初夜に「君を愛するつもりはない」と人形公爵から言われましたが俺は偽者花嫁なので大歓迎です

砂礫レキ

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58.真冬に咲く花

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 どれぐらいの時間アリオスを抱きしめていただろう。

「もう、大丈夫だ」

 言葉とともにそっと体が離される。
 けれど彼の腕の力は随分と弱々しくて、俺はそこに勝手に名残惜しさを感じてしまった。
 いや、本当はただ自分の願望を反映させているだけかもしれない。

 アリオスを抱きしめて感じたのは、意外な程の心が落ち着きだった。
 安らぎとは又ちがう、しっくり来るというのが一番近い。
 アリオスの公爵家当主としての責任感を伯爵家三男の俺が理解することはきっと難しい。
 なのに俺は彼の傷に自分の傷を重ねて、同じ形だと暗く微笑むような気持ちになった。

 そのことに戸惑い、自分からもアリオスに距離を取る。 
 砕けた口調を心掛け作り笑いを張り付けた。

「あはは、ごめん、急に変なことして」
「いや、変なことではなかった。理由は不明だが凄く安心できたと、思う」

 又して欲しい。そう強請る様に言われてすぐ抱きしめたくなるのを必死に耐えた。
 俺、もしかしたら弟が欲しかったのかもしれない。
 でもアリオスがそれでも体を離したのには理由があるに違いない。

「わかった、して欲しい時に言ってくれたらいつでもするから」
「嬉しい」

 その言葉とともにアリオスがふわりと微笑んだ。
 まるで真冬に咲いた向日葵を見たような衝撃が俺を襲った。
 余りに眩しすぎて目を一度閉じて開いたら、その笑みは消えていた。もしかして幻だったのかもしれない。
 アリオスのことを一気に可愛いと思い過ぎた結果そんなものまで見えるようになった可能性はある。
 目をごしごしとこすってると心配そうな声が投げられる。
 心配そうというのも俺の勝手な思い込みかもしれない。まずい、自分が信じられなくなってきた。


「どうした、大丈夫か」 
「だ、大丈夫。それよりも俺の両親の話をしよう」 

 アリオス側の話を聞き続けると彼を不憫に感じる気持ちが強くなり過ぎてしまう。
 そう判断して俺は話題を自分側へ無理やり戻した。
 良くない内容だとは予想できている。いや、今の時点で最悪に片足を突っ込んではいるが。

 俺の親はアリオスが男色家だと誤解した上で男の俺を、多分そういう用途で差し出したのだろう。
 取り柄無し穀潰しの三男だし、婚約も解消したしで煮るなり焼くなり好きにしてくれという感じだろうか。
 多分彼らは俺が伯爵邸に戻らなくても良いと思って送り出したんだな。寧ろ帰ってくるなという感じか。
 じわじわ苦しい気持ちが胸に広がっていく。
 エストがいたら涙の一粒ぐらい零していたかもしれない。

 唇を噛んでそれを耐える。大丈夫、俺は底の底の部分ではタフなんだ。
 感情など二の次、やるべきことだけを考え続ければいい。昔どこかでそう学んだ。
 
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