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その後

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「エリス、頼む、君しかいないんだ!結婚してくれ!!」

「無理です」

「父も母も君を許すと言っている!!」

「私が貴男を許せないので無理です」


 あの卒業パーティーの後、ヒロインは気が付いたらいなくなっていた。

 どうやら国王夫妻はあの場での出来事の一切を「なかったこと」にすると決めたらしい。

 そうすることでアレンの性癖を隠し通せると思っているのだ。絶対無理なのに。


 そういえばあの出来事から数日後、王妃から私へ一着のドレスが送られてきた。

 可愛らしいデザインのそれは私には柄もサイズも合わない。

 何よりも所々が不気味に黒ずんで引き裂かれていて、私はうんざりした顔でメイドにそれを処分させた。

 ヒロインが卒業パーティーで身に着けていたドレスだということは覚えていた。

 それが送られてきたのは「次はお前だ」という意思表示なのだろう。

 だがそう覚悟した私の元に送り届けられてきたのはなんとアレンだった。無駄に豪華な首輪までつけていた。

 その日以来追い返しても彼は毎日この公爵邸にやってくる。


「絶対君以外と結婚しないと父と母に言い張ったんだ!君の鞭とヒールは最高だからね!」

「そうですか、なので私は未だに死刑にならないのですね」


 どうやら国王夫妻はこんな息子でも可愛いらしい。

 だから彼に大勢の前で恥をかかせ足蹴にして罵倒した私を処分しないようだ。

 全部アレンが予想以上に私に夢中になったからである。


「だからエリス、再び俺の婚約者に……」

「誰が豚の婚約者になんてなるか」

「きひンっ」


 そう言って勝手に机の下に潜り込んだ彼を蹴り飛ばす。

 話は変わるが次期国王のアレンが私に執着するようになった結果、公爵の父は私に強く出られなくなった。

 寧ろ私の機嫌伺いをするようになった。我が親ながら情けないことだ。

 そんな父に依然やられた仕返しで鞭を使ったところ、なんと彼まで目覚めてしまった。


「そうだよ、エリス……お前は、いや貴女様はずっとこの屋敷の女王として……」

「うるさい、豚は豚小屋にいなさいって何度言ったらわかるの」

「ひゃんっ!」


 机の上の花瓶を部屋の入口に投げつける。

 アレンを連れてきた後、こっそりと中を伺っていた父親にクリーンヒットした。

 顔で自ら受け止めにいったのを確認してうんざりする。


「二人、いや二匹ともまとめて出荷したいわね……」


 私は溜息を吐きながらアレンの腹を踏みつける。三十分ほど甚振れば満足して帰るだろう。

 卒業パーティーでブチ切れた結果、処刑ルートは回避できた。

 けれど代わりに別の地獄が生まれた。

 一番嫌なのは、私がこの二人を屈服させることに徐々に快感を覚え始めていることである。
  

 私はすっかり足に馴染んだ婚約者の感覚にうんざりしながらこの国と自分の行く末を憂いた。 

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みんなの感想(2件)

penpen
2023.12.28 penpen

フラッと立ち寄り読ませていただきました(*´艸`*)
   _ノ⌒\_ノ
  /
 (\ .∧,,∧
  ヽ( ・Д・ ) ピシーッ!
  |  ⊂ )
  し ̄\)

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卯月菜々
2023.12.03 卯月菜々

面白かったです。「女王として君臨」、そういう意味かあ〜(≧∇≦)

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