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愚かと呼ばれた第一王子の章

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「彼女は王家、いや国王の影の一人だろう? 国籍すら与えられず汚れ仕事を任されるものたちだ」
「まさか……影の存在を知っていたのですか?!」
「これでも第一王子だからね、出来は悪いが王子教育はこれでも真面目に受けていたんだよ」

 それでもルーカスや君と比べて愚かであるという評価は事実だけれど。
 暗い目で呟くレオナルドに対し、そういえばと生徒の一人が話し始めた。

「試験後張り出された結果でレオナルド殿下の成績はクラスでは中の上でした……」
「確かに、アレクサンドラ嬢は首位だったから差はあるけれど」
「成績優秀者専用の組の中でだから、噂になる程悪くは無いような……」

 どうして自分たちはレオナルド第一王子に対して暗愚な印象がこれ程強いのか。
 今更その事実に気づき始めた生徒たちが不気味そうに呟き出す。

「王家とヴァーレ公爵家が組んで情報統制をはかったからね。私には味方もいないし簡単だっただろう……君と違ってねルーカス」

 そうレオナルドは扉の近くで腕組みをしている銀髪の青年に呼び掛けた。
 二人は顔立ちは微妙に似ているが髪の色が違う。
 ルーカスと呼ばれた青年は険しい表情で動かなかった。

「君は愚かな私が断罪したアレクサンドラを颯爽と救う役割かな?似合いそうだね」
「……何のことでしょう、兄上」
「君が王になるといいよ。私はもうこの国も父も君もこの女もいらないから」

 レオナルドはそう告げ、アレクサンドラを突き飛ばした。

「きゃあああっ!無礼者!」

 公爵令嬢が騒ぎながら尻もちをつく。

「サンディ!……出来損ない王子の癖に妹になんて真似を!」

 アレクサンドラの兄、クラウスが怒りに満ちた声でレオナルドを責める。
 その無礼を咎めることもなく第一王子は微笑んだ。

「うん、だから出来損ないの邪魔者王子は退出させて貰うよ……やってくれ、フィリア」

 彼が最後だけ小声で呟いた直後、轟音と共に室内が暗闇に包まれる。
 レオナルドの真上にあった巨大なシャンデリアが落下したのだ。
 連動するかのように他の照明も消える。

 濃い血の匂いがパーティー会場に漂う。
 やがて明かりがともり、その原因に気づいた者たちが次々に悲鳴を上げた。
 レオナルドの名を呼ぶものも居た。
 しかし答えが返ることはなかった。

「……ふ、ふふ、弱い男。だから駄目なのよ」

 へたりこんだアレクサンドラがそれでも薄く笑う。死人に口なしという言葉を頭に思い浮かべて。
 兄のクラウスはそんな彼女に戸惑いながら恋人のように抱きしめた。
 シャンデリアの残骸を注視していたルーカスは二人の様子に気を払うことはなかった。 

 そしてその翌日、第一王子レオナルドの事故死が王室から貴族と民たちへ報じられる。
 更に数日後川で少女の水死体が発見されたが身元不明のまま忘れ去られた。

 卒業パーティーの惨劇から半年後、王太子となったルーカスと公爵令嬢アレクサンドラの婚約が発表された。
 しかし二人が期待する程周囲には祝福されなかった。

 この優秀な美男美女の婚約は踏みにじった犠牲者の血の上に成り立っていることが水面下で噂になっていたのだ。

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