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第一章

第21話 スキル付与

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 ミアン・クローベルは凄腕の魔術師である。
 この短時間に無詠唱で炎の孔雀を生み出して平然としている人間が何年も銀級にいるのはおかしい。
 その芸術品のような真紅の鳥に好奇心で触れてみれば一瞬で灰にされるだろう。

 しかし木でつくられた台所が燃え出す気配は一切無い。
 ミアンが炎の鳥を自身の魔力でコーティングし延焼を防いでいるのだ。
 つまり彼女は出力と完璧な制御、どちらも優れている。

 そしてそれだけの逸材なのに銀級で燻り続けている理由。


「私ね、本当に無理なの。こういう髪も短くて化粧もしてなくて女を意識させませんってタイプ?」


 ツインテールの魔女の目は俺たちを見ているようで見ていない。
 桜色に塗った唇から漏れる言葉も独り言のようだった。


「しかもまだ十代で?パーティーの最年少で?ちゃっかりリーダーと寝ていて?」

「お、おいミアン」

「別にいいのよ、あんたが誰と寝ようが。私が大っ嫌いなタイプの女以外なら」


 孔雀が燃え盛る羽を広げる。術者の怒りを代弁するように。
 それが魔物や強敵に対する威嚇なら頼もしい事この上ないだろう。
 でも現実は勝手に誤解して暴走して仲間を焼き殺そうとしているに過ぎない。 
 
 どれだけ性能に優れた火器だろうと暴発癖があるなら使おうという者は居ないだろう。
 寧ろ高火力な分だけ手元に置く危険が跳ね上がる。
 

「だから、俺とクロノはそういう関係じゃないって!!」

「いつだって男はそう言うのよ。私の炎が怖いから……。いつもその時だけ、もううんざりよ!」


 ミアンは武器でなく人間である筈なのに全く言葉が通じない。


「他の男なんて知るかよ!お前の炎は怖いけど、勝手に決めつけるな!!」

「ほらやっぱり怖いんじゃない!だから陰で浮気してたんでしょ!」


 別に俺たち恋人じゃないだろう。その指摘は喉奥で瞬殺した。
 だが何を言えば正解なのか全くわからない。抱きしめて色仕掛けでなあなあに出来る雰囲気でも距離でもない。
 ミアンと俺たちはテーブルを隔てて距離を取っている。本当は台所から脱出したいが背を向けた瞬間燃やされそうだ。
 森の中で熊と対峙した人間もこんな気持ちだろうか。

 会話で解決が見込めないなら暴力しかない。
 俺がミアンの意識を言葉で引き留めておくから、クロノが隙を突いて彼女を気絶させてくれないだろうか。
 当然口に出して伝えられる筈が無いので、俺は視線だけで黒髪の少女に意識を託した。
 
 クロノは軽く驚いた表情を浮かべたが得心したように力強く頷く。
 そしてはきはきと宣言した。


「ミアンさん、落ち着いてください。そもそも付き合ってすらいません!!」


 どうして。
 恐怖を忘れて俺は愕然とした。


「……皆死ね、どいつもこいつも死んじゃえ!!」


 火の鳥が甲高い声で咆哮する。
 強く振り払うように羽根が揺れ、掠ったテーブルが一瞬で灰になった。
 そして何かが弾けたように室内が一気に熱くなる。

 クロノの主張は分かる。俺と自分は付き合ってないと言いたかったのだろう。


「落ち着いて、僕たちはそんな関係じゃありません!!」

「うるさい、うるさい、うるさーい!どうせ私は遊びの女でしかないのよ!!」 


 ミアンはヒステリックに泣き叫んでいるし、クロノはひたすら困惑している。
 熱さだけが理由ではない汗がだらだらと俺の頬を伝った。
 魔力封印のスキルが今猛烈に欲しい。知の女神に見せて貰ったスキル本を思い出す。
 剣士であり魔力がほぼない俺には絶対取れない物だと知ってはいるけれど。
 魔術が使えなければミアンはただのか弱い女性でしかない。
 幾らでも泣いて喚いて暴れてくれて構わない。そして彼女が疲れ切った後に説明をすればいい。
 ミアンの魔術さえ、使えない状態にできたなら。


「ミアンさん、ボクの話を聞いてください!!」


 クロノの軽やかでよく通る声が聞こえた。俺は火の熱さで呼吸さえも苦しいのに。
 そういえば術者であるミアンはともかくクロノも汗一つかいていない。
 もしかしたら無意識に己に対して強化スキルを使っているのかもしれない。
 クロノにはそれが出来る。強化も弱体化も、物理攻撃も魔法攻撃も。

 まだ覚醒していない今の段階だって戦闘中祈りで魔物を弱体化させ俺たちを強化していた。
 彼女は自分の真価を知らないだけ、何が出来るのかわかっていないだけ。
  
 きっかけがあれば勇者としての力が爆発する。

 つまり、今の段階でも魔力封印のスキルを取得するだけなら、可能なんじゃないか?
 

「知の女神エレナ!貴女に懇願する!」


 俺は叫んだ。遠いあの神殿で彼女が見守ってくれていると信じて。


「スキル取得譲渡の契約により、クロノ・ナイトレイに魔力封印の技を与えてくれ!!」


 言い終えた刹那、炎の赤を凌駕する眩さが室内に満ちた。

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