キミとふたり、ときはの恋。【立葵に、想いをのせて】

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
32 / 85
キミとふたり、ときはの恋。【第二話】

立葵に、想いをのせて【6−1】

しおりを挟む



「涼香ちゃん、早く早く! あ、あそこに行きましょう。涼香ちゃんの希望通り、端っこが空いてますよ」
「あ、うんっ」
 小さな身体で器用に人波をすり抜けていく萌々ちゃんに遅れないよう、小走りでその後ろに続く。
「はい、バッチリ端っこを確保できましたよ。ここなら気楽に見学できますね」
「うん。ここなら大丈夫よね?」
 ぐるりと周囲を見回して、自分が今いる場所があんまり目立たないことを確認してから、にっこり笑いかけてくれた萌々ちゃんに笑い返した。
「でも、ごめんね。私のせいで、ちょっと見えにくいかも」
「別に構いませんよー、どこでも。それに、今日は私が強引に誘ったんですからね。いつも、ぼっち見学だから、涼香ちゃんが一緒に来てくれて嬉しいです」
「萌々ちゃん……ううん。私こそ、誘ってくれてありがと。私、萌々ちゃんに誘ってもらえたから、来る勇気が出たんだと思うの。えーと、でもね? 今ものすごくドキドキしてきちゃって……どうしよう?」
「もう! 何、言ってるんですか!」
 正直にドキドキを伝えたら、肩をパシンとはたかれた。
「練習が始まったら、もっともっとドキドキしますよ。心臓がヤバいことになっちゃうんですからね!」
 えぇっ、そんなに? 昨日観た試合よりも、もっとなの? 心臓、どうしようっ?

 今日、萌々ちゃんに誘われて、高校バスケ部の練習を初めて見学しに来た。
 目立たないように、端っこでこっそりと見るつもりだけど。奏人、気づいてくれるかな?
「あ、練習の準備が始まりましたよ」
「ほんとだ。やっぱり一年生が準備するのねぇ」
 常陸くん、高階くんに武田くん。知ってる部員さんたちが雑談しながら用具室に向かっていく。奏人は、どこかしら? 姿が見えない。
「あれ、白藤さん? 珍しいね、見学に来るなんて。てゆうか初めてなんじゃない?」
「おっ、白藤ちゃんじゃーん。何、何? 俺様の勇姿を拝みにきてくれたんかぁ? 慎ちゃん、めっちゃ張り切っちゃう!」
「えぇっ?」
 奏人の姿を探してたら、用具室からボールを出してきた高階くんと武田くんが立ち止まって声をかけてきた。
 え? え? なんでわかったの? 私、萌々ちゃんの後ろに隠れてるのに。というか、武田くんの声が大きすぎ……。
「武田くん、私もいますよ。スルーしないでください」
「お、おう。花宮ちゃんもよろしくな」
 良かった。萌々ちゃんのおかげで武田くんが静かになってくれたわ。ところで、奏人は……。
「あ、土岐を探してるんでしょ? まだ来てないよ。部室で着替えてる時に、都築さんが呼びにきてさ。一緒に監督のところに行ったんだよ」
「あ……そう、なんだ」
「基矢とキャプテンも呼ばれたから練習メニューの打ち合わせかなぁ。たぶんだけど」
 高階くんの声に、奏人を探すためにちょっと背伸びしてた踵が、ぱたんと床におりた。
 私、おかしい。一色くんも一緒だって聞いたはずなのに、胸の奥で、チクリとトゲが動いた気がした。

「まぁ、すぐに戻ってくると思うし。ゆっくり見学してって」
「うん、ありがとう」
 片手を上げて準備に戻った高階くんに笑い返したけど、心から笑えてないって自覚してる。
 こんなんじゃ駄目だわ。気持ちを切り替えなくちゃ。取りあえず、顔のマッサージを……。
「何、それ?」
「……っ、きゃあっ!」
「うるせぇ」
 こっそり口角マッサージをしようと壁に顔を向けたら、すぐ真後ろに煌先輩が壁に片手をついて立ってたの。
 ほんとに、すぐ真後ろ。煌先輩の肘に、横を向いた時に前髪が擦れたんだから、びっくりして叫んじゃっても仕方ないと思う。
「煌兄ちゃんっ?」
「萌々。コイツ、何?」
「あの、け、見学……」
 煌先輩は萌々ちゃんに尋ねたけど、『コイツ』って指差された私が答えなくちゃと思って、ここにいる理由を伝えた。見てわからないはずないのにな、と思いながら。
「違う。お前、今、泣きそうな……」
 目の前にあった腕が、首の後ろに回った。周囲がざわめいたような気がしたけど、私は今、それどころじゃない。だって、煌先輩の瞳が、近……。
「――何、してるの?」
 そこに飛んできた、鋭い声。固まっていた身体が、さらに硬直した。

「ここで、何してるの? 白藤さん」
 横から飛んできた鋭い声は、都築さんのもの。それはちゃんとわかってるけど、そっちが見られない。振り向けない。
「花宮先輩、橘先生がお呼びです。指導室までお願いします」
 私へのものと同じトーンで、煌先輩にも都築さんが声をかける。
「……チッ」
 それに対して聞こえてきた舌打ちに、ぴくりと肩が動いた。煌先輩、至近距離でそのお顔、こ、怖いですぅ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果

汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。 あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。 各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。 *☼*――――――――――*☼* 佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳  文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務  仕事人間で料理は苦手     × 各務 尊(かがみ たける) 30歳  実花子の上司で新人研修時代の指導担当  海外勤務から本社の最年少課長になったエリート *☼*――――――――――*☼* 『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。 ―――――――――― ※他サイトからの転載 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※無断転載禁止。

私の赤い糸はもう見えない

沙夜
恋愛
私には、人の「好き」という感情が“糸”として見える。 けれど、その力は祝福ではなかった。気まぐれに生まれたり消えたりする糸は、人の心の不確かさを見せつける呪いにも似ていた。 人を信じることを諦めた大学生活。そんな私の前に現れた、数えきれないほどの糸を纏う人気者の彼。彼と私を繋いだ一本の糸は、確かに「本物」に見えたのに……私はその糸を、自ら手放してしまう。 もう一度巡り会った時、私にはもう、赤い糸は見えなかった。 “確証”がない世界で、私は初めて、自分の心で恋をする。

契約結婚のススメ

文月 蓮
恋愛
 研究一筋に生きてきた魔導士のレティシアは、研究を続けるために父に命じられた結婚をしかたなく承諾する。相手は社交界の独身女性憧れの的であるヴィラール侯爵アロイス。だが、アロイスもまた結婚を望んでいなかったことを知り、契約結婚を提案する。互いの思惑が一致して始まった愛のない結婚だったが、王の婚約者の護衛任務を受けることになったレティシアとアロイスの距離は徐々に縮まってきて……。シリアスと見せかけて、コメディです。「ムーンライトノベルズ」にも投稿しています。

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

処理中です...