勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

文字の大きさ
13 / 66
第一章

十二話

しおりを挟む

 エミリアさんの宣言の後、流石に汚れた服で外に出る訳にはいかず私は自室で着替えることになった。

 なるべく急いで上着を取り換えて階下に降りるとミランダさんがエミリアさんに向かって何か呪文を唱えていた。

 私が戻るタイミングで終わったらしく、エミリアさんが私に駆け寄る。

 そして朗らかな笑みで私を見て叫んだ。


『準備はできましたか、アデリーンさん!!』

「……えっ?」


 予想していた音の暴力は訪れなかった。

 エミリアさんの表情と口の開き方からして声音を加減しているとは思えない。

 けれど、実際に私の耳に聞こえるのは囁き声を少し大きくした程度の音量なのだ。


消音の魔法サイレントよ」

「消音の魔法……ですか」

「流石にあの調子でエミリアが村を歩き回ったらご近所迷惑になるでしょう」


 やはりミランダさんは気遣いの人らしい。助かりますと私は頭を下げた。


「それと、私はこの家に残るわ。色々確認したいことがあるし……構わないかしら?」

『宜しくてよ!!』

「……私は貴女じゃなくて家主であるアディちゃんに聞いているのよ、エミリア」

「あ、大丈夫です。散らかっていますけれど……」

「じゃあ不躾だけれど家を調べさせて貰うわね……あと、良ければ鍵をつけてもいいかしら」

「鍵、ですか?」


 唐突なミランダさんの提案に私は首を傾げる。

 彼女はその豊かな胸の前で腕組みをすると、子供を諭すような表情で私に言った。


「私も地方の村出身だからわかるけれど、女性の一人暮らしで鍵をかけないのは流石に無防備すぎるわ」

『そう言えばライルの家もそうでしたわね!!そういう文化なのですか?』


 エミリアさんに言われて改めて考える。

 確かに生まれてから今までこの村で暮らしていたが自分の家も他の家も鍵をかけている所を見たことがない。

 だから文化といえば文化なのかもしれない。

 変わっているかもしれないがそれで困ったことはなかった。


「でも鍵があったらライルやリンナという女性に入り込まれることはなかった筈よ?」


 ミランダさんにそう正論を言われ私は素直に鍵の取り付けをお願いした。

 彼女の話し方は落ち着いていて、まるでしっかり者の姉のようだと思う。


『でも今まで鍵なしで全く問題がなかったなんて、この村は善き人々ばかりいらっしゃるのですね!素晴らしいですわ!』


 エミリアさんに手放しで村を褒められて面映ゆいが嬉しさを感じる。

 ただ彼女の言葉に重ねるようにマゼンダさんが発した言葉が気になった。


「……善人ばかりだからこそ、ライルの帰還が許されたのでしょうね」


 その発言の意味を聞こうとした所、エミリアさんに呼びかけられる。


『アデリーンさん、まずはライルがお邪魔しているというレンさんのお宅に伺い、その後リンナさんに会う事にしましょう!!』

「は、はい」

『では案内をお願いしますわ!!』

「えっ、」


 案内をお願いすると言った次の瞬間には外に駆け出しているエミリアさんを追って私も慌てて家を出る。

 こう、動物に例えては失礼かもしれないけれどエミリアさんは元気のあり余り過ぎた犬のような人だ。

 遅延魔法スロウもかけておけば良かったかしら、背後からミランダさんの呆れたような声が聞こえた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...