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第一章
三十九話
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「入るわよ……リンナ」
私は扉の向こうに声をかける。返事はなかった。聞こえなかっただけかもしれない。
ミランダさんが私を遮るようにして前に出る。そうして慎重な動作でドアノブに手をかけた。
何の仕掛けもなく扉はあっさりと開いた。
ミランダさんはそれでも私の前という立ち位置を変えない。
恐らく危険な目に遭わせない為だろう。
彼女の華奢な肩越しに開かれた先にあるものを私は探した。
意外な程にあっさりとそれは見つかる。
「リンナ……」
広くない部屋の奥、土色の壁に磔られた生白い女体。
それは紛れもなく朝私と言葉を交わした少女だった。
初見では上半身のみが浮かんで見えてぎょっとしたが、よくよく見れば腰から下は地中に埋まっているようだった。
その下半身が、本当に人間の下半身のままであるとは思えないけれど。
彼女は驚くことに裸だった。それでいて首飾りやら腕輪やらを幾つも身に着けている。
その中の一つに見覚えがあった。怒りがふつふつと湧き上がる。
それに気づいたようにリンナはにたりと笑った。
「……返しなさいよ、それ!」
私はミランダさんの肩を掴むようにして前へ出る。その時に小さく驚いたような声がした。
遮るもののない視界がリンナを正面から捉える。彼女は馬鹿みたいに首飾りを幾つも巻いていた。
その中の一つは、姉さんの遺品だ。
それは彼女がレン兄さんから贈られた宝物だった。
「盗みだけじゃなく墓荒らしをまでする程落ちぶれたの?!」
「落ち着いて、アディちゃん」
窘める声が聞こえる。ミランダさんのものだ。
リンナは相変わらず笑みを浮かべたまま一言も話さない。
だから確信する、この反応は彼女を楽しませるだけなのだと。
私はミランダさんに謝罪をした。私はもっと冷静でいなければいけない。
けれど、冷静に見えすぎてもいけない。
「……何か言いなさいよ、リンナ」
自分のものだと信じられない程掠れた低い声で私は悪趣味に飾られた裸体に話しかける。
装飾品が恐らく盗品であることを覗いても無様さしか感じない姿だ。
リンナは決して不美人ではない。
しかし裸の上半身にちぐはぐな装飾品を自慢げに身に纏う姿は子供がごっこ遊びをしているような幼さがあった。
表情が泣き出しそうに恥じているものなら同情しただろうが、寧ろ鼻息が聞こえてきそうな程得意げな様子なのだから滑稽でしかない。
「その姿……妖花の女王、アルラウネの真似かしらね? 素朴なお嬢さんには似合っていないと思うけれど」
落ち着いた声が私の隣から発せられる。リンナの表情がピクリと歪んだ。
妖艶な美貌のミランダさんとリンナではどうしたってリンナの方が見劣りをする。
だからという訳ではないだろうが、目に見えて彼女の顔には敵意が浮かんでいた。
アルラウネという名前は御伽噺で聞いたことがある。茨に囲まれた城で暮らす女王の名前だ。
とても美しい姿をしているが正体は魔物で、旅人たちを惑わしては茨の養分にするのだ。
英雄により暴かれた真の姿は下半身は無数の茨、そして裸の上半身には金の首飾りと腕輪を纏った魔性だった。
ただ異形となっても英雄が殺すのを惜しむ程に女王アルラウネは美しかったのだ。
そうか、あれの真似をしたのか。同じように植物の魔物になったから。
「……でも盗品で身を飾って女王気取りなんて、惨めなだけだわ」
素直な感想として言葉を述べただけだった。
けれどそれは先程の私の糾弾などより余程リンナの心を揺らしたのだろう。
「うるさいっ!!」
ヒステリックな叫び声に合わせて胸と首飾りが揺れる。
そしてリンナの大きく開かれた口から飛び出した根が私に向かって襲い掛かってきた。
私は扉の向こうに声をかける。返事はなかった。聞こえなかっただけかもしれない。
ミランダさんが私を遮るようにして前に出る。そうして慎重な動作でドアノブに手をかけた。
何の仕掛けもなく扉はあっさりと開いた。
ミランダさんはそれでも私の前という立ち位置を変えない。
恐らく危険な目に遭わせない為だろう。
彼女の華奢な肩越しに開かれた先にあるものを私は探した。
意外な程にあっさりとそれは見つかる。
「リンナ……」
広くない部屋の奥、土色の壁に磔られた生白い女体。
それは紛れもなく朝私と言葉を交わした少女だった。
初見では上半身のみが浮かんで見えてぎょっとしたが、よくよく見れば腰から下は地中に埋まっているようだった。
その下半身が、本当に人間の下半身のままであるとは思えないけれど。
彼女は驚くことに裸だった。それでいて首飾りやら腕輪やらを幾つも身に着けている。
その中の一つに見覚えがあった。怒りがふつふつと湧き上がる。
それに気づいたようにリンナはにたりと笑った。
「……返しなさいよ、それ!」
私はミランダさんの肩を掴むようにして前へ出る。その時に小さく驚いたような声がした。
遮るもののない視界がリンナを正面から捉える。彼女は馬鹿みたいに首飾りを幾つも巻いていた。
その中の一つは、姉さんの遺品だ。
それは彼女がレン兄さんから贈られた宝物だった。
「盗みだけじゃなく墓荒らしをまでする程落ちぶれたの?!」
「落ち着いて、アディちゃん」
窘める声が聞こえる。ミランダさんのものだ。
リンナは相変わらず笑みを浮かべたまま一言も話さない。
だから確信する、この反応は彼女を楽しませるだけなのだと。
私はミランダさんに謝罪をした。私はもっと冷静でいなければいけない。
けれど、冷静に見えすぎてもいけない。
「……何か言いなさいよ、リンナ」
自分のものだと信じられない程掠れた低い声で私は悪趣味に飾られた裸体に話しかける。
装飾品が恐らく盗品であることを覗いても無様さしか感じない姿だ。
リンナは決して不美人ではない。
しかし裸の上半身にちぐはぐな装飾品を自慢げに身に纏う姿は子供がごっこ遊びをしているような幼さがあった。
表情が泣き出しそうに恥じているものなら同情しただろうが、寧ろ鼻息が聞こえてきそうな程得意げな様子なのだから滑稽でしかない。
「その姿……妖花の女王、アルラウネの真似かしらね? 素朴なお嬢さんには似合っていないと思うけれど」
落ち着いた声が私の隣から発せられる。リンナの表情がピクリと歪んだ。
妖艶な美貌のミランダさんとリンナではどうしたってリンナの方が見劣りをする。
だからという訳ではないだろうが、目に見えて彼女の顔には敵意が浮かんでいた。
アルラウネという名前は御伽噺で聞いたことがある。茨に囲まれた城で暮らす女王の名前だ。
とても美しい姿をしているが正体は魔物で、旅人たちを惑わしては茨の養分にするのだ。
英雄により暴かれた真の姿は下半身は無数の茨、そして裸の上半身には金の首飾りと腕輪を纏った魔性だった。
ただ異形となっても英雄が殺すのを惜しむ程に女王アルラウネは美しかったのだ。
そうか、あれの真似をしたのか。同じように植物の魔物になったから。
「……でも盗品で身を飾って女王気取りなんて、惨めなだけだわ」
素直な感想として言葉を述べただけだった。
けれどそれは先程の私の糾弾などより余程リンナの心を揺らしたのだろう。
「うるさいっ!!」
ヒステリックな叫び声に合わせて胸と首飾りが揺れる。
そしてリンナの大きく開かれた口から飛び出した根が私に向かって襲い掛かってきた。
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