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57.無実の罪を拭いたくて
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「私に社交界で男色家の噂があることを君は知っていたか?」
アリオスにそう告げられ俺は大きく首を振る。
そんな噂なんて全く知らない。
俺が知っていたのは彼が王室と繫がりのある美貌の独身貴族であることだけ。
冷たい表情を崩さない人形公爵。若く美しい令嬢を前にしても彼が微笑むことは無い。
成程、女性に興味が無いから男性が好きなんだとアリオスは思われていたということか。
下世話というか、単純な考えだと俺は思った。
女性に冷たく男性に甘い態度を取っていたならまだわかるが彼はそうではないだろう。
「私と君はかなり年齢差があるから知らなくても仕方がないかもしれないな」
ただ昔は私の耳にも入る程騒がれたものだ。
そう語るアリオスの声は静かだったが俺は無遠慮に騒ぎ立てた連中に内心腹を立てた。
悪口を言うな、変な噂話をするなとまでは言わないが本人に聞かせないぐらいの分別はあるべきだろう。
「元婚約者に毒殺されかけて以来、暫く若い女性を避けていたからかもしれない」
「それは……」
「今なら性別の問題とわかるのだが、当時は笑顔を浮かべて近づいてくる令嬢たちが恐ろしくて仕方が無かった」
可憐な微笑みの裏で私を殺そうと計画しているのではないかと。
アリオスは溜息を吐いた。それが俺には苦悶の声に聞こえた。
「一時期使用人を男性だけにしていたこともある。恐らくそれも私が男色を疑われた理由の一つだろう」
上手い言葉が出てこないが彼が気の毒だと思った。
婚約者に殺されかけて、結果女性が怖くなって、そうしたら男が好きなんだと勘違いされて。
そしてアリオスの先程の発言から考えれば俺の両親も彼を男色家だと認識していたようなのだ。
父母の勘違いについて謝罪すべきか迷っているとアリオスが再び口を開いた。
「リード伯爵家当主は私がセシリア嬢との間に子供をもうける気が無いと知っている」
「えっ」
「孫を期待していたら気の毒だからな。私の持病が理由だと婚約の話が出た際に伝えてある」
「持病……」
「しかしそれは嘘だと思われていたらしい。実際半分は嘘だが」
「もっ、申し訳ありません」
流石に居た堪れなくて頭を下げる。
アリオスはちゃんと子供が作れない事情を話しているのに両親はそれを嘘と決めつけ邪推までしたのだ。
「君が謝る必要は無い。リード伯爵夫妻と君は別の人間なのだから」
「だけど……」
「それに先程も話した通り半分は嘘だ。私の体が蝕まれているのは事実だが、理由は病気ではない」
「アリオス……」
「それに毒が体から消えたとしても、女性と子供を作ろうという気持ちが消えているのも確かだ」
そう無表情で言う彼を見ていると何故か胸が痛くなった。
子供を作れない体になったのも女性を恐れるようになったのも彼が悪いわけでは無いのに。
「三十を境に親戚から養子を迎えるつもりだ。だが亡くなった両親には申し訳ないと思う」
私は公爵家の当主として失格だ。
俯きながら告げる彼を無意識に抱きしめていた。
「そんなの……アリオスのせいじゃない! 貴方は、被害者だ」
「……セレスト」
「だから自分を責めなくていいんです」
自分より大きな体を両手を伸ばして包み込む。
昔誰かにそうして貰った時のように。彼を、アリオスを安心させたかった。
貴方は悪くないと何度でも言ってあげたかった。
アリオスにそう告げられ俺は大きく首を振る。
そんな噂なんて全く知らない。
俺が知っていたのは彼が王室と繫がりのある美貌の独身貴族であることだけ。
冷たい表情を崩さない人形公爵。若く美しい令嬢を前にしても彼が微笑むことは無い。
成程、女性に興味が無いから男性が好きなんだとアリオスは思われていたということか。
下世話というか、単純な考えだと俺は思った。
女性に冷たく男性に甘い態度を取っていたならまだわかるが彼はそうではないだろう。
「私と君はかなり年齢差があるから知らなくても仕方がないかもしれないな」
ただ昔は私の耳にも入る程騒がれたものだ。
そう語るアリオスの声は静かだったが俺は無遠慮に騒ぎ立てた連中に内心腹を立てた。
悪口を言うな、変な噂話をするなとまでは言わないが本人に聞かせないぐらいの分別はあるべきだろう。
「元婚約者に毒殺されかけて以来、暫く若い女性を避けていたからかもしれない」
「それは……」
「今なら性別の問題とわかるのだが、当時は笑顔を浮かべて近づいてくる令嬢たちが恐ろしくて仕方が無かった」
可憐な微笑みの裏で私を殺そうと計画しているのではないかと。
アリオスは溜息を吐いた。それが俺には苦悶の声に聞こえた。
「一時期使用人を男性だけにしていたこともある。恐らくそれも私が男色を疑われた理由の一つだろう」
上手い言葉が出てこないが彼が気の毒だと思った。
婚約者に殺されかけて、結果女性が怖くなって、そうしたら男が好きなんだと勘違いされて。
そしてアリオスの先程の発言から考えれば俺の両親も彼を男色家だと認識していたようなのだ。
父母の勘違いについて謝罪すべきか迷っているとアリオスが再び口を開いた。
「リード伯爵家当主は私がセシリア嬢との間に子供をもうける気が無いと知っている」
「えっ」
「孫を期待していたら気の毒だからな。私の持病が理由だと婚約の話が出た際に伝えてある」
「持病……」
「しかしそれは嘘だと思われていたらしい。実際半分は嘘だが」
「もっ、申し訳ありません」
流石に居た堪れなくて頭を下げる。
アリオスはちゃんと子供が作れない事情を話しているのに両親はそれを嘘と決めつけ邪推までしたのだ。
「君が謝る必要は無い。リード伯爵夫妻と君は別の人間なのだから」
「だけど……」
「それに先程も話した通り半分は嘘だ。私の体が蝕まれているのは事実だが、理由は病気ではない」
「アリオス……」
「それに毒が体から消えたとしても、女性と子供を作ろうという気持ちが消えているのも確かだ」
そう無表情で言う彼を見ていると何故か胸が痛くなった。
子供を作れない体になったのも女性を恐れるようになったのも彼が悪いわけでは無いのに。
「三十を境に親戚から養子を迎えるつもりだ。だが亡くなった両親には申し訳ないと思う」
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俯きながら告げる彼を無意識に抱きしめていた。
「そんなの……アリオスのせいじゃない! 貴方は、被害者だ」
「……セレスト」
「だから自分を責めなくていいんです」
自分より大きな体を両手を伸ばして包み込む。
昔誰かにそうして貰った時のように。彼を、アリオスを安心させたかった。
貴方は悪くないと何度でも言ってあげたかった。
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