勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

三十四話

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 ミランダさんがくれた丸薬は予想したよりも数十倍は酷い味だった。

 子供に含ませたら火が点いたように泣き出すだろう。

 幼い頃熱が出る度薬湯を飲みたくないと大騒ぎしていたライルを思い出した。

 ライルの家族も私の家族も誰一人かけていなかった遠い昔の話だ。

 彼の盛大な泣き声に隣屋の私や姉さん、そして遊びに来ていたレン兄さんが様子を見に行くこともお馴染みだった。

 まだ少年だったレン兄さんに「元気になったら思う存分遊んでやる」と約束され頑張って薬湯を飲み干していたライル。

 二人はあの頃、本当の兄弟のようだった。

 けれどライルを庇いレン兄さんが隻腕になってからは、二人が一緒にいる姿を見ることは少なくなった。

 魔物は命だけでなく、大切な関係まで奪っていった。

 どろりとした感情が内側に蠢き始めたことに気づき奥歯で丸薬を噛み締める。


「……っ、う」


 苦さを通り越して痛みさえ感じるその味に無理やり気持ちが引き上げられるのを感じた。

 そうだ、過去のことを思い出し鬱々としている場合ではない。


「アディちゃん、大丈夫?」


 そうこちらを心配して声をかけてくるミランダさんに首を縦に振る。

 口内は大惨事だが、そのお陰か体には変な活力が漲っていた。

 さっさと終わらせて思う存分口の中を水で洗い流したい。


「大丈夫れす、はやく地下室に行きましょう」
 
「……わかったわ。じゃあ私が先に下りて確認するわね」


 その台詞と同時にミランダさんが地下へ続く穴へ身を投げる。

 あまりにもあっさりとした動作だったので一瞬彼女が急に消えたのかと思ってしまった。

 慌てて入り口に手をかけて中を覗き込むが闇が濃すぎて魔女の姿を確認できない。


「ミランダさーん!!」

「大丈夫よー、浮遊の術を使ったからー」


 穴の底に向かって張り上げた声に、大きめの間延びした声が返ってきてほっとする。

 しかし高い所から落ちても平気だし重い物も持ち上げられるなんて便利すぎる。 

 何を今更と思われるかもしれないが、魔法ってなんというか凄い。身一つで色々なことができる。

 そんなことを考えていると穴の中からミランダさんの声が聞こえてきた。


「聞こえてるー? 地下は植物系の魔物がそれなりの数いて、今一斉に襲ってきている最中よー」

「ええ?!だ、大丈夫なんですか!!」

「平気よーでも軽く全滅させてからアディちゃんは迎えに行くわねー」 


 それまで待っていて。あっさりとそう言われ会話を打ち切られる。

 恐怖も気負いも全くないその声は歴戦の戦士としての慣れからくるものなのだろう。

 魔法というよりミランダさんその人が凄いのかもしれない。私はそう考えを改めた。
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