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愚かと呼ばれた第一王子の章

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「私の隣にフィリア嬢が居ないのをおかしいと思わなかったかな? ……命令した内容と違うと」
「レ、レオナルド様……」
「いいよ、公爵邸の中と同じように馬鹿王子と呼んでくれて。ねえ、クラウス公爵令息」

 君たち兄妹の中での私のあだ名はそれで合っているよね。
 急に話を振られ、アレクサンドラとよく似た顔立ちの美青年が真っ青になった。
 彼はクラウス・ヴァーレ。
 アレクサンドラの実兄で一昨年貴族学校を優秀な成績で卒業していた。
 女性からの人気は非常に高いが自他ともに認めるシスコンである。

「君たちは私が驚くぐらい親密だからね。君も出来損ないの私が身分をかさにアレクサンドラの婚約者でいることが気に入らなかったのだろう?」
「そ、そんなことは……心外であります」

 氷の貴公子と名高いクラウスのしどろもどろの弁明をレオナルドはあっさりと無視した。
 そして新たな爆弾を投下する。

「君はアレクサンドラと血が繋がっていなければ彼女を妻にしようとしただろうね」
「なっ」
「でも妹君の方は拒むだろうけれど。彼女には今愛している男性が別にいるから」
「……は?」
「私の弟、ルーカスだよ。もしかして知らなかったのかな?」

 妹と同じように口をぽかんと開ける公爵令息を第一王子は無表情に見つめた。
 そして正面にいる婚約者へ向き直る。

「公爵令嬢である君を冤罪で陥れ追放すれば男爵令嬢のフィリアを妃に迎えることができる、か……」 

 私はそんなことを本気で考え実行する程愚かな男だと皆に思われていたのだね。
 レオナルドの寂しげな呟きにアレクサンドラは苛立ちを返す。

「恐れ入りますがレオナルド様、それは事実ではありませんか。だから婚約を破棄したいのでしょう?」
「違うよ。私は王と現王妃の意向を受けて君と婚約破棄をするんだ」

 それが私の周囲にいる者たちの願いみたいだから。
 一瞬泣き笑いのような表情を浮かべレオナルドは話し始めた。

「君は自分と同じぐらい優秀なルーカスと結婚したかった。しかし同時に王妃にもなりたかった」
「か、勝手なことを仰らないでください」」
「何より王と現王妃は私ではなくルーカスを王の座に就けたかった。愛し合う二人の血を受け継いだ子供を」

 第一王子の発言に生徒の保護者が何人か険しい表情をする。
 レオナルドの母は隣国アウルから政略で輿入れしてきた姫だった。
 彼女がレオナルドの出産後亡くなりその喪が明けた途端王はすぐに新たな王妃を迎えた。元伯爵家の娘だ。
 それがルーカスの母で現王妃のカミラだった。
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