キミとふたり、ときはの恋。【立葵に、想いをのせて】

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
51 / 85
キミとふたり、ときはの恋。【第二話】

立葵に、想いをのせて【7−1】

しおりを挟む



「あ、良かったぁ。晴れてきたっ」
「涼ちゃん、じっとしてて」
「あ、ごめん。でも晴れてきたよっ、おばあちゃん」
 リビングに再び射し込んできた陽射しに、声が弾む。
 窓際の定位置で真っ白な体躯を丸めてたエビゾウが、それに合わせたように高く鳴いて、今度はソファーに飛び乗った。
 ああぁ、ほんと良かったぁ。天気予報では晴れの予報だったのに、さっきいきなり曇ってきたんだもの。
 これからお祭りに行くのに、雨が降るのかと思ってドキドキしちゃったわ。
「そうねぇ。涼ちゃんの今日に賭ける気合いと意気込みと怨念が、意地悪な曇り空にも効いたんじゃない?」
「え? そ、そうかな。確かに気合いなら充分だけど」
「あら、恋する乙女にはジョークは通じないってこと忘れてたわ。ふふっ」
 ん? ジョーク?
「あーっ! おばあちゃん、最後に『怨念』って付け加えてたーっ! ひどい!」
「うふふっ。今、気づいたの? オトボケさんねぇ。――はい、出来たわよ」
「わぁ、可愛い! ありがとう、おばあちゃんっ」
 うわぁ、うわぁ! 可愛いっ! 私じゃないみたい!
 おばあちゃんのヘアアレンジはいつも可愛いけど、今日の仕上がりは本当に素敵!
 渡された手鏡で後ろ側もバッチリ確認して、 サイドにつけてくれた髪飾りのオレンジ色のポンポンをふるふると揺らしてみた。
 浴衣の画像を見せたら、チカちゃんが『これが良いよ』って選んでくれた髪飾り。私の髪色にも合うって言ってくれたけど、本当だった。さすがチカちゃんだわ。
 ……奏人、どう思うかな? 可愛いって、思ってくれるかな?

「えーっと、ここを持ってこうするのよね?」
「そうそう。それで、おはしょりを整えてから腰紐をここで結ぶのよ」
 髪はおばあちゃんにやってもらったけど、浴衣の着付けは自分で頑張るんだぁ。
「――涼ちゃん、そんなに前に座ってて疲れへんの?」
「えー? だって、シートにもたれたら帯が崩れちゃうもん」
「それはそうやけど……ふふっ、恋する乙女は必死やねぇ」
 むむむ! お母さんてば、ひどい。最後に『ぶふっ』って笑い声が聞こえてきたわよ?
 そりゃあ、今の私の姿勢はおかしいけども!
 帯が崩れるのが嫌で、助手席のシートに後ろ側から抱きつくみたいにしがみついて座ってるけども!
 それもこれも、無事にバッチリ綺麗に着付けられた浴衣と帯を綺麗な状態のまま、車から降りたいってだけなんだもの!
「恋するお客さん、もうすぐ目的地に着きまっせー。お代は、奏人くんのあんまぁい笑顔で結構ですわ」
 やだもう、またお母さんの悪ノリが始まったわ。
 でも、いつもこんな風にからかってくるけど、わざわざ車で神社まで送ってくれる、優しいお母さんだ。だから――。
「へぇ、おおきに。けど、奏人の笑顔はオンリーワンですから、もったいのうて運転手はんには見せられまへんわ」
 ノリにはノリで、返すのよっ。

「わぁ! もう、こんなにたくさんの人が集まってるの?」
「この神社、敷地が結構広くて、このお祭りも大掛かりなことで有名らしいわよ?」
「へぇ、そうなんだー。うん、確かにすごい活気ねぇ」
 すごいわ。まだ明るいのに、人がどんどん集まってきてるんだもの。
 浴衣姿のカップルや、子どもを抱いた親子連れ。女子や男子同士のグループが、ニコニコお喋りしながら階段を上がり、大鳥居をくぐっていくのが見える。
 その向こうに続いてるだろう参道に、たくさんの提灯が飾られてるのも見えてるから、私のテンションも上がっていく。
「ところで涼ちゃん、どうする? 待ち合わせ時間には少し早いから、この辺りをもう1周回ってもええわよ?」
「あー、うん。どうしよっかなー?」
 お母さんからの提案に、スマホで時間を確認しながら頭を巡らせた。
 神社の駐車場が満車で、車を長くとめてられないから、こう言ってくれてるんだよね?
「お母さん、このままここで降ろして? まだ全然明るいし、待ち合わせ時間まで三十分もないし、大丈夫だから!」
 奏人を待つ時間は、それだけで、とっても特別なひと時。その〝特別〟を、今、堪能したいの。
 大鳥居をくぐり、石畳の参道に足を踏み入れると、そこには左右に大きな池が広がっている。
 この池を二分するように造られた中堤が参道になっているの。
 中堤からは池に水上橋が伸びていて、その端に六角形の屋根がかかってる浮見堂があるんだけど、そこが奏人との待ち合わせ場所。
 水上橋に向かうために、手前にある石造りの太鼓橋のスロープを履き慣れない下駄で一歩一歩のぼっていた時、奏人からのメッセージを受信した。
『ごめん。二十分ほど遅れるから、まだ車の中にいて。また連絡する』
 ……ありゃ。うーん。でも、もう車から降りちゃったもんねー。仕方ないよね。
 だから、『大丈夫。気をつけて来てね』とだけ返信した。

 浮見堂は、ちょっとした休憩スペースになっていて、池に隣接してる植物ゾーンのお花たちを眺めることが出来た。
「わぁ、この神社にも立葵が咲いてるのねぇ」
 花菖蒲の綺麗な紫色や白色の向こうに、凛と伸びる立葵のピンクを見つけて、思わず声があがった。
 まだ日暮れには早いけど、もうライトアップがされてて、バックの木々から浮かび上がるように見えるお花たちに見惚れてしまう。
 奏人が来たら、近くまで見にいってみようかしら。
 ライトアップしてるくらいだから行けるよね? えーと、あそこに行くには……。
「なぁ、君、一人で来たの? ならさ、俺らと一緒に回んない?」
 もたれてた柱から身を乗り出した時、男の人の二人連れに声をかけられた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果

汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。 あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。 各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。 *☼*――――――――――*☼* 佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳  文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務  仕事人間で料理は苦手     × 各務 尊(かがみ たける) 30歳  実花子の上司で新人研修時代の指導担当  海外勤務から本社の最年少課長になったエリート *☼*――――――――――*☼* 『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。 ―――――――――― ※他サイトからの転載 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※無断転載禁止。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

私の赤い糸はもう見えない

沙夜
恋愛
私には、人の「好き」という感情が“糸”として見える。 けれど、その力は祝福ではなかった。気まぐれに生まれたり消えたりする糸は、人の心の不確かさを見せつける呪いにも似ていた。 人を信じることを諦めた大学生活。そんな私の前に現れた、数えきれないほどの糸を纏う人気者の彼。彼と私を繋いだ一本の糸は、確かに「本物」に見えたのに……私はその糸を、自ら手放してしまう。 もう一度巡り会った時、私にはもう、赤い糸は見えなかった。 “確証”がない世界で、私は初めて、自分の心で恋をする。

契約結婚のススメ

文月 蓮
恋愛
 研究一筋に生きてきた魔導士のレティシアは、研究を続けるために父に命じられた結婚をしかたなく承諾する。相手は社交界の独身女性憧れの的であるヴィラール侯爵アロイス。だが、アロイスもまた結婚を望んでいなかったことを知り、契約結婚を提案する。互いの思惑が一致して始まった愛のない結婚だったが、王の婚約者の護衛任務を受けることになったレティシアとアロイスの距離は徐々に縮まってきて……。シリアスと見せかけて、コメディです。「ムーンライトノベルズ」にも投稿しています。

処理中です...