たちはジルク王子と結婚するまでアイリスフィア様に避妊して貰えればそれで問題ないと考えているに違いない。
けれど私は違う。そのような身勝手な男と結婚しても彼女は幸せにはなれない。
ジルク王子には凶相が出ている。我儘で愚かなだけではなく、人の尊厳を傷つけることを喜ぶ残酷さを感じる。
そのような人物に好き勝手に振舞わせていいことなどない。
聖女としての使命感と尊敬し憧れていた先輩を穢された怒りで私の頭は冷え切っていた。
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